名前

愛すべき我が友人Tの話② ~最強のネーミングセンス~

 この世界には、あらゆる物事に“名前”が付けられています。ある対象に何らかの名前をつけるというのは、例え学者や研究者でなくとも、誰しも一度くらいはそういった場面に遭遇したことがあるのではないでしょうか。子供が生まれたり、ペットを飼うことになったり・・・といった具合にね。

 この記事は前回に引き続き、我が友人Tにまつわるエピソードを書き留めた内容となっています(ここでも前回同様、以後Tのことはタナカという仮名で表記します)。

 第二弾となる今回は、“最強のネーミングセンス”と題しました。・・・前回の記事を読んで下さった方ならば、どういう意味で最強なのかは、既に察しがついておられるのではないでしょうか(笑)。ということで、かつてタナカが名付け親になった生き物たちについて、強烈に印象に残っている話を3つほどご紹介したいと思います。

 まずは、小学生の頃の話。当時、タナカは昆虫博士のような少年でした。(昆虫以外にも、色々な生き物に興味があったという方が正しいかもしれませんね)。そんなタナカ家の玄関先には、たくさんの虫かごが置かれていました。カラの虫かごも当然ありましたが、ほとんど全ての虫かごには何らかの生き物が入っており、彼はそれらを根気よく世話していました。

 ある日、タナカ家に遊びに行った時。玄関先でタナカと立ち話をしていた私は、ふと、ある虫かごを手に取りました。よくある緑色のプラスチック製の虫かごには、黒い生き物が入っていました。それは、よくよく見ると昆虫ではなく、ずんぐりとした丸いフォルムの、真っ黒い蜘蛛でした。

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 今となってはハッキリ覚えていませんが、こんなイメージだったでしょうか・・・。ちなみに私は、毛虫や芋虫は別として、昆虫は基本的に平気ですし、蜘蛛もへっちゃらです。

 当時、自分の周辺で蜘蛛を飼育している人物はタナカくらいでしたので、私は興味が湧いてきました。そこで私は、これは何という種類の蜘蛛なのか・・・という意味で、タナカに尋ねてみました(アシダカグモとかジョロウグモとか、そういうことが聞きたかったのです)。

私「タナカー、これ何ていうの?」

タナカ「ああそれ。ソイツは・・・ごんざえもん!

私「ご、ごんざえもん!!?wwwΣ(・ω・ノ)ノ

 予想外すぎる答えに、私はめちゃくちゃ笑いました。タナカはご丁寧に、蜘蛛に名前まで付けていたのです。しかも・・・ごんざえもん(笑)。結局、何という種類の蜘蛛なのかという話はそっちのけで、ごんざえもんという名前の話で大いに盛り上がりました。

 後日、タナカの家を訪れた時、ごんざえもんが入っていた虫かごがカラになっていることに気付きました。タナカにその件を尋ねると、「逃げた」とのことでした。ごんざえもんは、その後どういう生涯を辿ったのでしょうね・・・。

 続いては、中学生の頃の話。冬の寒い日に、複数の友人とともに、タナカ家へ遊びに行きました(確か12月くらいだったと思います)。寒い中チャリを飛ばして、ようやく到着。家に上がらせてもらって、しばしの間、休息を取りました。

 ちなみにこの頃には、タナカの昆虫熱も薄れており、玄関先の虫かごは綺麗に片付けられていました。・・・かつてのごんざえもんの一件は、遠い記憶の話となっていたのです。

 さて、休憩がてら、皆で思い思いに雑談をしていた時のことです。何気なく、私がタナカ家の中庭に目をやると・・・。そこには、植木鉢が1つ置かれていました。そしてなぜか、真冬にも関わらず、鉢植えの花が咲いていたのです。しかも、明らかにその花は、朝顔にしか見えなかったのです・・・!

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 最初私は、自分の見間違いだと思いました。しかし、何度見ても、その花はそこに存在していました。自分が知らないだけで、世の中には、真冬に花を咲かせる朝顔のような植物があるのかもしれない・・・と考えました。あるいは、タナカ家の庭で植物が突然変異を起こし、枯れるはずの植物が真冬でもピンピンしているのか、とも想像しました。

 そのうちに、一緒に遊びに来ていた友人たちも、謎の花の存在に気が付き始めました。見た目は朝顔そのものでしたが、常識的に考えると、やはりそれはおかしい話です。では、あれが朝顔でないとすれば、本当に一体何という植物なのか。気になりますよね。

 私は、タナカに、あれはなんという名前の植物なのか尋ねてみました。・・・察しの良い方なら、もう展開はお分かりでしょう(笑)。

私「タナカ・・・あの花は?」

タナカ「あー、あれね。あれは・・・ゴンザレス!

