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シン・長田を彩るプレイヤー ~笑顔を紡ぐ刺繍屋~(後編)


今回は、2022年に創業90周年を迎えた金川刺繍株式会社の3代目社長・金川誠司さんとその奥様・早苗さんを取材しました。

以前は子供服ブランドや神戸の高級婦人服メーカー、皇室の刺繍など、幅広く手掛けておられましたが、現在は個人からの注文をメインに取り扱っておられます。

前編では、地域との繋がりや長い歴史を誇る金川刺繍㈱の技術についてお聞きしました。後編では金川刺繍㈱が選ばれ続けるのはなぜか、その秘密を紐解いていきます!

(前編はこちら https://note.com/kobe_nagata_ward/n/n1c0a2d7cbbc3


困難を乗り越える発想


-記者-
もともと企業の衣服の刺繍を請け負っていたということですが、個人向けに切り替えるきっかけが何かあったのですか?

-早苗さん-
阪神・淡路大震災をきっかけに、社長が「方針を変えよう」と。大手企業が他県の刺繍屋さんに流れてしまったというのもあって、決断はすごく大変やったと思います。

-記者-
方針を変えるにあたって困難とかはありましたか?

-誠司さん-
切り替える時大変だったよ(笑)
イチから仕事せないかんから。

―早苗さん-
SNSも発達していない時代だったので、今の社長に引き継いでからホームページを立ち上げたんです。

-誠司さん-
ホームページの作成は学生の頃からずっと独学で研究していました。Googleとかで検索したときに、上の方に出てくるようにするにはどうしたらいいかとか、そういうのは一生懸命やってましたね。

-早苗さん-
だからホームページに可愛い花柄付けたりしたようですね、女子にウケるように(笑)

-誠司さん-
だいたい20~40代くらいの女の人をターゲットにしてやってたので、色合いとかも明るいのを使ったり。どうやったらボタンを押したくなるかとか、そういうのを勉強しました。

-記者-
マーケティングですね。

-誠司さん-
まあかっこよく言えばね。おかげさまでGoogleでも上の方に置いていただけました。ありがたいことに、今までほぼ仕事が途切れたことはないですね。

-早苗さん-
発想の転換っていうのは凄いなって。ネット販売とかネットで刺繍を受注するというのもうちが先駆けだったようです。

選ばれる秘訣


-記者-
ネットだとどういう注文がくるんでしょうか?

-誠司さん-
体操服とかチームのジャンバーの背中に入れてくれとか。あとは大変なものだと、車のシートの背中のところに入れてくれっていうのもありましたね。
あんまり他所でしてもらえないような商品が多いです。

-記者-
結構どんな注文でも受けているんですね。

-誠司さん-
苦労して刺繍するんですが、できる範囲であればほぼなんでも受けます。

-早苗さん-
北野武さんの映画のアウトレイジの小道具の刺繍とか、その他にも映画の衣装のワッペンやTVコマーシャルの衣装への刺繍を作ってくれという話もありました。

あと、リピーターさんの紹介で、テレビが取材に来るから自分のとこのロゴデザインを刺繍したユニフォームを作りたいっていうのもありました(笑)

-記者-
刺繍屋さんは他にも沢山あると思いますが、そういう特別な瞬間に選ばれるのはなぜなのでしょうか?

-誠司さん-
何かあるんかなぁ(笑)
ネットでやってるからいろんなところで引っかかるんやとは思うんですけど。

でも面倒くさいからしないって言うことはないです。どうしてもミシンの構造上できないとかは言わせてもらいますけど。

-早苗さん-
表には出ないひと手間をかけるんですよ。刺繍を綺麗に見せる技術を持っているので、注文された方には想像以上だったと喜ばれています。リピートが多くて、リピーターさんの口コミ(紹介など)、20年以上の方もいらっしゃいます。

-誠司さん-
あとは皇室方のネームをずっとやってましたが、それがえらいとかは思ったことが無い。ノウハウ自体は一緒やから。皇室型のネームの刺繍も、近所のおばあちゃんのパンツに名前を入れるのも一緒やと思ってる。

-記者-
刺繍にかける思いと、お客さんに対する丁寧な気持ちが選ばれている理由なんですね。

笑顔のために


-記者-
刺繍屋さんとしての一番のやりがいはなんでしょうか。

-誠司さん-
お客さんの笑顔やろうね。1000円のところを2000円もらうより、お客さんに「ええのできた」って喜んでいただける方が嬉しい

-早苗さん-
やっぱりお客さんの笑顔が直接見えるのが、企業の刺繍を担当していた時と違うかなと思います。それが社長にとっては一番大事。

-誠司さん-
やってることは一緒なんやけどね。お客さんと会話をしたり、「ありがとう」とか「よかった」とか言ってもらえたら嬉しい。

お店に商品を納めても、受け取ってる人の笑顔とかは見れないでしょう。

-記者-
個人向けに変わる前から、お客さんの顔を見たいという思いはあったんですか?

