いきなり、こじらせたタイトルですみません。ぶらっくまです。出ましたね!6年ぶりとなる村上春樹さんの長編「街とその不確かな壁」。既に読み終えた方も多いかと思います。
私も発売日に買ったのですが、時間があるときに一気に読破したいとの思いから、まだ読んでおりません。新聞各紙にはここ数日、村上さんのインタビューや関連記事も多く載っていますが、事前情報をあまり入れたくないので、新聞社にいながら極力読んでいません(偉そうに言えることではありません)。
私事はさておき、神戸新聞ではこれまで、村上さんの原点ともえる神戸・阪神間(神戸と大阪に挟まれたエリアを阪神間と呼びます)のゆかりの地などをめぐる記事を掲載してきました。今回は新刊発売を(勝手に)記念し、そうした過去記事をいくつか紹介します。
「猿の檻」市が撤去へ
記事末尾にあるように、市は公園のリニューアルに伴って檻を撤去し、一部を再利用して残すことを検討するとしています。寂しい気はしますが、村上さんの作品(と作中世界の檻)とともに、「僕」と「鼠」が檻の前で出会ったという記憶は(読者の心に)残り続けます。
これも記事にありますが、猿の檻は過去、建て替えられています。檻の存廃に関する芦屋市議会の議論では、こんな味わい深いやりとりもありました。
ハルキも通った石の館
村上さんの「原風景」の一つとされる古い図書館。ツタをはわせた外観は欧州の城のようです。先述の「猿の檻」の公園の隣に位置しています。西宮市在住の作家、小川洋子さんの作品「ミーナの行進」にも登場します。
「惨めなほど細長い街」と「昔の海岸線の名残」
100パーセントのサンドイッチ
村上さんの作品にはしばしば、何ともおいしそうな料理の記述が登場しますよね。神戸市民におなじみのこちらのデリカテッセンは1949年創業。スモークサーモンは看板商品の一つで、ハムやソーセージなども美味です。神戸・阪神間を拠点に活動した作家の故田辺聖子さんもこの店を愛しました。
番外 映画「ノルウェイの森」ロケ地
映画「ノルウェイの森」は、村上さんの母校・神戸高校などでも撮影が行われました。映画をご覧になった方は、悲しくも美しい物語とともに、主人公2人が心を交わした高原の光景を記憶されているかもしれません。
砥峰高原は西日本有数のススキの原生地として知られます。最近では2021年公開の司馬遼太郎原作の映画「燃えよ剣」のロケも行われました。
「ノルウェイの森」効果は大きく、特にススキが見頃を迎える10~11月には多くの観光客が訪れます。海のようにきらめき、波打つ一面のススキは官能的ともいえる美しさで、一見の価値ありです。
いかがだったでしょうか。正直、エッセーの類いは別として、村上さんの小説の中ではっきりと明示されている神戸・阪神間スポットはそう多くはありません。ただ、特に初期作品の中に通奏低音のように流れる空気は、間違いなく神戸・阪神間のそれだと感じます。
その空気感は「無国籍」といった言葉で表現されることもありますが、一言で表すのは難しいというか、一ファンとしては端的に言い表したくない思いもあります。何より村上さんの文体がそれを表しているので。そして、その空気の中に、阪神・淡路大震災で失われてしまった街の面影、匂いのようなものが残されていると感じることもあります。
世代的にこれまであまりなじみのなかった方も、これを機に、奥深き村上文学の世界に触れてみてはどうでしょう。「うっとこ兵庫」には、「村上春樹、山崎豊子、小川洋子…。多くの文豪が愛した西宮、芦屋を歩く」という記事もありますのでそちらも是非。
〈ぶらっくま〉
1999年入社、神戸出身。村上作品との出合いはいつだったか、はっきりとは記憶にありませんが、中学生の頃には徹夜でむさぼるように読んでいた覚えがあります。同じ高校に入った時はうれしかったですが、当然ながら村上さんの「後輩」「同窓」といった感覚はなく、いつまでも憧れの作家です。怒られるかもですが、ノーベル賞などよりも、こうして同時代に新作が読めることが喜びです。