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特殊詐欺を防ぎたい! 「最後の防波堤」と呼ばれる人たち

高齢者らを狙った特殊詐欺が大きな社会問題となっています。「オレオレ詐欺」や「振り込め詐欺」と呼ばれていた頃から警戒が叫ばれて久しいですが、次々と新しい手口が登場し、被害が一向に収まりません。

全国の2022年の被害額は、前年比79億4千万円増の361億4千万円にものぼり、毎日約1億円の被害が出ている計算になります。

こうした中、警察関係者らに「最後の防波堤」と言われる人たちがいます。コンビニエンスストアの店員や、金融機関などの窓口職員の人たちです。

コンビニ店員などの声かけにより被害を水際で阻止した件数は、22年は兵庫県で1671件あり、前年から598件増えました。とりわけコンビニでの防止が多く、県警によると「被害を阻止した人」の内訳では、親族の31.4%に次いでコンビニ店員が27.9%を占めます。金融機関職員も14.7%ありました。

背景には、コンビニ店員さんらの細やかな気配りや、高い防犯意識があります。今回は私、ぶらっくまが、そうしたコンビニでの被害防止例を紹介します。社会全体で被害を防ぐため、店員さんらの「お手柄」が少しでもそのヒントになれば―との思いを込めて。

慌てて電子マネー買う高齢男性に「ぴーん」

 特殊詐欺に新たな手口が次々と登場する中、被害の「防波堤」となっているのが、コンビニ店員や金融機関の窓口担当者だ。兵庫県警によると、2021年に県内で、コンビニ店員らが声掛けして被害が阻止されたケースは、593件と過去5年で最多。被害件数が高止まりを続ける中、捜査や啓発に当たる警察も対応に望みを託す。
 「え、使い方が分からないのに購入するの?」。兵庫県加古川市内のセブン―イレブン店員の女性と夫は昨年7月、慌てた様子で電子マネーを買おうとする高齢男性に対応した。事情を聴くと「時間が…」と額に汗をにじませている。「詐欺だ」と直感した。
 今年1月までの7カ月間で、何と5件もの詐欺を防いだ同店。店員の女性は「普段から困っている人には声を掛けるが、皆さんが『早く払わないと』と焦っていた」と共通点を明かす。
 兵庫県警の統計によると、21年の特殊詐欺の認知件数は859件と、過去5年で2番目に高かった。被害者宅を訪れて現金やキャッシュカードをだまし取るケースは減少したものの、電話で指示してATMから振り込ませたり、電子マネーを購入させたりする手口が増えているという。
 県警生活安全企画課は「『対面型』の逮捕リスクを嫌い、手口が『非接触型』にシフトしている」と指摘。そして「被害者が訪れるコンビニ店や金融機関での対応が重要性を増している。現場に防犯意識が浸透しているのはありがたい」とする。
 県警は新たな対策として、県内金融機関のATMに詐欺への注意を呼び掛ける音声装置や啓発ステッカーを設置した。音声は県内在住のタレント西田ひかるさんや、小野高校(兵庫県小野市)放送部が担当している。
 また、一般への啓発では注意事項の最初の文字を並べたキーワード「おこるでおかん」をPRしている。

2022年4月6日付朝刊の記事

詐欺防いだ「おせっかい」の勇気

 特殊詐欺にだまされていそうな高齢者が商業施設のATMなどにいる時、あなたが店員ならどうするか―。詐欺グループのうそを信じ込み、焦っているのを落ち着かせたり、制止したりして、被害を未然に防いだとして兵庫県尼崎、西宮市内の3警察署長から6人が感謝状を贈られた。当時の状況を聞くと、共通して浮かび上がるのは「おせっかいの勇気」だ。

