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ここは、遅い世界。新長田共和国。【前田さんのWSレポ最終回】

長田区まちづくり課のヒラノです。
「長田の生き残り戦略ワークショップ」開催にあたり、長田区在住の前田さんにレポートをお願いしました。この記事は、そのシリーズの最終回です。
先にお断りしておくと、ワークショップのことはもう全くと言っていいほど関係ない内容になりました。(笑)

「これ、レポートとして大丈夫かな…!?」という懸念が一瞬頭をよぎりましたが、そんなことはどうでも良くなるくらいに長田の良さがじんわり伝わる文章だったので、そのまま載せてしまいます。

前田さんによるこれまでのレポート記事はマガジンにまとめています。ぜひご覧ください。

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疲れた。やり切った。もうアフリカはしばらくええわ。

11月21日、新長田がアフリカ色に染まった。主催はアフリカ人ダンサーのアラン。運営としてここ2週間ほどなく準備に追われ、イベント当日には喉が枯れ終了してからも体調を崩すほど全精力を使い果たした。「もー!大変!」その一言に尽きる。
補助金やら会場の問題やらチケットの販売やら。義務教育で習った足し算、引き算の概念だと数字は消えていくはずなのに、1個減ると2〜3個増える不思議な現象。10ー10=0ですよね。10ー10=30とかなってるんですけど。全然減らないタスクにメンチ切りながらなんとか開催まで漕ぎつけた。

目標人数は100名。でもイベント1週間前にチケットは30枚しか売れてなかった。
「あー、怖いわー。アラン眠れないわー。」
そして迎えた本番当日。

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あれ?めっちゃ来てる。
え、180名来たん。まじで?

なんなら想像以上の光景が広がったこのイベント。
いったい何やったんやろか。
別にワークショップ自体とは関係ないけれど、長田の街の良さが詰まっていたような気がしたので4回目の記事として書こうと思います。

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主催はトーゴ出身のダンサー・アラン。日本に来て3〜4年、新長田の街で暮らす“ファミリー”への感謝を伝えたい。そんな気持ちを元に、アフリカンダンスのパフォーマンス、雑貨やフードの販売などアフリカンテイスト満載のイベントを行うというもの。

でも大ピンチの連続だった。

・予算がやばい問題(補助金もらえるの?え、全額とかではないの?え、どうやって借りるの?)
・コミュニケーション問題(「アラン、この前言ったよ?」「いや、初耳やねんけど、、、」の連続)
・そもそもフードで何出すか、当日誰が来るのかイロイロ決まってない問題。

そして何より目標100枚のチケットが30枚少ししか売れてない問題。

「やばいよ・・・どうしよう」
いつも陽気なアランの顔が露骨に暗くなっていく。

そんな運営チームを見かねた街の人たちがイベント1週間前に緊急会議。「そもそも何がしたいん?」「なんのためにやってんの?」「もっと具体的な情報欲しい!」おせっかいな街の人が集まり声をかけてくれた。

「とりあえず動け」

そこから手元に残っている全てのポスターを街中に貼りまくった。

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「このポスター貼らしてください」
そんな無茶なお願いにも、この街の人たちは気軽に乗ってくれた。

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いや、貼りすぎやろ。
【神戸からアジアへ】言うてる隣で【長田でアフリカン】言うてるやん。

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でも貼りすぎても何一つ怒られない。むしろ面白がってくれてる??

困った時はお互い様。そんな感じとか感じじゃないとか。

結果的に街を歩けばアランの笑顔が貼られまくってるジャックに成功。
この街の寛容さに感謝する日々と、アラン自身の愛され具合がわかる日々だった。


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そしてイベント当日。

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r3でのパフォーマンス。

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次は少し移動して、はっぴーの家ろっけんでのパフォーマンス。

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そして2日目。

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「なんだかアフリカの空と繋がっているような気がしました」

あるお客様はそんなことをボソッと言って帰った。
ほお、どうやら最高のイベントになったみたい。

いまさらだけど僕自身はアフリカンというものに興味はない。ダンスは好きだけど大きな音が苦手なのでイベントやライブ、特に太鼓の音が苦手。あと人がゴッタ返す中にいると息が詰まって疲れやすい。ファッションや持ち物もシンプルテイストが好きなので合わない(かわいいなとは思うけど)。
結局当日もトータル20秒くらいしかライブを堪能せずにずっと外で仕事をしていた。

「なんで自分がこのイベントやってんねやろ?」と自分でも思うけど、きっと深い意味なんてなく「アランが困ってたから」のひとつに尽きる。

今回巻き込まれた人もきっと同じ。

「なんかアイツら困ってるらしいで」
「何に困ってるんかようわからんけど、とりあえず集まっとこか」

そうやって損得勘定抜きで人の相談に乗り、アドバイスしたり仕事でもなんでもないのに時間を割いてくれた。合言葉をつけるとしたら「しゃあないなぁ」に違いない。

「この街じゃなきゃアラン、生きてないわ」
「新長田のみんな、ファミリーだから」

血なんか全然繋がっていないけど、ファミリーと呼べる繋がりがあるこの街だからこそできたイベントだったのかもしれない。


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キレイゴト。

個人的に「多様性、ダイバーシティ」という言葉に違和感を感じている。
言葉自体というより、言葉にした途端に大事なものが抜け落ちて、綺麗に整理されてしまっているように感じる。キレイというかなんというか。

