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シン・長田を彩るプレイヤー ~縁を紡ぐチャレンジャー~(前編) 

JR新長田駅から西へ歩いて5分。手作りクロワッサンとこだわり紅茶のテイクアウト専門店「9683」(きゅーろくはちさん)の代表である後藤 涼さんを取材してまいりました。ご縁を紡ぎ、現在、お義父さまとお店を営んでおられます。前編では、開業までの道のりをたっぷりとお話していただきました。


「9683」
兵庫県神戸市長田区日吉町2-1-2 108
営業時間:8時~17時(売り切れ次第閉店)
定休日:火曜日  TEL :078-766-6422
HP:https://sito.9683-nekonote.com/ 
Instagram:https://www.instagram.com/9683_nekonote/?hl=ja
base:https://9683.base.shop/


ハードな社会人デビュー

―記者―
自己紹介をお願い致します。

―後藤さん―
後藤 涼と申します!年齢は取材時で32歳です!
生まれ育ったのは神戸市東灘区です。
小学校時代は周囲の後押しを受け生徒会長をやり、中学校時代は卓球部でキャプテンを、高校時代はハンドボール部の副キャプテンをしていました。
まあ、ごくごく普通な学生生活だったと思います。

―記者―
話の中でさらっとおっしゃっていた『周囲の後押し』というのがすごいですね!

―後藤さん―
嬉しいのやら嬉しくないのやら。
なんで私が?と思っておりましたが、やると決まったのならちゃんとしようと心掛けておりました。
周りはそういう役を受けるのが面倒だったんでしょう。
とりあえず後藤に任せておいたら丸く収めてくれるだろうと思っていてくれたのかもしれませんね (笑)

高校を卒業してすぐ全国に支社がある大企業に入社。
軌道工事の施工管理をする会社でした。
レール交換や踏切改修工事など、電車が止まってる間にしかできない夜勤の仕事がメイン。
私はそこで現場監督の見習いとして働き始めました。
当時18・19歳だった私。
同年代の大学生や酔っ払い御一行が乗った最終電車を見届けた後に仕事が始まります。
私はごりごりの作業員のおっちゃん達に囲まれ、ミーティングの進行。同年代の子達がとても羨ましかったです。
作業所には仮眠室がありほとんど家にも帰れず。それが当時の私にはなかなか受け入れられなく、先輩に相談することに。
返ってきた返答は「こういう業界は沼みたいなもんやから、抜けるんやったら今のうちやで。」でした。
決心がついた私は、大きい工事案件を全うしたタイミングで退職しました。

―記者―
2年間続けられたのは、やっぱり真面目さから?

―後藤さん―
うーん。
任された担当の工事は最後までやりきりたいという気持ちがあったのと、何も分からないまま社会人になったので、これが正しいのかというのも分からなかったんです。
ただ、このままでは嫌やなっていう思いがずっと蓄積していたんだと思います。
大変な分、給料はよかったです(笑)
使う時間がほぼありませんでしたが。

―記者―
そうなんですね。
退職後、どうされたのでしょうか?

―後藤さん―
すぐに仕事探しに動きました!
「20代だったので力仕事しよう!車の運転もできるし、給料もそこそこもらえるだろう。」と思い、神戸で有名な酒販卸会社に入社しました。
繁華街三宮エリアの一番ハードなルートを担当することになり、クリスマスも年末年始も半袖半ズボンで、汗だくになりながらお酒を運んでいました。
仕事はしんどかったですが、前職ではなかったアフターファイブが確保できるようになったことで、仕事以外の人たちと出会う機会が増えたんです。
20代でいろいろなコミュニティに参加して、老若男女問わずいろいろな方と出会い、社会の幅の広さに触れ、ぐっと視野が広がりました。
今振り返ると、夜勤の経験もとても良い経験でした!

―記者―
いろいろな人に出会うことって大事ですよね。

30歳までに独立するぞ!

―後藤さん―
酒屋の仕事は肉体を酷使する仕事なので、40代・50代・・・のことを考えると、
『このままではいけないな~何か行動を起こさないと!』という考えは持っていました。
いろいろな交流があった中で、家族経営の規模感で商いされているお米屋さんに、縁故採用という形で転職しました。
当時は家族経営だったので、配送業務・営業・経理・電話対応・伝票発行、何でもしていました。
そこの社長が中小企業家同友会という異業種の経営者が集まる団体に所属していまして、研修を兼ねて私や他の社員もたまに同行しておりました。
そこで、今までは社長と言われる立場の人は住む世界が違うと思っていたんですが、同友会に参加する機会が増えたことで、社長という存在を身近に感じることができ、「俺も30歳までに独立して社長、代表になってみたいな~。」と考え始めていました。
それが2年目のことでした。
後に“サラリーマン家系育ちのばか者”が、事業を起こすという挑戦をする訳です(笑)

―記者―
その時の周りの反応は?

