讃岐の誘惑:1
印象派の画家ジャン=バティスト・アルマン・ギヨマンの経歴が面白い。
夜間労働者として昼間に制作を続けたが、1891年に国営くじに当選した後は絵画制作に専念した(目黒区美術館の作品解説より)
誰もがあこがれる不労所得。年末のジャンボな夢は今年も泡沫のごとく消えたが、わたしはあきらめない。今度こそ絶対に当ててやる。
もし宝くじが当たったら、真っ先に退職し(当選金額によっては熟慮のうえ踏みとどまり長期休暇をとって)、念願の四国八十八ケ所巡礼・歩き遍路へと旅立ちたいと考えている。
すなわち、わたしの志は「なにもかもかなぐり捨てて」というほどのものではない。『お遍路ガールズ』という小説はそんな筋で、通勤電車とは逆方向の電車に乗り、スマホを川に投げ捨てて……という導入部だったかと思うが、そんな思いきりも意気地もない。あるのは雀の涙ばかりの社会性と、東京や関西で観たい展覧会や旅行の予定だけなのだが、その域に収まる人のなかでは割に強い志をもっているほうだとは思う。
そんな程度のわたしにぴったりな妥協案を見つけた。その名も「霊峰五色台三霊場参り」。80番札所の国分寺(高松市)から81番の白峯寺(坂出市)を経て82番・根香寺(高松市)まで、丸一日で歩けてしまうコース。とくに白峯寺から根香寺の間にある根香寺道は往時の面影を色濃く残す古い道とのことで、ぜひ歩いてみたい。スタート地点の休暇村では、お遍路に必須の菅笠、白衣、そして金剛杖がレンタルできるなど至れり尽くせりである。まずはこれでお遍路の一日体験をしてみたい。
お遍路にかぎらず、香川県の高松市周辺はわたしにとって魅力に満ちあふれた地だ。魅力がありすぎて、せっかく行くならばまとまった日程を確保し、ありったけのエネルギーを注ぎこみたいという意気込みが先行してしまい、その実行に尻込みをする日々が続いている(完全に仕事ができない人の発想)。
そんなわけで、岡本仁さんの『ぼくの香川案内』に付箋の林を築き、一日遍路体験と組み合わせるためのプラン作成に余念がない。
わたしの香川行のポイントは「四国遍路」を入れて4つあって、2つめは「うどん」である。
うどんよりそば派を長く自称してきたわたしであったが、冷凍うどんの便利さに気づいてからは高頻度でうどんを食べている(それでも、派閥としてはまだそば派のつもりでいる)。
会社近くで食べられる少しユニークでとてもおいしい創作系の天ぷらうどんや、大阪で食べた道頓堀今井のお出汁の利いた鴨のおうどんも、わたしのなかのうどんブームの火付け役。うどんすきの美々卯が関東から撤退してしまったのはかえすがえすも残念であるが、また大阪で食べたいし、京都のあんかけうどんも寒い冬のうちにぜひいただきたいもの……などとまた話が飛んでしまったが、ともかくうどんの本場といえば香川である。
本場の讃岐うどんが食べたい。正確には、香川の人の暮らしに根差した、地元で愛されるお店の味に触れてみたいという思いがより大きい。そのためのリサーチを進めているが、香川に通じた知人もおらず、暗中模索の状態ではある。
とはいえ、有名店も外したくない。考えているのは、行列のできる店として知られる高松市牟礼の「うどん本陣 山田家」。多少並ぶとしても、ここはぜひプランに加えたい。そう思う理由は、味への期待はもちろんのこと、香川行の「ポイント3」にも関連している。(つづく)
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