追悼、うちのジジイ

4月27日の朝、じいちゃんが死んだ。

じいちゃんが息絶えた時、母は何もない床で転び、両足と肋骨を骨折して入院していた。私は東京に住んでいて、新型コロナウィルス流行の真っ只中でもう若くもない母親にウィルスを移すリスクを冒してまで、じいちゃんの弔いをしに帰省する気にはなれなかった。

時期も時期だし、そもそも本人が質素な見送りを希望していたらしい噂もあって（意思表示カードがあったのに、母が紛失したらしい）葬式は行われず、じいちゃんは病院に外出届を出した母と従兄弟たちのみで火葬された。

往生したと思うし、じいちゃんに懐いてもいないので、打ちひしがれるような悲しみはないが、それでも死顔も拝まずに2度と会えないのはちょっと感情が昇華しきれなくて気持ち悪い。

母子家庭で一人っ子の私としては、じいちゃんは数少ない血縁者であったことも確かだ。小学5年〜高校2年までの約6年は一緒に暮らしてもいた。
どちらかというと苦手だったけど、大人になってからは「じいちゃん目線で見れば違う景色があったのかな」と考える時もある。

だから、じいちゃんがまだ生きている頃に私が書いたエッセイをここに載せて、一応じいちゃんの追悼イベントとします。

見出し画像は、私が「死んだらこんな場所に行くのかな〜」と思った桜の景色。
じいちゃんも、こんな綺麗なところに行けたのかなぁ。
お疲れ様でした〜

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じいちゃんの戒名をつける

母に「おじいちゃんの戒名をつけてよ」と言われた。

因みにうちの祖父はほぼ90歳で存命だ。しかし、母が祖父が亡くなった際に高いお金でお坊さんにありがたい戒名をつけて貰うのはもったいないと言うので、祖父が亡くなる前にこっちで用意することにした。

戒名とは死んだ後の名前だが、死んだ後に戒名が付かず元の名のままだと恥ずかしい目にあうかもしれない。閻魔大王から審判を下され地獄行きが決定した際、本名のままだと「あの人地獄行きだわ」と身バレしてしまう。そんなの深夜ラジオに投稿した下品で馬鹿なメールを本名で読み上げられてしまうぐらい恥ずかしいに決まっている。じいちゃんは十中八九地獄行きなので、心して戒名をつけてあげたい。

文字数などは、祖母の戒名に倣って●●△△居士というスタイルとする。●●は道号でだいたいは生前の職業や性格・性質の文字だ。△△はズバリ戒名といい最低限この2文字があれば戒名として成立するらしい。生前の名前の文字に性格・性質、その他ありがたい文字など適当につける。

戒名をつけるに当たり、まず、じいちゃんを表すエピソード書き出してみよう。

・酒乱なので酒を飲んで妻を殴っていた。そのため妻・子供から嫌われている。
・酒乱なので酒の席で上司を殴り出世出来なかった。
・酒乱なので祭の日に酔って妻の妹に噛みつき、大怪我を負わせた。そのため親戚から嫌われている。
・不倫をしていたため、妻・子供から嫌われている。
・家の向かいの畑（人の土地）で焚き火をして火事にしたため、隣近所から嫌われている。
・出戻りの娘と孫（私）を「電気代泥棒」呼ばわりする。そのため、娘と孫に嫌われている。
・孫（私）の通学自転車を勝手に改造し、バイク用のデカいミラーとデカいベルを付けた。私は朝、通学しようとチャリ置き場に行って半ベソで家に駆け込んだ。
・趣味は工事。壊れていなかったお風呂を勝手に工事して壊した。
・家の改装も得意。刺激の強い塗料を壁に塗って、孫（私）の顔が腫れ上がった。
・発明家。私の友だちの親が営む司法書士事務所に特許をとりたいと相談に行き、「特許をとる手続きはうちでは出来ません」と断られた。私はそれを学校で友だちからネタとして聞かされた。
・趣味は短歌を読むこと。晩年、何かに入賞したらしい。

……と、まぁこれくらいにしておこう。

じいちゃんの名前は康一なので、名前からは康の字を取ることにする。他の3文字をどうするか。親戚にも披露しなくてはならないので、出来るだけ良いイメージを抽出する方が無難だ。人生の功績の部分はえっと……短歌で何かしらの賞をとったことくらいかな。歌人・詩人・文豪の戒名には文という文字が入ることが多いので、文とつけてあげることに決定しよう。あとは工事をしたり発明したり、なかなかクリエイティヴだと思う。創はどうだろう。順調に2字決まったが、文・創だけではおとなしすぎる。

エピソードを見たら分かるようにじいちゃんはかなり血の気が多い、暴力的な人間なのだ。暴力の暴……？安直だしイメージ悪すぎるかな……

悩んだ末、辿り着いた1字は“烈”だ。激烈の烈、性格の激しさを表している。
しかも、火事を起こした時の烈火というイメージも兼ね備えている。いいね。

最終的に私はじいちゃんに“文創康烈居士”という戒名をつけた。戒名を既につけたことはじいちゃんには秘密である。

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