見出し画像

26.西晋王朝④ 先行研究覚え書(3)

(本投稿の)はじめに

はい、こぼば野史です。

第4回にして、このシリーズの難しさに直面している。実はこの前に1つの論文を読んだものの、纏めきれずに消したものがある。

今回、纏める論文は、

小尾孟夫「晋代における将軍号と都督」(『東洋史研究』37巻3号、1978年、418-441頁)

である。

あいさつがあまり思いつかなかったので、すぐに纏めようと思う。

一、以下、文中の語句は、論文の仕様に従うこととする。
一、論文は旧字体で書かれているが、本稿では新字体に改めた。
一、用語解説の代わりとして、各用語にはコトバンクのリンクを附した。

―――――――――――――――――――――――――

はじめに

地方軍……都督や刺史が率いる軍隊
中央軍も地方軍も将軍を与えられる
越智重明説……「四征」将軍が東晋以後虚構化
宮崎市定説……将軍号がインフレ=名目化

〈論点〉
①晋代の「四征」将軍号とその領職である都督の関係の変化
②都督制度の発展過程

1.「四征」将軍、都督に関する諸問題

越智重明氏の指摘……「四征」将軍は都督と州刺史を軍事的支配をしている

〈論拠〉
①『晋書』の記事(車騎将軍が上表して州刺史を任命させている記事あり)
官品の上下

官品の上下の詳細

小尾孟夫「晋代における将軍号と都督」『東洋史研究』37巻3号、1978年、418-441頁 - Word 2021_09_03 0_59_27

論拠のまとめ

まとめ①
魏王朝では四征将軍、四鎮将軍が第2品で最高位=四征将軍、四鎮将軍は都督と州刺史を支配
          ↓
晋王朝以降では都督は持節都督になり支配・被支配が逆転、持節都督が最高位=持節都督は四征将軍、四鎮将軍、州刺史を支配
まとめ②
魏王朝では都督は州領兵刺史より下位&州単車刺史と同位
          ↓
晋王朝以降では刺史領兵者、刺史不領兵者の上位
まとめ③
①②から、魏王朝では四征将軍、州刺史、都督の三者で都督は最下位
          ↓
晋王朝以降、都督は持節都督になり最上位

※「諸持節都督」とは具体的に何かは不明

都督の1つに都督州郡諸軍事あり、都督州郡諸軍事には3段階、節にも3段階

小尾孟夫「晋代における将軍号と都督」『東洋史研究』37巻3号、1978年、418-441頁 - Word 2021_09_03 1_08_37

(都督諸軍、監諸軍、督諸軍が都督州郡諸軍事の3段階、使持節、持節、仮節が節の3段階)

驃騎将軍、車騎将軍、衛将軍、諸大将軍
……開府すれば第1品、四征将軍、四鎮将軍は開府しないならば第2品→持節都督の場合、参軍が増員して6人

魏王朝の第5品「都督」とは
「護軍都督」であり、「諸軍司」と同じく都督諸軍事の属官

都督の淵源
後漢末の混乱曹操政権→魏王朝で制度化

都督とは
州刺史、太守、将軍の領職であり、官品に列せられず

2.「四征」将軍と都督

「四征」将軍が都督または刺史を領職としている例は少ない
「四征」将軍の管轄諸州=都督や刺史の州支配?

通典』魏官品
諸四征四鎮将軍、車騎、驃騎、諸大将軍…第2品
諸征、鎮、安、平将軍…第3品

『三国職官表』
四征、四鎮将軍…第2品
四安、四平将軍…第3品

宋書』職官志
四征、四鎮将軍…第2品(三公(第1品)に次ぐ)

〈魏王朝初期〉
四征、四鎮将軍と車騎、驃騎、諸大将軍と官品は同じ(第2品)

〈魏王朝中期・後期、両晋王朝〉
四征、四鎮将軍(第3品)<車騎、驃騎、諸大将軍(第2品
※四征、四鎮将軍が大将軍=第2品、大将軍かつ開府=第1品
「四征」将軍が第1品~第3品の地位を占有

