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シン・長田を彩るプレイヤー ~笑顔を紡ぐ刺繍屋~(前編)


今回は、2022年に創業90周年を迎えた金川刺繍株式会社の3代目社長・金川誠司さんとその奥様・早苗さんを取材しました。

以前は子供服ブランドや神戸の高級婦人服メーカー、皇室の刺繍など、幅広く手掛けておられましたが、現在は個人からの注文をメインに取り扱っておられます。

刺繍一筋を貫いてきた金川さんの熱い思いに迫ります。

後編はこちら(https://note.com/kobe_nagata_ward/n/n96acf37eb336



長い道のりの始まり


-記者-

本日はよろしくお願いいたします。
ではまず、これまでの経歴を教えてください。

-誠司さん-
大学のころは全然刺繍とは関係なく、中学のころから始めたベースでバンド活動をしたり、スイミングのコーチを7、8年ぐらいしてました。だから、てっきりそっちで就職するもんやと思ってました。

うちの親父のお姉さんが須磨で刺繍屋をやってて、「あんまりぶらぶらせんと、仕事せえ」と。もうほんまに安いお金でこき使われて(笑)
3、4年ぐらいはそこで修行したのかな。26、27歳ぐらいにこっちに帰ってきて、それからずっと刺繍屋をやってます

-記者-
元々スイミングスクールのコーチを長年されていたということですが、コーチの道を諦めることに抵抗はありませんでしたか?

-誠司さん-
抵抗はなかったね。コーチの仕事もしたかったんですけど。まあ僕一応長男なので、薄々は親父の仕事を手伝わないかんのかなっていうのは思ってました。

でも、そんなにこの仕事をせないかんという気持ちはなかったですが、始めてしまったのが運の尽きやね(笑)
それからずっと、この仕事しかしたことがないです。

昔からこちょこちょっと自分でものを作ったりするのは好きだったので、この仕事は性に合ってたと思います。

-記者-
長田にはいつ頃来られたんですか?

-誠司さん-
長田に来たのは、結婚してからかな。実家は須磨で、自転車で行き来できる距離だったので、小さい頃から長田まで出たりしていました。

-記者-
実家のある須磨と、ここ長田の間で違いは感じましたか?

-誠司さん-
長田はやっぱり、昔から工場(こうば)の匂いや音がしてましたね。須磨にはあまり工場はないので、その辺で違いを感じました。

-記者-
当時と今で、長田の印象は変わりましたか?

-誠司さん-
今は人が集まる場所ではないので、その辺が微妙ですよね。行政も人を集めようと一生懸命頑張ってやってくれているので、若い人たちとか集まってくれたらいいんですけどね。

この町内でも過疎化がひどくて70歳以下の人がほとんどいないので、まちの活性化ができればいいんですが。この前の開工神戸みたいなイベントをやっていただくと、人が集まるでのいいですよね。

(開工神戸パンフレット https://kaikohkobe.com/322)


地元と刺繍


-早苗さん-
去年社長と相談して、90周年ということで工場をオープンにして、皆さんを集めて刺繍とかを見てもらいました。地域の皆様にお世話になったということで、工場を開放してジャズライブもしたりして。

社長は、今もバンド活動を続けているんです。

-誠司さん-
90周年イベントで展示したこのフェルメール猫は、神戸市出身の画家の山田貴裕さんという方が描かれたんですよ。

北野美術館主催の展示会「猫を愛する芸術家の仲間達」に行ったときにたまたまお会いして、「これを参考に作らせて」って作家さんにお願いしたら、「いいですよー!」って。「ほんならちょっと頑張って作るわ」ってこれを作ったんです。90周年のイベントに出そうかなって。

(刺繍で描かれたフェルメール猫。製作には2か月ほどかかったそう。)

-早苗さん-
以前は企業秘密ということで工場を全部閉め切って仕事をしていたので、なかなか技術を見ていただく機会がなかったんです。

そこで刺繍をいろんな人に楽しんでもらおうと、一般の方向けにここの工場で、オープンファクトリーを開催したんです。

-記者-
どんな方々に見ていただきたいですか?

