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夏目漱石論2.0

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#私の学び直し

岩波書店・漱石全集注釈を校正する 13   ドライブ中の書生は学んでいるか

岩波書店・漱石全集注釈を校正する 13 ドライブ中の書生は学んでいるか

書生

岩波書店『定本 漱石全集第一巻』注解に、

 ……とある。夏目漱石作品の中では、『彼岸過迄』において田川敬太郎が大学を卒業後、就職先が見つからない浪人中に「書生」を自認する。こうした一部の例外を除いて、「他人の家に住んで家事を手伝い」というところまではその通りかと思われる。問題は「学ぶ」というところだ。これは朝晩家事の手伝いをして昼間学校に通わせてもらうという意味なのか、日中家事の手伝いを

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『彼岸過迄』を読む 4382  漱石全集注釈を校正する⑨ 島田は督促髷

『彼岸過迄』を読む 4382 漱石全集注釈を校正する⑨ 島田は督促髷

 日本語だから日本人には通じる、と思いこんで書いてしまうことがある。私は特にそういう書き方をしている。しかし他人の書いているものを読むと、これで意味が伝わるのかと思うことがある。

岩波書店『定本 漱石全集第七巻 彼岸過迄』注解に、

 ……とある。世界一高精度な翻訳ツールDeepLはこれを、

I like it, it's fine. One of the words often used b

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『彼岸過迄』を読む 4381 漱石全集注釈を校正する⑧ 中折は茶が主流だったのか?

『彼岸過迄』を読む 4381 漱石全集注釈を校正する⑧ 中折は茶が主流だったのか?

岩波書店『定本 漱石全集第七巻 彼岸過迄』注解に、

 ……とある。この点については既に散々調べてみたが、当時のことはなかなか分からない。

・明治四十一年、オリーブの中折が流行した。
・大正初期、青磁色の中折帽を被るものがあった。
・昭和初期、流行色は目まぐるしく代わる。昭和十年では、濃茶五、鼠三、薄茶其他二の割合であった。
・支那でも鼠、茶の流行が入れ替わる。
・土耳古では灰色、薄樺色又はオリ

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『彼岸過迄』を読む 4380 漱石全集注釈を校正する⑦ 「雷獣」はムササビなのか?

『彼岸過迄』を読む 4380 漱石全集注釈を校正する⑦ 「雷獣」はムササビなのか?

岩波書店『定本 漱石全集第七巻 彼岸過迄』注解に、

 ……とある。
 高等遊民の注解に関しては、まず漱石が再定義した文字通りの高等遊民の説明をして、社会問題化していた「いわゆる高等遊民」、つまり高等教育を受けながら職に就けない者の説明を欠いている点を指摘した。それは前者が松本恒三なら、後者が前半の田川敬太郎にあたるという設定を理解することが重要だと考えたからだ。

 この「雷獣」に関する注解は二

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『彼岸過迄』を読む 4378 漱石全集注釈を校正する⑤ 高等遊民は経済的に恵まれている訳ではない

『彼岸過迄』を読む 4378 漱石全集注釈を校正する⑤ 高等遊民は経済的に恵まれている訳ではない

岩波書店『定本 漱石全集第七巻 彼岸過迄』注解に、

 ……とある。『それから』の代助をはじめとする漱石作品の主人公を「高等遊民」の言葉でくくることが多いが、という点に関しては指摘の通り誤解が広く伝搬されている。

 その一つの原因は柄谷行人が創り出している。

 ただし、少しわかり難い説明になっている。

 おそらく注釈者には「経済的にめぐまれ、職業に就かず自由な立場で生活する知識人」という定義

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