-誠司さん-
そうですね。たまに納品先の本店に行って柱の陰から覗いて、自分が刺繍したやつをお客さんが「かわいい!」って言うて喜んでいるところを見てました(笑)

作ってるのは服ですが、最終的にはお客さんに喜びを届ける仕事ですから。お客さんが服を着てどう喜んでくれるかを考えています。

揺るがない思い

-記者-
今後の目標や、これからやっていきたいことは何かありますか?

-誠司さん-
うーん、そうやなあ・・・。もうやり尽くした?そんなことあらへん?(笑)
あともう何年かで創業100年になるので、とりあえず100年を目指して今はやってます。

開工神戸みたいにいろんな人に来てもらって、あわよくば「刺繍をやりたい」っていう子が出てくると嬉しいですね、うちだけじゃなく業界として。この業界も、残していきたいので。今のままではなかなかね、難しいですよ。

-記者-
後継者の問題などでしょうか?

-誠司さん-
後継者問題もあるし、どうしても海外に流れて、日本に帰ってくるとそれが仕事として成り立たないとか。

趣味としての刺繍はあるんですよ。ただ、仕事として成り立たせるために、次々「この仕事やりたいな」って思ってもらえるようなことが胸張って言えたらいいんですけどね。

-早苗さん-
いろんな方に刺繍を知っていただきたいという思いはずっとあります。あと、メイドインジャパンに社長はこれからもこだわっていくと思います。

刺繍が中国とかに流れて、プリント業界の方もすごい勧誘に来られたんですよ、「シルク印刷しませんか」って。その時も社長は、「そこは一番譲れない。どんな会社が海外に刺繍をだしたり、シルク印刷を始めても、うちはここで刺繍一筋でやっていく。」と断りました。そこのこだわりはブレないですね。

-誠司さん-
プリントとかには手を出さず、本当に90年間ずっと刺繍だけやからね。今となってはすごい性に合ってる仕事やなと。何十年も続けててよかったなと思います。

おそらく国の方もメイドインジャパンにシフトしていってると思うんで、それに乗っかって、うちもメイドインジャパンで作ってますっていうのを押し出せたらいいなと。

刺繍で繋ぐ

-早苗さん-
すごい誇りをもっているんです。あと社長は人と人を繋げるのがすごく好きなので、刺繍からいろんなエンターテインメント、イラストレーターや作家さんとか、そういう方ともどんどん繋げていきたいと言ってますね。

-誠司さん-
こういうのは面白いよね。全く別のジャンルの人とコラボとか。

昔は工場の中でじっと仕事だけしてたらよかったんやけど、今はもういろんなとこに出て、名前も売りーの、顔も売りーの(笑)

-早苗さん-
刺繍も(笑)

-記者-
笑顔のためだけじゃなくて?

-誠司さん-
最終的には笑顔が一番なんですが、いろんなところに行って自分の触手も伸ばしていかないといけないでしょうし。

先々代社長(祖父)は、長田地区の保護司をしたり、地域でいろいろ活動していたようです。私も社会貢献まで大きいことは言えませんが、今度うちも※選挙割もするし(笑)(※取材日は2023年3月29日)

-早苗さん-
毎年ね。5年ぐらい前から、リレー・フォー・ライフ・ジャパンでがん征圧のチャリティーにも参加してます。毎年知事さんも参加してくださるみたいで。またいろんな人が繋がってくれるん違うかなと。

-誠司さん-
そういう身近な社会貢献からできればいいかなと思ってます。

-記者-
刺繍で笑顔にするだけでなく、その先のことも考えていらっしゃるんですね。

では最後に、誠司さんにとって刺繍とは?

-誠司さん-
仕事であり趣味であり・・・今はもうなくなっては困るものでしょうね。こういう仕事は定年がないので、目や手が動く間はたぶん仕事してると思います。

-早苗さん-
なくてはならないもんやね。

-誠司さん-
予想外に長続きしてます(笑)
開工神戸とか、長田区の職員さんとかいろんな人と知り合いになれるので、やってて良かったと思ってます。

金川さんの刺繍へのこだわり、お客さんの笑顔への熱い思いを語っていただきました。刺繍の技術だけではなく、知ってもらう努力や刺繍にかける思いが、金川刺繍㈱が選ばれている理由なんですね。

この先も素敵な刺繍で人と人とを繋いでいっていただきたいです。
(編集:すず・みっちゃん)