私「ゴ ン ザ レ ス ! ! ?www

 友人一同、大笑いでしたね。そりゃそうでしょう、まさかの花の名前がゴンザレスって(笑)。この時になって、私は、かつてのごんざえもんの一件をハッキリと思い出したのでした。

 ごんざえもんのエピソードは、私とタナカしか知らなかった話ですし、あの後誰かに特別その話をしたこともなかったので、その場でついでに披露したところ、それはもう盛り上がりましたよ(笑)。・・・それにしてもタナカ、お前さん名前を付ける時に“ごん”ってワード使うの好きすぎじゃない?(笑)。

 気になっていた花の正体は、間違いなく朝顔でした。なんでも、最初は普通に屋外に置いていたんだそうです。やがて季節は移り、寒い時期になってから、一鉢だけは室内に入れて今日まで育ててきた・・・とのことでした。

 そういうわけで、真冬でも枯れることなく、屋外で朝顔の花が咲いていたというのが真実でした。・・・しかし、なぜそこまでして育ててきた朝顔を、今更外へ放り出したのか? それについては、

「何かもういいや、ってなったw」

と、タナカは笑って答えていましたが・・・。せめて一冬越させてあげるとか、そういう発想はなかったものかなぁ。ちなみに後日、タナカ家を再び訪れた際には、当然のごとくゴンザレスの姿は見当たりませんでした(タナカは一言「枯れた」と。まぁ、当たり前ですよね・・・)。

 それからしばらく間が空いて、大学生になった頃。ある日私は、タナカ家で水槽の魚を眺めていました。大学生になったタナカは、魚を飼育するのに熱中し始めたのです。室内に大きな水槽を用意して、それこそ色んな魚を飼っていました。

 この時、一緒にタナカ家へ遊びに来ていた友人が、大きな魚や珍しい魚が揃っている中で、わりあい地味な小さな魚が居るのを発見しました。

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 その魚が居る水槽の中には、何やら筒状の物体が設置されていました。ひょっとして、これは・・・? 何となく想像はついたのですが、タナカに聞くと、

「こないだ川へ行ったら、偶然捕れてな~。それ、鰻の子供やで

との返答が。なるほど、だから身を隠せるように、筒状の物体が水槽に入れてあったわけですね。今でこそ、鰻は絶滅危惧種だのなんだの騒がしい世の中ですけれど、10年以上前は静かなものでした。

 ・・・さて、そうなるとですね(笑)。“ごんざえもん”“ゴンザレス”という経緯を辿って、ここまできたわけですよ。さすがの私も、また名前を付けているのだろうな、ということは察しが付いていました。

 今度は果たして、どんな“ごん”シリーズが飛び出すのか・・・!?

私「ところで、この鰻はどうするんや?」

タナカ「このまま飼うよ~」

友人「大きくなるまで育ててから食べるの?w」

タナカ「食べへん食べへん! 純粋に飼育しとるんさ」

 食べられるサイズになるまで育てようと思ったら、どれくらいの期間と労力が掛かるのかな~・・・なんてことを頭の片隅で思いながら、いよいよ核心に迫りまりました(笑)。

私「なるほどね。・・・で、こいつの名前は?

タナカ「あ、名前あるよ! こいつは“蒲焼き”って言うんやわ~」

私「食う気満々やないかい!www

 ・・・まさかの“ごん”系の名前じゃない名前でした(笑)。

 これまでのいきさつを知らない友人は単純に笑っていましたけど、私は個人的に軽く衝撃を受けましたね。・・・というか、食べないって言っているわりに名前が蒲焼きってどうなのよ(笑)。

 その後、蒲焼きは病気にかかってしまったらしく、大きく育つ前に死んでしまったそうです(白いカビみたいなのが体に生えてしまった、とタナカは言っていました)。

 いかがでしたでしょうか。このネーミングセンス、中々真似できるものではないと思います(笑)。なお、朝顔のゴンザレスについては、蜘蛛のごんざえもんのウケが良かったからわざと付けたのかな・・・とも考えていました。しかし、名付けた本人でさえ、私がその話をするまで完全に忘れていた様子でしたので、純粋に“ごん”系の名前が気に入ってようです(笑)。

 ちなみに、なぜ鰻の名前が“ごん”系ではなかったのかと尋ねると、

「いや~、やっぱり鰻といえば蒲焼きやからさ~!

・・・とのことでした(笑)。

 


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