―後藤さん―
父には「お前の人生やねんから、お前で考えろ。やるならやってみろ。金銭的支援はアテにするなよ。」という感じに言われ、母は「考えなおしなさい。」と。
当時の彼女(今の妻)は否定もせず、「やってみたら?」という感じでした。
勤め先の社長は僕の独立を「全面的に応援する。」と言ってくださり、勤めながら経営の勉強の機会をたくさん頂きました。
30歳までに独立したいという区切りを立てたものの、どんな事業で独立したらいいのかなかなか定まりませんでした。
先輩経営者に相談したら「いやいや。キャリアあるやん。よう見返してみ。」と一言。
過去の経歴を書き出し見返してみたら、僕は酒屋で4年、米屋でも4年配送していたんですよ。
だから…「配送はできる!」と気が付いたんです。

―記者―
あ~!本当ですね!

運送屋「ねこのて運送」で独立

―後藤さん―
8年のキャリアがある!
配送ができるんだったら、とりあえず運送屋として独立しよう!
車1台、パソコン1台、事務所は自宅兼事務所にして、28歳の時に開業。
30歳までに独立という自身の口約を無事に遂げ、踏み出しました。
プライベートでは、お付き合いしていた彼女との結婚・挙式、マイホーム購入、新婚旅行。あらゆる人生のビックイベントを独立前の会社員のうちに全て済ませて、個人事業主の扉を開きました。

―記者―
すごいです!

―後藤さん―
屋号は「ねこのて運送」。
キャッチフレーズは、猫の手も借りたいあなたへ。
米屋でも・酒屋でも食品を配送していたのもあり、「食品配送に特化した運送屋」と謳って、
営業活動していました。
これは、よその運送屋さんと違う色を出すためです。
猫が好きなので、「ねこのて運送」のというネーミングがしっくりきました!

―記者―
営業もすべてご自身でされていたんですか?

―後藤さん―
1人しかいませんからね(笑)
酒屋の配送で毎日、飲食店のオーナーさんや従業員さんとお話したり、お米屋さんの時も営業をしていたので、話すスキルというか、コミュニケーション能力には自信がありました!

―記者―
そうなんですね。
当時、独立することに不安はありませんでしたか?

―後藤さん―
今もですが、常に危機感を感じて日々過ごしています(笑)
初月から前職のお米屋さんから配送の仕事を頂けたことは非常にありがたかったです。
それもお米屋さんの社長に私からプレゼンをして、お互いの利害が一致したからこそ成約頂けました。
それが開業間際に確約されていたから、独立に踏み込めたのもあります。

―記者―
そうだったんですね。

―後藤さん―
2年目を無事に迎え、そろそろ前職場からちゃんと巣立たないと、と思っておりました。
ですが、どんなに営業しても、取引先が見つからなかったんですよね。
どんどんと年末が迫ってくる中で、来年もまた前職場のすねをかじらないといけないかなと肩を落としている時に、お米屋さん時代の取引先のオーナー様から新しい取引先をご紹介頂けました。
2年目もこれで一安心と胸をなで下ろしました。

―記者ー
それは仕事の評判が良かったから、どんどん知人の紹介で?

―後藤さん―
私の仕事ぶりや所作、態度を評価頂いていたのかもしれませんね。
本当にありがたい話です。

―記者―
人からの信頼があるからこそですね。

クロワッサンと紅茶の専門店の誕生

―後藤さん―
そして、転機が訪れます…
2018年に開業したねこのて運送は、2019年の年末からコロナの影響で、主要納品先になるホテル業界が大打撃を受けました。
年間契約を頂いていたので、運送屋としてはコロナ禍でも売上に影響はなかったんですが。
当時このコロナ禍が長引き、次年度に契約更新は見込めないのではと危機感を感じておりました。
ですので、コロナ禍で個人宅配が伸びていたのもあり、食品配送という枠は払いのけて、個配業界へ参入していきました。
コロナ禍を経て、運送業だけじゃやっぱあかんのかなという不安も出てきまして、「何か他でもチャレンジしたいな!」とアンテナを張り出しました。

―記者―
そうなんですね。また次のステップに?

―後藤さん―
そうですね。
時を同じくして、義理の父もコロナ禍でいろいろ考えることがあったようでして。
パン職人である義理の父の“クロワッサン専門店をやりたい”という熱い思いと、“新たな事にチャレンジしたい”という私の思いが重なり、第1回事業再構築補助金の制度を活用し新たな挑戦が始まりました!

―記者―
いろいろな歯車がガチガチっとかみ合い始めたんですね!

―後藤さん―
“運送業から業態転換で菓子製造業やります”という方向性で事業計画を作成し、無事に採択!
2021年の11月クロワッサンと紅茶の専門店ができました。
物件探しや、業者探し、メニューの構成やらなんやらと話せば長いので、ここでは割愛させて頂きます。

―記者―
へえ~!

―後藤さん―
やっと「9683」が登場します。

―記者―
本当にすごいですね。
結婚やコロナがなかったらできてなかったですもんね。

―後藤さん―
そうなんですよ。
結婚してなかったら義理の父とも出会えていないですし。
僕がそもそも鉄道会社を辞めなかったらとか、酒屋に転職しなかったらとか、後になって考えてみると、全て偶然ではなく必然だったのかなと思います。


前編では、挑戦を繰り返し、一つずつ課題をクリア、ステップアップしてきた後藤さんの9683開業までのストーリーについて伺いました。後藤さんのように人やご縁を大切にしていきたいなと感じました。
後編では、クロワッサンと紅茶の魅力やこだわり、長田に対しての想いをお話していただきます。
(編集:ひより、かずみ)