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〇〇デザイナーの〇〇って?

接頭語が表す専門分野
皆さんご存知の通り、デザイナーにはそれぞれに得意とする専門の領域があることから、その専門を表すためにデザインの前に接頭語がくっついています。
ファッションデザインやグラフィックデザイン、ウェブデザインにプロダクトデザイン。ユーザーインターフェース(UIデザイン)や近年ではユーザーエクスペリエンス(UXデザイン)。そして私の専門のひとつ、建築デザイン。他にもキャリアデザインなど、まるで磁石のように何とでもくっついてしまうのではないかと思うほど多岐にわたっています。

その理由のひとつとして、それだけデザインという概念の幅が広いこと。そして、専門職であるために「狭く深く」取り組まなければなかなかものにならないということが挙げられるでしょう。

適切な例えかどうかは分かりませんが、オーケストラを例に挙げれば分かりやすいかもしれません。ひとつの楽器をとことんまで追究して、それぞれのプロフェッショナルが合わさってひとつの素晴らしい音楽にまとまります。
AさんはピアニストでBさんはバイオリニストといった具合です。

だから私たちデザイナーも同じように、
CさんはファッションデザイナーでDさんはグラフィックデザイナーというふうに接頭語でもって自分の肩書き(=アイデンティティ)とするわけですね。

領域を横断するひとの悩み
私は自分の名刺をつくるときに、未だにこの肩書きに悩みます。社会的な立場や取り組みからみてもたぶんデザイナーではあるのですが、しっくりくる〇〇という接頭語がないのです。
冒頭で「専門のひとつである建築デザイン」と記したように、建築デザインだけをしているわけではありません。インテリアも家具もプロダクトもグラフィックもやります。文章も書きますし企画の立ち上げやワークショップもします。
たしかに大学と大学院はいわゆる建築学科を卒業しているのですが、だからといって「建築デザイナー」としてしまうと建築の仕事だけをする人として認識されてしまい、横断的な取り組みが出来なくなってしまいます。ほとんど仕方なしに、接頭語を除いて「デザイナー」としていますが、名刺交換の際にはほぼ100%何のデザイナーか問われます。横断デザイナーというわけにもいかず…

はたと気づいた恐ろしい矛盾
オーケストラの例を挙げた件のあたりで、「専門職であるために『狭く深く』取り組まなければなかなかものにならない」といったことを述べました。私自身、実はなにもものになってないのかもしれません。そう考えるととても恐ろしくなり、胸を張って言える「肩書きは何か?」というのを探してみたというのが今回の話です。

専門分野を表すことから視点を変えてみる
デザイナーが専門分野でザクッと分かれているのはこれまで述べた通りですが、デザインをする「領域」ではなく「目的」で捉え直してみましょう。デザインの目的というと、まず思いつくのが「売れること」。その場合は「商業デザイナー」と言えるかもしれません。
ほかにも働き方で捉えてみると、たとえば会社組織のデザイン部に所属してデザインをしている場合は「企業デザイナー」みたいな言い方ができるかもしれません。
そんなふうに、縦割りではないさまざまな見方をした場合に行き着いたのが、
「職業デザイナー」と「クリエイティブ(創造)デザイナー」という、ありそうでなさそうで、でもやっぱりありそうな接頭語です。

もちろん極めて個人的で乱暴な見解であることは先にお伝えしておきます。言葉の定義の曖昧さや細分化された業界によって意味合いが異なること、それ以前の問題としての指摘もきっとあることでしょうが、誤解を恐れずに進めていきたいと思います。単なる試論とご理解頂きどうかご容赦ください。

職業と創造の違いは?
さて、私は次の2つの点に着目しました。
①デザインに取り組む一連のフロー
②デザインの目的

①のフローについて、私たちデザイナーはプロジェクトをひとつの川の流れとしたときに下流にいると考えられます。
あるクライアントさんがプロジェクトを立ち上げ、彼らの意向や目的に沿って報酬を得て適切な解答を導くという流れです。このときデザイナーは職人として結果を求められる立場であるとも言えます。
当然、この場合のデザインの目的はクライアントさんに委ねられます。それが売上に貢献することなのか、社会的な立ち位置を獲得することなのか、目的は様々ですが、少なくともデザイナー自身が単独でそのプロジェクトにおけるデザインの目的を設定することはありません。

たとえば、ウェブサイトのバナーのデザインがそれに近い気がします。バナーは時事刻々と更新されていくものであるから、その都度クライアントさんの目的を汲み取り、美しくキチッとデザインします。それでいくとチラシなども近いかもしれません。
このようなイメージが、私のいう「職業デザイナー」でしょうか。

一方の「クリエイティブデザイナー」は、誰に頼まれることもなく、自分自身で問題提起をしてプロジェクトを丸ごとつくっていくイメージです。デザインのアイデアを実現させるために、企業の協賛や社会的な発信の場を得て、新しい価値づくりを目的とします。積極的にコンペやプロポーザルに参加する独立心の強いタイプと言えるかもしれません。

どちらも社会的な舞台で活動をしているし、必要とされているものなので、職業と創造どちらが良いとかいうことでは全くありませんが、こうした取り組み方と目的の違いによる役割分担みたいなものは、私が20年程デザインに携わってきた中でざっくりとあるように感じます。

何のデザイナーなのかも大切ですが、どんなデザイナーなのかを名刺交換の時に話題にできると、さらにもう一歩踏み込んだ美しくて強い人間関係を築く足掛かりになるかと思います。
まさに関係美学(このワードは以前記事にしました)。

そんなわけで、皆さま私と名刺を交換させて頂く際はぜひ、どんなデザイナーなのかと聞いて頂ければ嬉しいです。

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