-早苗さん-
一番見ていただきたいのは地元の方々。ここの自治会長さんにも「金川刺繍さんの名前は聞いたことあるけど、こんなに刺繍頑張ってはったんや」と言っていただいたり、そういうお声を直接いただけるきっかけになってます。

-誠司さん-
昔は自分とこの工場の中をあんまり他の人に見せないっていう風習があったんです。それはそれでいい風習だとは思いますが、今の時代にはあまりそぐわないので。

それで中をオープンにして見ていただこうということで、この前の開工神戸とかそういうイベントに乗っかってみたり。

-記者-
それはやっぱり、大勢の人に知ってもらおうという考えがあってのことですか?

-誠司さん-
そうですね。極端な話、隣近所でもここの工場が何をやっているのか知らないっていう人がいるので。それではちょっと寂しいので、こんなこともやってますよ、と。

-早苗さん-
開工神戸イベントの時、「トライやる・ウィークどうですか?」って中学校の先生にお問い合わせいただいたり、小学生のまち探検でも、見つけて声をかけてもらったり。

コロナ前はドアを開けて「ここおいで~」って見学してもらったり、刺繍を触って社長に質問してもらったりしていました。そういうのはずっと続けていきたいですね。子供たちに「僕・私のまちに刺繍がある」って誇りに思ってもらえたらいいなと。

-誠司さん-
長田言うたら靴っていうイメージですが、それ以外のお仕事もあるので、そういうのを子供たちにも見てもらえたらと思います。

-早苗さん-
だから子供や若い子が来たらすごい頑張る(笑)
そういうのが今の1番の楽しみですね。

それから、自分でブランドを立ち上げたいっていう若い起業家達が、ここ何年かで結構増えたんですよね。

-誠司さん-
自社ブランドの商品を作りたいっていう若い子たちが増えることは、いいことやと思います。

-早苗さん-
神戸にある会社も何社かうちに声をかけてくださって、チャームやバックの刺繍をしたりしてます。「あ、地元にこんな会社があるんや」っていうように、地元神戸で繋げていけたらなって。これはいつも社長が言ってますね。

糸もね、地元のミナトヤさんっていう糸屋さんのものを使っていて、それも宣伝できるかなって(笑)

-記者-
やっぱり地元の方とのつながりっていうのは大きいのでしょうか?

-誠司さん-
そうですね、糸屋さんとのお付き合いは結構長いですね。5、60年くらいになるんちゃうかな。

-早苗さん-
そういう地元のいろいろな社長同士の繋がりがずっとあります。

唯一無二の匠の技術


-記者-
刺繍はどのような工程で出来上がっていくものなのでしょうか?

-誠司さん-
いただいたデザインをスキャンしてそれを刺繍にするんですが、基本的にこれは全部手書きなんですよ。

コンピュ-タ上のデータと実際に刺繍されたものでは仕上がりが違うので、
生地に対してどれくらい縮むのか、出来上がりを想像しながら作ってます。

-記者-
感覚で、ですか?

-誠司さん-
感覚ですね。人にどうこう言えないので。

-記者-
スキャンしたイラストやデザインがそのまま刺繍になるわけじゃないんですね。

-誠司さん-
そうなんです。パソコン上で操作して、最終的にお客さんが「こう仕上げてほしいな」って思ってるものが仕上がるようにしています。お客さんのイメージといかに一致させるかが苦労するところですが。

今まで、「こっちで予想したやつと違うやないか!」って言われたことはないですね。対面でこうやって話してるとわかりやすいんですが、メールがほとんどなので文面から想像するんですよ。大体この人はこういうのを欲しがってるなとか、そういうのを想像するテクニックは会得しました(笑)

有名ブランドの刺繍を担当していた時も、紙にデザインされたものを正確に仕上げても、デザイナーさんの頭の中にある物を作れなかったら、これは違うってなったり。

当時一番難しかったのは、クマさんの目ですね。クマさんが車を引っ張っている絵柄があったとすると、そのクマの目が車を見てるようにしていました。

-記者-
白目とかはないのに、ですか…

-誠司さん-
そう。ないけど、「クマさんの目が車を見てる」というデザイナーさんの頭にある絵をこっちも予想して、先回りして作っていたので、デザイナーさんにも喜んでもらってました。

取材の際は実際に刺繍をするところを見せていただきましたが、デザインが手描きということに驚きました。非常に細かい作業でした。

インタビューでは、長い歴史を誇る金川刺繍㈱が、地域の方をすごく大事にされているのが伝わってきました。後編では金川刺繍㈱がなぜ人々から選ばれるのか、その秘密を探っていきます!
(編集:すず・みっちゃん)