ジェンダーレンズでのぞいてみたら④~インタビュー+番外~
※神戸新聞で2023年3月8~17日に掲載された連載(全8回)を加筆・再編集し、4回に分けてお届けする記事の4回目です。
神戸新聞記者 石川 翠
豊岡市・地域啓発推進アドバイザー 国立女性教育会館理事長 萩原なつ子氏に聞く
ジェンダーギャップ(男女格差)の解消に向け、2018年から取り組みを始めた兵庫県豊岡市。地域コミュニティーや家庭にも賛同の輪を広げようとしている。同市の「地域啓発推進アドバイザー」を務める独立行政法人・国立女性教育会館(埼玉県)の萩原なつ子理事長に、ジェンダーギャップ解消への課題や推進する上でのポイントなどを聞いた。
―豊岡市の取り組みをどう見ているか。
「ジェンダーギャップという(否定的な)言葉を、そのまま使った『ジェンダーギャップ対策室』という名称に本気度が表れていると感じた。前市長が、ギャップ(格差)やバイアス(偏見)、何が問題かを認識し、そこを取り除かないと地域の今後はないとの思いで名付けたのだろう」
―「私たちのまちには格差がある」と言われると反発もあるのでは。
「ある種のショック療法だろう。そもそも特権を持つ人は格差に気付きにくく、考えたことがなければ、拒絶反応を起こし、『何だそれ』と思うだろう。経験上、反発など反応してくれる人が多ければ多いほど展開しやすい」
―豊岡市での「アドバイザー」の取り組みは。
「地域のトップは全員男性なので、その人たちの啓発から始めた。1年目は新型コロナウイルス感染拡大のためオンラインだったが、各地域の会長などと一緒にワークショップを行った。以降も各地域に赴き、女性だけでなく男性の問題でもあること、『男もつらい』という話などを、男性たちとともにしてきた」
「高度経済成長を支えた人たちの生き方を否定するものでは決してない。時代が変わる中で価値観も方法も変わってくる。次世代の人たちのために見守ってほしいが、自分たちの世代はこうだった―などと意見を押しつけないとの意味で『お邪魔はいいけど、邪魔しないでね』と言っている。直接対話して地道に続けていき、そうした感覚がじわじわと染みこんでいけば」
「幼稚園や保育園の先生たちへの研修も効果がある。孫育てに関わる祖父母への教育も同様だが、無意識のバイアスが子どもたちの未来に影響するので、ジェンダーバイアスを取り除く、これも地道な作業だが必要なこと」
―役所や企業などではトップダウンで進められる部分が大きいが、地域での推進は難しいのでは。
「子や孫が生きやすい環境、『(その人にとって最も良い状態である)ウェルビーイング』な環境を一緒につくっていきませんか、と巻き込む。企業は人手不足やグローバル化もあって女性登用などジェンダー平等が進むが、地域においても、女性が帰ってこないという危機意識を共有できるかどうかだ」
―地域で意思決定をする場は大半が男性。そもそも属性が偏るとなぜいけないのか。
「例えば、農業を例にすると『(単一作物を大規模に栽培する)モノカルチャー』だと土は疲弊する。作物は大きくならなくなり、虫もつきやすくなる。地域も同じだ。物事を決める時に男性だけではなく、地域の子どもや障害のある人、外国にルーツのある人など、その人たちが持つ力を集めて元気な地域にしていこうと話をしている」
―今後、取り組みを続けていくにあたって意識しておくべきことは。
「まず、属人的にならないように仕組みをつくり、さらにその仕組みも改良させることが必要。もう一つは、理念をしっかりと継承すること。流行的にダイバーシティという言葉でハッピートーク(楽しい話題)にならないよう、賃金格差などのギャップがあり、その課題を解決するためにこの取り組みを始めた、という原点を振り返りながら進めてほしい」
はぎわら・なつこ 1956年、山梨県生まれ。お茶の水女子大大学院家政学研究科修了。宮城県環境生活部次長、武蔵工業大助教授、立教大学教授などを経て、2022年から現職。