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「コミュニティ」
「ダイバーシティ」
「インクルーシブ」

例えて言うならアパレル・雑貨・ゲーセン・映画館の入った商業施設みたいだなって。確かに色々あるけど整いすぎているような感じ。

言葉にするのは簡単だけど、実際に生み出すのは簡単なものではない。
本当に多種多様でいろいろな人が共存しているこの街での暮らしを通して思うようになった。

見かけはボロッボロでも、誰が買うねん?って商品売ってても、そこにいる人を感じて歴史を感じる。人間の色が滲み出ているようなお店が並ぶ商店街。それが美しくキレイだと感じる。

ココハドコ!??

タイ、ベトナム、インド、そしてアフリカ…。長田の街は、見渡す限り色々な国のお店がある。街を歩けばすれ違いざまに中国語や韓国語が聞こえてくるし、コンビニやお店の店員さんにカタコトの人もフツーにいる。

一方、純喫茶では新聞を広げてタバコをぷかぷか吸うおじさん、その外にはパチンコ屋に並ぶ人、めちゃくちゃ昔ながらの日本の光景が広がっている。商店街では老若男女が買い物してるし、下校中の小学生も喧嘩か遊びかよくわからないコミュニケーションをとりながら走り回っている。

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普段はそれが当たり前。朝も昼も夜も。ぐちゃっと混じり合った感じ。でも街を一歩出て都会を歩くとその景色がちょっとした異常なんだと思う瞬間がある。
言葉と同じように綺麗に整えられていて、スムーズだけど引っ掛かりがないような。そこにどこか物足りなさを感じてしまう。


ワタシハダレ!??

多くの変な人が暮らしている。(変な人=自分なりの軸で生きようとしている人と思っているので褒め言葉)
一般的な物差しでは決して住みやすいとは言えない場所を、住みやすいと感じている。やっぱり変。

その一つは、この街独特の寛容さ。外者に対して拒否をするわけでもない。だからといって熱烈な歓迎をする訳でもない。挑戦する人にもそうでない人にも寛容で。きっと有名人が来ても「へー」で終わるだろうし、何かしらの権力者が来ても「お前誰やねん」と言えてしまうようなところ。
外ズラなんてどうでもええねん。わたしら人で見てんねん。
それがちょうどいい距離感だと思った。

そんな環境の中で暮らしていると、「自分ってなんなんだろう?」と日常的に考えさせられる。そして必要以上に干渉されることはない、何にも言われないからこそ自分で動いたり行動する必要がある。

遅い世界

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情報が洪水のように流れていくこの時代。目に、耳に、脳みそに膨大な量の情報が日々流れてくる。インターネットに繋がれてる以上、どこにいても情報自体は取ろうと思えば取れる。でもこの街にいると遅く感じる。走り続けなくてもいい。立ち止まってもいい。振り返ってもいい。誰に言われたからではなく、そう思えるようになった。下町文化から醸し出される風土なのか、単純にぐうたらしているからなのか、なんなのかよくわからない。でも気付かぬうちに電脳空間にのめり込んだ頭から、人間らしい世界に戻してくれる。ふとした時に地に足をつけて元のポジションに戻してくれるような気がしている。遅い世界。早すぎる世界の中で、とても大切な要素のように思う。

新長田は共和国かもしれない

いくつもの階層が複雑に折り重なっていて、適度な距離感と困った時にはお互い様という下町文化が形成されている。

みんながみんな自分勝手で、生きたいように生きていて。
まんまるな輪ではなくて、歪な形をしているけどそこがふんわり共存している。
世代もバラバラ、趣味嗜好もバラバラ、国籍もコミュニティもバラバラ。
きっと決して一つになんかはならないけれど、あなたはあなた・わたしはわたしを持ったままそれぞれを認識しながらだけど共存しているように見える。

だからここは共和国。

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なんやねんアイツと思っていても、いざという時には力を貸す。震災という困難を超えて残った下町文化。行政や消防などのライフライン、いくら電波が5Gになっても心の部分までは届かない繋がり。人間の明・暗どちらも踏まえた上でこの街で共存している。そこに真の多様性があるんちゃうかな。知らんけど。
(散々書かしてもらったけど、長田区だけでも地域は広い。なのでここで書いたのが長田区の全てではないと思ってます)

ココハドコ、ワタシハダレ?
別にどこでもエエし、誰でもエエわ。
ここでは肩書きとか特に関係なし、
別に細かいとこはどうでもええし。

居心地がエエコトもあれば、息苦しいコトもある。
幸せな時間もあれば、クソめんどくさいコトもある。
人間イロイロ、人生イロイロ。
明るいイロも、真っ暗なイロも、粘っこくて仄暗い水の底のようなイロも。

良いも悪いも、
遊びも暮らしも学びも、
生きるも死ぬも、

この街にはカラフルな色がグラデーションのようにごっちゃ混ぜ。

ココハドコ?ワタシハダレ?
今日も今日とてごっちゃ混ぜの中で時間は流れる。
ここは新長田共和国。

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Photo:阪下滉成