▼一人で抱え込まない
 見事な連携プレーだった。高齢男性(84)が知人の女性と2人で尼崎市内の郵便局を訪れた時、男性の異変に気付いたのは女性局員(22)だった。いつも笑顔で話しかけてくれる客が、なぜか焦っている。
 声をかけると「尼崎市役所から来る郵便物が届いていない」と慌てて答え、隣の女性も動揺していた。
 「詐欺じゃないか? でもどうしたら…」。先輩の男性局員(40)に報告し、ベテランの女性局員(29)にも事態を告げた。
 駆けつけた男性局員が、男性客が強く握りしめるメモ紙を見つける。今から電話をするという郵便局のコールセンターが見覚えのない「03」から始まっていた。「これは東京の番号。尼崎にかかってくるはずのない番号だよ」と伝えた次の瞬間―。
 男性の携帯電話が鳴り始めた。番号表示は「03」。男性局員が強い口調で言った。「これは詐欺だからダメ。電話を取らないで」。説得すると、一緒にいた女性も落ち着きを取り戻していった。

▼被害に遭う間際で
 「様子のおかしい人がATMにいる」。西宮市の商業施設で利用客からそんな連絡が管理事務所に入った時、店長の女性は体調の悪い人を想像した。実際にいたのは、携帯電話で何かを話しながらノートを開き、画面を操作する60代の女性だった。
 店長が「管理事務所の者ですが」と名乗って声をかけると、女性ははっきりと答えた。「はい。あとは、暗証番号を打つだけです」
 それは、女性が後の人生を分ける間際だっただろう。店長はすかさず「それだったら替わりますね」と通話中の女性から携帯電話を借り、やりとりを代わると、電話は途切れた。
 取り上げるような形になってしまったが、思い出したのは県警に配られたチラシだった。「ATMを操作している高齢者には、操作を中断させて」。
 振り込んでしまったら、もう取り返すことは難しい。

▼救えなかった悔しさ
 尼崎市内のセブン―イレブンに1人で来店した80代の男性が真っ先に向かったのは電子マネーカードの売り場だった。しゃがみ込み、何やら携帯電話を操作している姿を見て、レジにいた30代の女性店員は「見覚えのある横顔だな」と思った。
 レジで男性と対面し「お願いします」と5万円分の電子マネーと現金を差し出されて気付いた。
 「あの時の客だ…」。2019年の夏、この店で架空請求詐欺の被害に遭った男性だった。当時は心配しても聞く耳を持ってもらえなかった。「なぜ救えなかったのか」と悔やんだのを思い出し、ためらうことなく店長の女性(57)に報告し、男性を近くの交番に連れて行こうとすると、ちょうど警察官が通りかかった。
 店で詐欺被害を防いだのは今回で4回目。店長も客が被害に遭った経験を教訓に、危うそうな時にはどう声をかけ、どう対応するかに研修を重ねる。それが、4人の人生を救った。

2023年2月17日付朝刊記事より抜粋

電子マネー購入希望に不審な電話が重なり…

特殊詐欺に悪用されるケースが増えているさまざまな電子マネーカード

 高齢女性に声をかけて特殊詐欺被害を未然に防いだとして、兵庫県警西宮署は兵庫県西宮市内のファミリーマートのアルバイト女性(24)に署長感謝状を贈った。気付いたきっかけは女性客が電子マネーを購入しようとした時、店にかかってきた不審電話だった。
 昨年12月の午後、レジで対応をしていると70代の女性が来店した。特に慌てている様子もなく「20万円分の電子マネーを買いたい」と言う。
 ―買い慣れているのかな―。アルバイト女性は最初、そんなふうに感じた。
 ほぼ同時刻、別の店員が電話を取る。聞くと店へのクレームだ。嫌な予感がして女性客に待ってもらい、店員から受話器を引き取ると電話越しに言われた。
 「スパゲティを(そちらの店で)買ったけれどスプーンが付いていなかった」
 変な苦情だと思った。「スパゲティにフォークでなくて、スプーンですか?」と聞き返すと「箸もフォークも付いていない。スプーンさえあれば食べることができた」と要領を得ない。
 ふと、店長が従業員に注意を呼び掛けていたことを思い出した。
 「詐欺グループはコンビニを使ってターゲットに電子マネーを買わせたり、還付金名目で送金をさせたりする際、店員の注意をそらせるために変な電話を入れてくることがあるらしい」
 アルバイト女性はそんな事例が別の店で実際にあったことも知っており、電話越しの声の後ろが妙に騒がしいことも不審に思った。
 気になって電話のやりとりを打ち切り、高齢女性客の元に戻って「電子マネーを何に使うつもりですか?」と尋ねると「自分で使うお金だから大丈夫よ。ありがとう」とはぐらかされた。それでも粘り強く、なぜ買うことになったのかを聞くと「NTTから携帯のお金が払えていないとメールが来た」と打ち明けられた。
 ―これは詐欺だ―。確信すると「詐欺かもしれません」と110番し、被害の未然防止に貢献した。
 西宮署によると、こうした電話は2年前ごろからたびたび確認されるようになったといい、昨年2月には県警が啓発のチラシを作り、コンビニにも注意を呼び掛けていた。
 アルバイト女性は「高齢の人に電子マネーは難しいかもしれない。被害に遭いそうな時、助けられるのは私たち若い世代。悲しむ人が減るように、今後も気を付けていきたい」と話した。

