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ビジネスの鍵を握る商標の意味を知る!〜「鬼滅の刃」の羽織柄の商標出願〜

1 「商標」ってどんなもの?!

「『鬼滅の刃』でおなじみのデザインを集英社が商標出願!」というニュースが流れてきました。

 大人気漫画「鬼滅の刃」の関連グッズが大量に出回る中、対処策の1つとして少年ジャンプを発行する株式会社集英社がとった手段でしょう。あくまでも出願しただけであり、商標として登録されるかどうかはこれからになります。

 商標とは、商品の販売やサービスを提供するにあたって、それを示す名称や図形、色彩や模様などのことです。

 新しい商品やサービスを始めるにあたって、その名称をどうするかはとても大切です。インパクトもあって覚えやすく、言いやすいキャッチーな名前や、印象に残ってデザイン性のある図柄を試行錯誤して決めるものです。

 そして、一度決めたら、その名称で各商品やサービスに関する名称として統一的に利用することになります。その場合、多額の経費を投入していくことになるでしょう。

 ただ、ここには大きな落とし穴があります。

 この名称や図柄について、他者が同じ分野で商標登録をし、商標権を持っていた場合、この名称の利用は商標権を侵害することになり、利用できなくなります。その名称や図柄を印字した商品や宣伝広告などはすべて利用できなくなり、多額の投資も無駄になってしまう恐れがあります。

 そのため、商品やサービスの名称や図柄などを決める場合には、商標の「事前調査」が不可欠です。
 事業規模が大きければ、知的財産の専門家である弁理士に、事前調査を依頼することを強くオススメします。確定させて走り出してからではなかなか止まりません。
 ただ、ひとまず、ざっと確認したいのであれば、特許情報プラットフォームJ-Plat Patを利用して、商標の呼称検索をしてみると良いでしょう。

 他人が商標権を持っているものと類似しない商標であれば、これを商標登録することによって、その名称を独占して使うことができるようになります。第三者が無断でこれを使うのを禁止することができます。これが商標権のもつ大きな権能です。

 そして、この商標登録は早いもの勝ちです。
 1日でも早く出願・登録したものが優先して登録され、遅れたものには一切の権利はありません。
ここはとても重要なことです。軌道に乗ってから商標登録をしようと思っていると、少しでも流行ってしまってからではすでに遅く、第三者が商標登録をしていると、間に合わないかもしれません。

2 商標権を取得するための出願とは??

 商標の登録をして商標権を取得するためには、特許庁に商標出願をする必要があります。

 ただし、ここで注意する必要があります。

 まず、❶登録される商品やサービスの範囲(「指定商品・指定役務」と言います)を特定しなければいけないということです。
 商標権は、あくまでも特定の分野でのみ権利を持つことになります。「指定商品」を複数にすることはできますが、どのような分野でそこまで商標をとるべきか、あらかじめ検討する必要があります。
 その名称であれば、どんな商品やどんなサービスでも及ぶというものではありませんので注意が必要です。

 また、❷他の商品やサービスと区別できない用語では登録はできません。このような他と区別する力のことを「識別力」と言います。「識別力」がない商標は登録することができません。また、当該分野における一般用語なども登録することはできません。

 例えば、「Apple」という名称はApple社がパソコンや携帯などの電子機器などでいくつもの分野で当然商標権を取得しています。
 しかし、だからといって、りんごの名称として「Apple」を独占することはできません。これは商標権が指定商品や指定役務の区分ごとに認められるものであり、当該商品や当該サービスに関して、他と区別する意味合い、「識別力」を持つものでなければいけないからです。
 
 登録された商標は®で表します。商標出願中は™で表します。なお、著作権は©で表記します。

 詳しい商標出願の方式については、特許庁のHPでわかりやすく書いております。こちらもご参照ください。

 なお、出願料は、3,400円+(8,600円×区分数)、登録料は28,200円×区分数となります。指定商品や指定役務を増やせば権利の範囲は広がりますが、費用はそれだけかかることにはなります。

3 大人気漫画「鬼滅の刃」から見る商標権の活用

 上記J-Plat Patで検索すると、大人気漫画の「鬼滅の刃」の商標もヒットします。
当初、商標登録されていたものがこちらです。
「鬼滅の刃」という文字自体ではなく、ロゴ自体が商標として出願され、R1.12.20に登録されています。

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 この時点では、スマートフォン関連、文房具関連、被服関連など、5つの分野(区分)で登録がされていることがわかります。
 
 このようにして、このロゴを使う分野の関連商品の製造や販売を予防することができますし、実際に販売された場合にはこの商標権を根拠として販売を差し止め、販売によって得た利益などを賠償請求できることになります。
 著作権と異なり、このような商標があることや登録されているかどうかを知っていなくても、商標権侵害になります。それだけ強力な盾であり、矛でもあるわけです。

 ただ、この後も予想されていた人気が高まり、偽グッズが多方面の商品から出回るようになりました。そのため、株式会社集英社としても、「鬼滅の刃」関連の登録をさらに行い、その保護する範囲を広げようとしています。

 J-Plat Patで「鬼滅の刃」を商標検索すると、以下の結果が出てきます。いずれも集英社株式会社が出願または登録されているものです。「1」〜「3」までは登録済みですが、「4」は新たに出願され、まだ登録には至っていません。これは第8類手動工具(ナイフ、フォーク、アイロン、バリカン等)について追加して登録しようとするものです(以下、J-Plat Patによる検索結果)

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このように、「鬼滅の刃」という文字やロゴマークについて、様々な分野で商標登録をすることで、ブランドを維持しようとしています。
 当然ですが、質の悪い偽物製品が多数で回れば、本来得られるべきであった販売利益を失うことはもちろんですが、さらに公式グッズも道連れになってイメージが悪くなり、信用を失いかねません。

 そこで、集英社はさらにこのような漫画のタイトルのみならず、主要キャラクターの特徴的な衣装、羽織の柄も図形として商標登録を出願したわけです。「『鬼滅の刃』でおなじみのデザインを集英社が商標出願!」(「GAME Watch」)より。

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 これらの図柄について、模様としては昔からあるものであり、商標権を認めると、独占させることになり、妥当ではないという批判もあるようです。
 ただ、あくまでも出願された区分において認められるかどうかが問題となります。昔から布や被服としては一般的なものであったとしても、例えばお弁当箱にこの柄が使われていたかというとそんなことはないでしょう。今、この柄の弁当箱が発売されれば、これが「鬼滅の刃」と関連付けた商品であることはおそらく間違いないでしょう。
 指定商品は、電子機器関連、アクセサリ関連、文房具関連、かばん関連、被服関連、おもちゃ関連とされているようです。

 これらはあくまでも出願されただけで、果たして当該区分との関係で、「識別力」があり、登録がされるかとうかはこれから特許庁が審査することになります。当該指定商品や指定役務において、「識別力」があると言えるかどうか、指定商品や役務ごとに、微妙な判断にはなるように思います。
 そして、仮に商標登録が認められたとしても、どこまで権利行使ができるのかも問題となります。登録された区分を前提としてでしか、権利こうしできないのは当然ですし、独占を認める範囲がどこまでかは慎重に検討され、あまりに広く認めることは妥当でないでしょう。

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