見出し画像

ナウシカと風のある生活と塗り替わった新エネ勢力図【未来を生きる文章術002】

 2002年1月16日の文章。連載2回目。

 新エネルギーへのとらえ方って、ポスト3.11でまったく変わりましたね。東日本大震災と原発事故、そして2012年から始まったFIT法に基づく固定価格買取制度。
 サステイナブル・ジャパンの記事を参照すると、当時の記事で2010年に日本は300万キロワットを目標と書いていますが、これはほぼその通りに進んできた様子。

 しかし世界の変化はそれどころじゃないですね。当時2,400万キロワットだったのが、およそ20%という伸びをずっと続けてきて。2017年には5億4,000万キロワットです。
 なにより、国別の変化がすごい。当時のトップはドイツと書いていますが、アメリカがそれを抜き、それ以上に急伸して現在のダントツは中国です。中国パワー、こんなところにも。

 文章的には、硬い話を柔らかい切り口から入るよく使う手で、映画『風の谷のナウシカ』から入っています。いやぁ、ぼくのフェイバリットのひとつなんです。
 で、叔父の日常生活の話に移る。当時は身近でない新エネルギーの話だけでは読者は置いていかれるかなと。それで具体例を示し「絵」を見せる工夫ですね。一方で風車の話からオランダの風景も並べて、見える絵に広がりを持たせておく。

 だけど最後はもう一度、家庭における自然エネルギーの風景。世界の動きも、一人一人の生活の積み上げからという思いからですね。
 こうした、できるだけ身近にひきつけて文章を締めるというのは、この連載に限らず、ぼくが書く文章に共通した特徴ではないでしょうか。たぶんこのあたりが、ぼくの文章家としての個性なのでしょう。

■ ■ ■

新エネルギーと風車のある生活

 ヒットを続けている映画『千と千尋の神隠し』の宮崎駿氏が監督した作品に、『風の谷のナウシカ』があります。近未来の大戦後を舞台にした物語で、主人公たちは風の吹く村で風車による動力を利用して暮らしているのでした。毒をもつ植物におおわれた「腐海」と対照的な、のどかな風景です。
 米国の地球政策研究所の発表に基づくニュースを読んで、風の谷の人々を思い出していました。昨年世界で建設された風力発電所の設備容量が総計で2330万キロワットに達し、前年から31%伸びたというのです。
 地球政策研究所の所長、レスター・ブラウンは、ワールドウォッチ研究所を設立し、『地球白書』と題した地球環境レポートを毎年発行してきたことで知られています。今回の発表にも、地球が「風の谷」でいられる可能性が少し見えてきたという希望、いえ、見えて欲しいという願いが込められているように思います。

 現在、世界でもっとも多くの風力発電所を持つのはドイツで、全体のほぼ3分の1にあたる800万キロワットの供給力を備えています。日本の設備容量は、経済産業省総合資源エネルギー調査会の報告書によると、1999年度で8.3万キロワットの実績。2010年には300万キロワットが目標としています。
 ちなみにわが家の1カ月の電気使用量は約350キロワットhですから、単純計算なら0.5キロワットの供給力があればまかなえる数字です。もちろん、実際にはピーク時の電気使用量などを見込んで設備容量を準備することになりますので、ひとりあたり1キロワットとして、300万キロワットの容量があれば、約300万人が暮らせる供給力となります。

 埼玉に暮らす叔父が自宅に風力発電機を付けたことを思い出しました。太陽電池パネルも併設した、いわば新エネルギー発電塔です。軒に並んでカタカタと回る風車のたもとに、「風と太陽でエコロジーの楽しさを。」とコピーを書いた看板を、叔父はつけたものです。
 いま叔父は電力の消費者であると同時に、余った電力を販売してもいます。こうした売電の制度だけでなく、新エネルギー・産業技術総合開発機構が草の根レベルでの導入支援策を準備するなど、日本でも新エネルギー普及への道筋が徐々についてきました。

 風車のルーツは、10世紀ごろのペルシアにあるといいます。製粉に使われるなどヨーロッパで普及し、ことにオランダでは干拓地の排水のために多くの風車が利用されることになりました。ピーク時には、北部7州全部で約8000基の揚水用風車があったといいます。
 18世紀に入って蒸気機関が発明されると姿を消していった風車ですが、21世紀、ここ東洋の国で新しい役割と新しい姿で数多く見られるようになるかもしれません。

 その後の様子をたずねるため、叔父に電話しました。太陽光発電は順調だけれど、風は住宅地ということもあって、それほど吹かないのが残念といいます。それだけに、強く風の吹く日は、室内で表示パネルをみながら「回ってる回ってる」とひとり喜んでいるのだとか。
 風車のある生活。叔父にとっては北風もまた友だちなのだろうな、そんなことを思いつつ、受話器を置きました。

ゼロ年代に『日経ビジネス』系のウェブメディアに連載していた文章を、15年後に振り返りつつ、現代へのヒントを探ります。歴史が未来を作る。過去の文章に突っ込むという異色の文章指南としてもお楽しみください。