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[弱キャラ友崎くん]全ての隠キャに読んでほしい。克己のためのセルフプロモーション青春小説!


第二次ラノベブームが来ている。自分の脳内で。


 第一次は高校二年生の頃。「おおかみさん」や「はがない」を入り口にラノベの世界に入ったぼくはラノベと括られるジャンルの多様性にひどく魅了されていた。
その字のごとく小説と漫画の間に立つようなライトな娯楽を体現した作品からライトとは名ばかりのハードSF、ハイファンタジー、あるいは一般文芸にカテゴライズ出来るような幅広いターゲットに受け入れられる名作までなんでもありの小説ジャンルだと思う。そのシナリオ実験場的な不安定で予測のできない物語群に夢中になってのめり込んだものだ。
大人になるに連れて、好きなものをずっと好きでいられない場面にもいくどか直面しながらも、ぼくはまたあのとき時間を忘れるほど愛した世界にまた戻ってきた。

 表題の作品に出会ったのは必然だったと思う。今流行っているラノベを一冊読んでみようと思い立って本屋へ行き平積みしてある中から選んだ一作。見れば、既刊は8巻まで上梓されており、帯にはアニメ化企画進行中とある。
 絶対に期待の水準を下回らないはずだと踏んだぼくは、それを持ってレジへ向かう。

次の日ぼくは、2巻と3巻を持って再び同じ店のレジに並んだ。面白かった。(本記事は3巻まで読了時の感想と書評であることを了解いただきたい)

<あらすじ>
アタックファミリーズという対戦格闘ゲームで日本レート一位に君臨するnanashi こと主人公、友崎文也(ともさきふみや)は同じくレート二位のプレイヤーNo nameとオフ会をすることになった。
オフ会の当日、そこに現れたのは容姿端麗、才色兼備の学校のパーフェクトヒロイン、日南葵(ひなみあおい)であった。
しかし、完璧という概念をそのまま人の形に鋳込めたような人物である葵は、唯一尊敬している人物nanashiが現実では負け組隠キャのキモオタであることを知り拒絶する。
自身の客観的評価に反論できない妥当性を認めつつも、友崎は葵のような強キャラには弱キャラである自分など理解できないのだと反駁する。それに対して、人生におけるキャラの初期ステータスなど意味はないことを確信する日南は友崎をトレーニングすることを提案する。
かくして現実世界の覇者、日南葵の指導による友崎の隠キャキモオタ脱却メソッドが始まるのだった。

弱キャラ友崎くんのここがすごい
ヒロインが登場する全ページ、可愛い率200%!

概してラノベは小説よりも漫画だと思う。
つまり、ストーリーラインや心情の推移、表現の見事さよりもキャラクターの魅力で展開を転がす点において小説的でない。
今作品も例外ではない、1巻からメインヒロインである日南葵をはじめ、計5名のヒロインが登場する。男性キャラクターも含めると一冊の長編にしてはやや人物過多なきらいがあり、不安がよぎったが、大丈夫。全員可愛い。
特にぼくのお気に入りは七海みなみ。日南葵と同じく陸上部のエースにして学業成績もトップクラス、性格は奔放で明るく、表裏がない上に他者を思いやれる。初登場時に友崎の会話の練習対象にターゲットされた彼女と友崎は思いのほか会話が弾む。そして、彼女は友崎の「頭に浮かんだことをそのまま表現できる」という彼なりのコミュニケーションの強みを引き出すに至った。
しかし、日南と同様に文武両道に才能を持つ彼女も常に日南の後塵に背しているという負い目を抱えている。2巻ではこれを基軸にした七海みなみの挑戦と葛藤が描かれる。正直1巻よりも素晴らしいので読んでほしい。

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 1巻から飛ばし気味でヒロインを大量に登場させ、なおかつ個性を重複させずに魅力を引き立てているのはとてもよく研究されていると感じた。
漫画、アニメのヒロイン像は時代の影響を如実に受ける要素の一つだろう。二十年前であれば主人公の粗相に対して鉄拳制裁で応じるヒロインの姿(犬夜叉、フルメタルパニック、シティハンターなど)は笑いを誘う作品の見どころの一つだったが、今ではとんと見なくなった。逆に、アグレッシブな表裏のないヒロインよりも毒のあるヒロインや、周囲から優しさの権化のように思われる評価とは裏腹に他者が知らない葛藤を抱えるヒロインが多く採用されている。彼女たちのそういった人間味のある本質の部分が主人公と秘密の共有として描かれ、これが物語の展開に影響し、それらの解決によってヒロインが主人公に惹かれるという様式が確認できる。ラノベのヒロインがアニメ的なカリカチュアを過去のものとし、より現実の悩みとリンクしてもらえるような人物が増えてきた。

弱キャラ友崎くんのここがすごい
隠キャ脱却のための実践がわりとガチ!

先述のように友崎の隠キャを払拭するために日南は長期計画、中期計画、日常の小目標を立案し、友崎に演習させることで彼を更生して行くというのが、本作の大筋だ。
これに際して、僕たちが日常生活の中で人間関係を表すのになんとなく使ってきた言葉をきちんと定義づけて解説してくれている。

「空気」とはある集団における一時的な善悪の基準である。陽キャがクラスで強い権力を振るえるのはこれを意識的にしろ無意識的にしろ操作する術に長じているためだとは日南葵の指摘だ。
この作品を非凡にする要素はこういった、人間関係のA to Zの中でなかなか言語化せずに感じていた悩みの種や不和の遠因の数々を丁寧に解説している点だろう。社会集団に所属する以上、誰もが必ず無縁ではいられない人間関係という不死身の化け物。これを理解するための解剖学の教科書としてこの作品は普遍的だと言える。

『弱キャラ友崎くん』は自信をもって面白いといえる

弱キャラ友崎くんは、王道のラブコメを踏襲しながら誰もが必ずぶつかる、あるいはぶつかったことのある懊悩に触れている。僕自身は学生時代は部活や生徒会でかなり活動的だったため、本作のでいうところの陽キャ側だった(と信じたい)。
本作で紹介される表情を作る練習や自分の声を録音して実際の聞こえ方の検証をするというのはフィクションのそれとして断じるには馬鹿にできない効果がある。というのも、僕自身も高校時代にバンドをやっていたため、人前に立つに当たってこういった努力をしたことがあり、また手応えも感じたからだ。

今作は自分を変えたい隠キャにこそ真剣に読む価値のある一冊だと思う。そうじゃない人も決して損はしないのでラノベだとアレルギーを起こさず一読してみてほしい。

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(kobo)

画像は以下より引用

『弱キャラ友崎くん』特設サイト
https://gagagabunko.jp/specal/tomozaki-kun/index.html

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