2022年2月18日付朝刊記事より抜粋

目の前にうそを信じ込んだ客…対応のポイントは

 特殊詐欺にだまされていそうな高齢者がコンビニ店にいる。あなたが店員なら、どう声をかけるか―。そんな対応力を問う訓練が兵庫県尼崎市内であった。慌ててATMを操作したり、電子マネーを買い求めたりする客は詐欺グループのうそを信じ込んでいるケースが多く、店員が水際で被害を防ぐにはいくつかのポイントがあることを確認した。
 兵庫県警尼崎東署と管内のコンビニ店が、被害の8割を占める還付金詐欺と架空請求詐欺を想定して訓練を実施した。

▼ATM
 携帯電話をかけながらATMを操作する被害者役に、店員が必死に声をかける。「変な電話はなかったですか?」「還付金名目でお金が返ってくることはありません」。それでも客は納得しない。そんな時は―。
 尼崎東署によると、送金前に操作を止めさせることが何より大切。「誰かに還付金があると言われた」にうなずいたなら、速やかにこう告げるべきだとする。
 「電話を切ってください。警察へ連絡します」

▼電子マネー
 一方で、焦った様子で電子マネーを買い求める被害者役は「時間がない」「具合が悪い」と聞く耳を持たない。そんな時は―。
 同署が管内のコンビニ店などに配っている「啓発シート」を見せてほしいとする。そこには、こう記してある。
 「『コンビニで○○カードを買って番号教えて』は全て詐欺!!」
 該当する場合は、冷静になれる人も多いという。購入してからでは手遅れになる可能性が高く、シートでも思いとどまらなければ、その場で警察に相談するよう求めてほしいとした。

▼声かけのポイント
 日本フランチャイズチェーン協会は、特殊詐欺全般について、危険と疑ってほしい文言を記した紙を作成している。
 その名も「セーフティーステーション活動通信」。例えば「有料サイトの利用料や退会手数料を求める」「ウイルスに感染したパソコンの修理のためにカードが必要と伝える」「法的手続きを迫る」など。普段から客の様子に目を配り、いざという時に対応できるように取り組みを進める。