都督に結び付く将軍号…中郎将(第4品)(中心の将軍号は第5品まで)
⇒雑号将軍号があまりない時代に第1品~第4品の将軍号が用意

「四征」将軍と都督の関連=東西南北の地理

小尾孟夫「晋代における将軍号と都督」『東洋史研究』37巻3号、1978年、418-441頁 - Word 2021_09_05 16_33_55

〈魏王朝&西晋王朝〉
予州都督=東征将軍or南征将軍
荊州都督=南征将軍
〈東晋王朝〉
①都が極東の建康=東征将軍なし
②荊州都督=西征将軍
揚州都督&会稽郡都督=近畿なので「東征将軍」を号せず

3.晋代における将軍号と都督

(1)将軍号と都督の形態
〈西晋王朝〉
・都督諸軍事=都督揚州諸軍事、都督荊州諸軍事、都督関中諸軍事
→「四征」将軍(第1品~第3品)、他第1品~第4品の将軍号と結ぶ
「四征」将軍が中心
・都督監諸軍事=都督監諸軍事、都督監予州諸軍事、都督監沔北諸軍事、都督監幽并諸軍事
→第3品~第4品の将軍号と結ぶ
四安、四平将軍が中心

〈東晋王朝〉
・都督諸軍事=(都督揚州諸軍事、)都督荊州諸軍事、都督徐州諸軍事
→第1品~第3品の将軍号(他第3品の中書監あり)と結ぶ
「四征」将軍、第2品~第3品の将軍号が中心
・督諸軍事=督沔中諸軍事(都督荊州諸軍事の支配下)
→第3品~第4品の将軍号と結ぶ
第3品~第4品の将軍号が中心
・監諸軍事
→第3品~第5品の将軍号と結ぶ
第3品~第4品、特に四中郎将が中心

(2)四中郎将の地位の変化
〈魏王朝〉
四中郎将…督諸軍事のみと結ぶ

〈西晋王朝〉
四中郎将…督鄴城守諸軍事(唯一の督諸軍事)と結ぶ

〈東晋王朝〉
四中郎将…監諸軍事と結ぶ
地位の上昇

魏王朝~宋王朝の四中郎将の官品=第4品
⇒魏王朝&西晋王朝=第4品、東晋王朝=第3品

(3)都督の将軍号の意義
〈魏王朝&西晋王朝〉
督諸軍事が主体…「四征」将軍と並ぶ=「四征」将軍の領職
but督諸軍事が「四征」将軍の領職から脱し、上下位の将軍号と結ぶこともあり

〈東晋王朝〉
魏王朝&西晋王朝の制度が展開&「四征」将軍が上下関係を示す手段
将軍号…官僚組織の上下を表す
都督の資格…第2品~第3品の将軍号
監諸軍事&督諸軍事の資格…第3品~第4品の将軍号

おわりに

都督…地方軍地の要として、「四征」将軍の領職として発展
→都督区の拡大&分化を経て四中郎将の地位上昇も招く
→「四征」将軍以外の将軍号とも結ぶ(都督諸軍事は第2品官、監諸軍事&督諸軍事は第3品官)
⇒「四征」将軍は虚構化

―――――――――――――――――――――――――

(本投稿の)おわりに

前回までの纏めとは、文量を随分と削ることができた。というのも、1章ごとに纏める術を身につけたからである。

前回までの越智重明氏の論文と同じく、魏晋南朝の都督制、所謂「軍制史」というジャンルを纏めている。

というのも、この時代は何かと軍制史(都督制)の議論が活発化していたようで、他の学者も軍制史に関する論文を幾つも発表している(これらも近いうちに纏めたい)。

今回の論文では、地方の軍事の求心力について、深く知ることができた。

他の論文と重ね合わせて考察を試みると、また新たな発見ができそうである。

また、都督制に関する研究は現在も進められているので、今後の動向にも注目していきたい。

今回はここまで。

頓首頓首。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?