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「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」のつくり方④ - DEAD or ALIVE 欲望の迷宮編

こんにちは、UXデザイナーの小林です。

2024年4月14日(日)まで、東京・有楽町で「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」が開催中です。残り1週間を切りました! 

この変わった名前の展示会は、さまざまなミニゲームや展示を通じて、ユーザーエクスペリエンスデザイン(以下UXデザイン)の面白さを手軽に体感できるイベントとなっています。

今回はその中から、トレジャーハンターになって財宝ゲットを狙う「DEAD or ALIVE 欲望の迷宮」についてご紹介します。


ゲーム紹介

「DEAD or ALIVE 欲望の迷宮」は、謎の古代遺跡を舞台にしたサバイバルアクションゲームです。プレイヤーは魔物がひしめくダンジョンを探索し、生きてゴールドを持ち帰ることを目的とします。

レトロな見下ろし型アクションゲームのスタイル

ゲームの最大の特徴は、リスクを冒して高いリターンを目指すか、それとも安全を選んで脱出するかの決断がプレイヤー自身に委ねられている点です。

この迷宮では、一定時間ごとに、脱出するか、さらなる挑戦を続けるかの選択を迫られます。時間が経過するごとに、ダンジョンの危険度が上がり、ゴールドと魔物が増えていきます。ダンジョンに長くとどまるほど多くのゴールドを獲得するチャンスが生まれますが、それに伴い魔物との遭遇率も高まります。

ダンジョンは時間経過とともに危険が増します

プレイヤーは、自身のスキルと状況を正しく評価し、最適なタイミングで撤退するか、さらなるリスクを冒して報酬を狙うかを決める必要があります。

制作の背景

このゲームに限らず、展示会向けに制作されたミニゲームに共通なのですが、展示会を構成する1要素として、「ゲームにおけるUXデザイン」を体感できる作品を目指しています。

制作にあたっては、みんなの心の中に残っている印象的なゲーム体験を調査するため、アンケート調査を行って、それを元にディスカッションを重ねました。

「難しいゲームをクリアした時の快感」や、「ギリギリを攻めるドキドキ」、はたまた「貴重なアイテムをゲットしたときの喜び」……。

ゲームを「面白い!」と思う時はさまざまですが、面白いゲームを成立させる要素として「リスクとリターン」のデザインは外すことができません。

初期企画書から抜粋

このミニゲームでは、時間経過とともにリスクが高まりますが、それと同時にゴールドを大量に手に入れるチャンスも高まります。
また、魔物を引きつけるとリスクが高まりますが、敵を引きつけてから無敵アイテムを取ることで、マップに存在する魔物を一気に倒しやすくなります。

初期企画書から抜粋

もはやゲームそのもの? リスクとリターンのデザイン

その昔、桜井政博さん(「星のカービィ」「大乱闘スマッシュブラザーズ」などを手がけた超・すごいゲームデザイナーさん)が、「ゲーム性とは何か」という問いに、こう答えてらっしゃいました。

ゲーム性とは「かけひき」。言い換えれば「リスクとリターン」である、と。

リスクとは、プレイヤーに対してプレッシャーとなる要素。最初からやり直しになってしまったり、手痛いダメージを負ってしまったり、とにかくプレイヤーが嫌な、できるだけ避けたいデメリットと言えます。

対してリターンとは、リスクと引き換えにプレイヤーが手にすることができる報酬のことを指します。勝負が有利になったり、貴重なアイテムをゲットできたり、ステージの先へ進むことができたり、内容はさまざまです。

このテクニックは、ありとあらゆる場所に使われています。

例えば、マリオのようなゲームでは、リスクは地面に空いた大きな穴であり、落ちればプレイヤーは失敗し、最初からやり直しとなるリスクを背負います。一方で、このリスクを冒して成功すれば、ステージを進めることができるリターンがあります。

また、アクションゲームにおけるボス戦もわかりやすい例です。

ボスから離れていれば強力な攻撃を避けやすくなりますが、そのぶん攻撃チャンスが減少します。逆に、ボスのすぐ近くで強力な攻撃を避けることに成功すれば、大きな攻撃チャンスが得られる設計になっていることが多いです。これも、リスクを負うことで、プレイヤーにリターンを得るチャンスを与えていますね。

アクションの要素がない、RPGの場合はどうでしょうか?

こちらの場合は、アイテムやスキル選択に強く現れるのではないかと思います。大量のMPを使って大きなダメージを狙うか、いや、まだこの先が長いから温存するか……。あるいはもっと単純に、強力なアイテムや装備を入手するためには、強敵や危険なダンジョンに挑む必要がある場合もありますね。

そして、ゲームをより味わい深いものにするのは、どのリスクを負いリターンを狙うかの判断をプレイヤーに委ねることです。

同時に、これは優れた難易度調整にもなっています。プレイに不慣れな人はより安全な選択をとってもいいですし、逆に上級者は自分の腕を信じて、ハイリスク・ハイリターンを狙いに行きます。プレイヤー自身が、挑戦のハードルを設定するのです。

ちょっと話が長くなっちゃいましたが、今回のミニゲームも、これらリスクとリターンのデザインを体感できるように制作されています。ぜひ、「挑戦」してみてください。

適度なストレスは必要だよね、という話

ちなみに、行動経済学という学問の分野では、多くの人は損失を避けるためにリスクを取ることをためらう傾向がある、とされています。これは「損失回避バイアス」などと呼ばれ、得ることよりも、失うことをより重く感じる傾向があるそうです。

しかし、ステージに穴がひとつも無かったらどうでしょうか? 敵キャラが一人もおらず、ただ一直線にゴールへ向かうことができたとしたら?

そこにはストレスはありませんが、同時に達成感もありません。いや、達成感がないこと自体がストレスかも?……どちらにしても、ゲームとしては成立していませんね。

これはゲーム以外の分野でも言えて、多くのサービスや製品は、ユーザーが快適に使用できるようストレスを最小限に抑えることを目指して設計されていますが、同時に画一的になり、手ざわりのようなものが消えるリスクもはらんでいる気がします。

ユーザーに快適さを提供しつつも、適度な刺激や「良いストレス」を与えることが、魅力的なデザインの鍵となるのかもしれません。

最後に

東京・有楽町で開催中の「人生の大切なことをゲームから学ぶ展」は、ゲームの楽しさを通じて、UXデザインの魅力を無料で体験できるイベントです。

冒頭でお伝えした通り、残り1週間を切りました。この機会に是非展示会へお越しいただき、楽しんでいただければ嬉しいです。



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