2022年12月9日付朝刊記事より抜粋

コンビニといえば、留学生とみられる店員さんをよく見かけるようになりました。そんな中、こんなうれしいニュースもありました。

留学生アルバイトも被害防止

 高齢男性に声をかけて特殊詐欺被害を未然に防いだとして、兵庫県警甲子園署は兵庫県西宮市内のセブン―イレブンのアルバイトでベトナム人留学生の女性(28)に署長感謝状を贈った。来日してもうすぐ10年になり、今春で県内の大学院を修了する。
 2月5日正午ごろ、レジには大勢の人が並び、ベトナム人女性が商品の袋詰めを手伝っていると、80代の男性が現れた。
 「これがほしいのだけど…」「買い方を教えてほしい」。指さしたのは電子マネー。4万円分の「グーグルプレイギフトカード」を差し出し「まとめ買いをしたい」と言う。このカードはレジを通さないと使えない。
 買い方を知っている人は、1500円、3千円のように決まった額を指定するのに…。不審に思った女性はとっさに声をかけた。
 「何のために使いますか?」。すると男性は答えたという。「自分のためには使わない」
 これは詐欺だ―。レジの横にあったボタンを押して店長を呼び、速やかに110番をして被害を未然に防ぐことができた。
 コンビニ店では、他にもネパールやスリランカなどの留学生が10人ほど働き「怪しいと思ったらすぐに店長に相談する」と普段から決めていたという。
                ◆
 女性は、来日して2年半ほど日本語学校に通った後、県内の大学から大学院へと進んだ。コンビニ店でのアルバイトは「接客を通して語学を学びたい」と来日間もなくして始めた。当初は漢字や敬語の使い方が難しくて苦労しながらも、今回、被害防止に役立てたことに上達の手応えも得た。
 10年近く過ごす中で「日本人は異国の人にも優しくて思いやりがある」と感じてきた。大学院を修了後も日本で働くことを決めた。
 「今回は偶然もあったけれど、これからも人の役に立てるように頑張りたい」と笑顔を見せた。

2022年3月16日付朝刊記事より抜粋

被害防止に貢献したいが「コンビニや金融機関で働いていないから」という感想もあるかもしれません。私も最初はそう思いました。ただ、こんな事例もありました。

銀行で居合わせた高齢女性に声かけ

 銀行で居合わせた高齢女性に声を掛け、特殊詐欺の被害を防いだとして、兵庫県警甲子園署は、兵庫県西宮市の会社員女性(45)に署長感謝状を贈った。
 女性はある日の正午すぎ、同市内の銀行でATMを操作。その後、80代の女性が携帯電話で誰かと話しながら、隣の機械を操作し始めた。
 聞こえてきた会話から、相手は市役所職員のようだったが、会社員女性は、その日が土曜日で市役所が閉庁していることや、預金残高を尋ねられていたことなどを不審に感じた。
 高齢女性は、付き添いの娘の「詐欺ちゃうか」との説得にも応じる様子がなかったため、会社員女性は「他人の言うことなら聞いてくれるかも」と勇気を出し、「とにかく電話を切ってください」と声を掛けたという。
 事情を聞くと、高齢女性は市職員をかたる男から「医療費の還付金があるからすぐにATMに行って」と指示されており、相手の口座に振り込む直前だった。感謝状を受け取った会社員女性は「自信はなかったが、詐欺を止められて本当に良かった。こうした場面にまた遭遇しても声を掛けようと思う」と話した。

2021年5月28日

勇気ある行動ですね。偶然耳にした会話から「詐欺かも」と思っても、なかなか声をかけるのは難しいことだと思います。

まずは同居・別居にかかわらず、親子や家族間などで詐欺被害防止について会話することから始めてはいかがでしょう。コンビニ店員さんたちのお手柄事例には、そのためのヒントが詰まっているはずです。

特殊詐欺被害の防止を啓発しようと、淡路島モンキーセンターで餌付けされている野生のニホンザルが「サギ」の文字を描いた=2023年3月、兵庫県洲本市

〈ぶらっくま〉
1999年入社。新聞社の編集局で勤務していると、文字通り毎日、警察署から特殊詐欺の被害発生の広報が届きます。それも何件も。神戸新聞では今回ご紹介した記事のように、単なる被害発生のニュースだけでなく、被害防止のヒントになるような記事の書き方もいろいろと試行しています。
高齢者を狙った特殊詐欺は、核家族化や急速なデジタル化といった社会情勢と、いつの世も変わらない「親のわが子に対する愛情」(息子をかたる「オレオレ詐欺」がそうです)につけ込んだ卑劣な犯罪といえます。
また詐欺グループの首謀者らが、貧困にあえぐ若者らを「闇バイト」として加担させたり、東南アジアなど国外を拠点にしたり―と、巧妙に捜査をかいくぐる傾向も目立っています。取り締まりの徹底はもちろん、一人一人が少しずつ気をつけることで、社会全体で被害を抑えたいですね。