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老舗の宝庫 長田神社界隈

 客が老舗をつくるのでしょうか? それとも客を育てるのが老舗なのでしょうか? 
 神戸の街の商店街を見渡すと、ひときわ目立つ商店街があります。長田神社前商店街。2018年の調査ですが、その7割が創業50年を超える老舗が占めます。100年を超える店舗もなんと5軒を数えます。
 神社に集う参拝客が多いというのもロングセラーの要因ではあるようですが、それだけではないようです。ド・ローカルが長寿経営の秘訣を探ります。

老舗番付横綱は創業140年以上の「ういろや」

 古くから大きな社寺仏閣の周辺には門前町が形成されてきた。神社の場合は「鳥居前町」と呼ばれることもある。地下鉄長田駅前の赤鳥居から長田神社へ「Yの字」に延びる長田神社前商店街もその一つ。取材をして驚いたのは老舗の多さだ。同振興組合に加盟する48店舗中、約7割が創業50年以上、5店舗が百年を超える。〝長寿経営〟の秘訣(けつ)って一体何?

 まず、最古参の和菓子店「ういろや」を訪ねた。1877(明治10)年創業。同商店街の前身・長田商店街が誕生(1920年ごろ)する43年も前からこの地で店を構え、今年で141年を迎える。
 看板商品はもちろん「ういろ」。白、抹茶の2種類あり、砂糖を熱湯で溶かし、米粉(こめこ)とくずを加えて蒸して作る。粒子の違う米粉を配合して独特の食感を出す製法は創業当初から変わらない。
 「店を継ぐもんだと思って育ちましたから。なぜこんなに長く続くの? って言われても…」と5代目の多田進博(のぶひろ)さんは首をかしげつつ、「参拝客のお土産や地元住民のおやつとして愛され続けてきたからかな」と口にする。最近ではハロウィーンやクリスマスの限定品もあるといい、「変わらない味を守りながら、若い顧客の獲得にも取り組む。挑戦は続ける」

(2018年11月27朝刊)

 ちなみに商店街には創業から5代目が1人、4代目が7人。3代目が15人もいます。

(2018年当時)

ランドマーク・長田神社

(1981年当時の長田神社の鳥居)
(2018年の長田神社の鳥居)

 ランドマーク・長田神社が放つ存在感も大きい。正月三が日の初詣客は平均約70万人。室町時代から続く節分行事「追儺(ついな)式」や昨今の御朱印帳ブームも相まって年間通じて安定した参拝客を集めている。
 商店街も顧客争奪へ仕掛けを怠らない。同神社の「おついたち参り」に合わせ、掘り出し市「ぽっぺん市」(毎月1~3日)を開催。「夏越しゆかた祭」の立ち上げや、お菓子・パン・総菜などを購入すれば割引カードがもらえるスタンプラリー「おやつはべつばら」を年1回開いている。
 創業66年の総菜店「おかずふぁくとりー」の経営者は「持続可能な仕組みづくりで、参拝客を増やし、商店街の売り上げも伸ばす。神社と商店街は、相乗効果を生み出す両輪」と強調する。



 脈々と受け継がれる人と店。その魅力を探求するために長田神社の参道のまち歩きをさらに進めると、和菓子などスイーツでのまちおこしを図る姿が見えてきます。

参道歩けば甘い誘惑 定番の味から限定品まで 

 平日の夕刻。下校途中の中高生らが列を作る。5人、6人…。多い時は10人を超える。店内から漂う鼻をくすぐる甘い香り。その正体は? 
 「餅屋大西」(神戸市長田区長田町1)で限定販売(秋~春)されている「フライまんじゅう」だ。手のひらサイズのまんじゅうを約5分間油に泳がせると、沖縄の「サーターアンダギー」のように変化し、バニラエッセンスの香りが広がる。後付けのグラニュー糖の量はお好みで、「厚化粧」「薄化粧」「すっぴん」の3パターンから選ぶ。

 せんべい、大福、ういろう、ケーキ…。長田神社へ続く長田神社前商店街(振興組合加盟48店舗)には、神社のお膝元とあって和洋8店もの菓子店がひしめく。うち6店は和菓子店だ。
 その一つ餅屋大西は、1937(昭和12)年にアイスキャンデー店として創業。81年たっても看板商品「大西のアイスキャンデー」(夏季限定)の人気は不動だ。フライまんじゅうは、揚げたてアツアツを安価な値段で食べられるとあって中高生らの人気を集める。
 店主の大西健一さんは「毎日150~200個作るが、売り切れで肩を落として帰る生徒も少なくない」。週に3~4回立ち寄るという長田高校2年の林佳杜(けいと)さんは「部活帰りに友達と食べる。安いしおいしいから、つい来てしまう」と話す。
 創業95年の「ほうらく堂」(同区五番町8)も負けてはいない。看板商品「ほうらく饅頭(まんじゅう)」は、入学式や卒業式の祝い菓子として長年、神戸っ子に親しまれてきた。紅白1個ずつだった形態を一口サイズの複数入りにしたところ、注文が急増したという。

 神社前にある特性で菓子店が多い同商店街。「競う」のではなく「共存」の取り組みに力を入れる。震災直後には、商店街5店の和洋菓子10品が1箱に詰まった「長田物語」を考案。同神社の「おついたち参り」などイベント時には、各店自慢の菓子がそろうブース「長田萬福(まんぷく)茶屋」を出店するなど結束を固めてきた。
 同商店街の洋菓子店「パティスリー エンゼル」(同区長田町2)の増本広樹さんは「どの菓子店も一緒に商店街を盛り上げる仲間。『長田神社前デパート』の一員」と力を込める。

(2018年11月28日神戸新聞朝刊)
ほうらく堂の紅白まんじゅう
きねや本舗のフルーツ大福
ハラダパンのスフレサンド(左)とショコラサンド

 長田神社前商店街のある長田区は、神戸一の下町です。
 まちのおばちゃんは、おしゃべりでおせっかい。ラフな服装で市場や商店街を歩き回れる空気が残ります。子どもたちが駄菓子屋で遊び、多くの外国人や沖縄、奄美出身者も暮らす多文化地域でもあります。
 国、人、モノが絶妙なバランスで交じり合い、訪れる人々を寛容なまでに受け入れるまち。下町にあふれる余情(印象深いしみじみとした味わい/心に残って消えない情緒)こそ、老舗が残る理由ではないか、そう感じました。

<ド・ローカル>
1993年入社。下町とは―。辞書には「低地に発展した地域」「水陸交通に恵まれ、商工業で発展した町」とあります。長田区はこの概念には当てはまります。区民の人に聞いてみました。「そら、みんなが知り合いっていう距離の近さやろ」。なるほど。この距離感たまりません。

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