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家裁調査官が行く❷

※神戸新聞朝刊で2022年7月19日~8月1日、長期シリーズ「成人未満」の一部として掲載した全10回の連載「家裁調査官が行く」を、note用に再編集した記事の2回目です。
シリーズ「成人未満」は、成人年齢が18歳に引き下げられた22年4月に改正施行された「少年法」を再考する意図で企画されました。
          神戸新聞記者 那谷享平

虐待…「つらい」と口に出さなくても

複雑なケースは複数の調査官で取り組むこともある

 貧困、親のアルコール依存、いじめ、性的搾取…。今このときも、つらい日常にいる子どもたちがいる。
 非行と、過酷な経験の相関は無視できない。犯罪白書によると、2020年の少年院入院者1624人のうち、何らかの虐待やネグレクト(育児放棄)を経験していたのは男性で約4割、女性で約7割に上った。白書も指摘するが、数字は氷山の一角にすぎない。
 審判の前に少年少女と話す家裁調査官であれば、毎日のように見聞きする現実。感情を揺さぶられても、面接ではそのそぶりは見せず、憤りや嘆きは胸の内にとどめる。
 「調査という短期間の関わりだからこそ続けられる」。キャリア27年の女性調査官ハシバが、遠慮がちに苦笑する。最もしんどい思いをしているのは当事者の子ども自身と知っている。
 「多くの子どもは面接で『つらい』と口にしない。自分の状況をうまく言語化できないのだろう」
 ハシバは面接で少年たちと付かず離れずの距離を保つ。「つらかったんじゃない?」。自らの体験を絞り出すようにして話した子どもに、そう語りかける。

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