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ヒッチハイク紀行文㉗ 尾道〜宮島SA

4月5日、9日目、晴れ。
朝起きると、部屋の前にキレイに畳まれた洗濯物があった。
昨晩女将さんにお願いしていたものだ。

「子どもを寝かしつけなきゃいけなくて......洗濯物、明日の朝でも良いですか?」

風邪をひいているのかちょっと枯れた声で女将さんは僕に尋ねてきた。
勿論、急ぐ必要もないので朝までにとお願いした。
今朝だって忙しかっただろうに、キレイに畳んでくれたのだ。
ありがたい。
身支度を済ませて共有スペースに行くと、小学4年生と3歳の息子たちが『おかあさんといっしょ』を見ながら朝ごはんを食べていた。
下の子は車が好きらしく、レゴで自分が組み立てた車を自慢してきた。
フリーの芋けんぴを朝ご飯代わりに頂く。
女将さんに再度ヒッチハイクポイントを相談してみた。
どうもこの辺りは成功が期待出来そうな場所は無いらしい。

「ふたりのかわいいこどもたちを元気に育て上げる!!子が大きくなったら夫とたくさん旅行する!!たのしみいっぱい☺︎
ヒッチハイクがんばってー!良い旅を!」

女将さんからも『じゆうちょう』への一言をもらった。
旦那さんには今回会えなかったので、また来ることを約束して別れた。

✳︎

予定していたヒッチハイクポイントまで徒歩10分とかからない予定だったが、車が停めにくそうだったり広島市内に行きそうな車が少なかったりで結局1時間以上歩いた。
なるほど、確かに良さげな場所が無い。
バイパスの乗り口付近でヒッチハイク開始。
だが、1時間経っても捕まらない。
今日の広島は乾燥注意報が出るほど紫外線が強く、時間が経つにつれどんどん顔がヒリヒリしてくる。
もう10分ほど経った頃、一台の車が横道からやってきてクラクションを鳴らしてきた。
見ると運転手のお兄さんと目が合い、手招きをしている。

「ここじゃ捕まらんけぇ、他の所の方がええ」

そう言って車に乗せてくれた。
そのお兄さんは自分でレンタルバイクやバーの経営をしているらしく、仕事中だが割と自由がきくため、僕のことを乗せてくれたと言う。
話によるとお兄さん自身も23歳の時にヒッチハイクで広島から鹿児島まで行った経験があるらしく、ヒッチハイクの人を見つけたら乗せるようにしていると言う。
どのくらいで鹿児島まで行けたか気になり質問すると、8時間で行けてしまったらしい。
夜の22時に出発し、翌朝の6時には鹿児島に着いたと言うから驚いた。
それを聞いて俄然やる気が出てきた。
セブンイレブンでカレーやらサラダやらパンやら栄養ドリンクやらお茶やらたくさん買ってくれて、公園で昼食を共にする。

「ヒッチハイクもそうじゃけど、何か新しいことをしようとすると、必ず周りの人がアレコレ言ってくるけぇ。俺がレンタルバイク始めた時もそうじゃった。じゃけぇ、お兄さんも頑張れよ!俺も頑張るけぇ」

お兄さんは力強い言葉をくれた。

「尾道の顔になり、笑顔を広げる」

素敵な夢を『じゆうちょう』に書いてもらい、そのお兄さんとは別れた。

✳︎

その後、国道沿いのセブンイレブンから再びヒッチハイクスタート。
30分程度で隣駅まで行くという納品業車のおじさんに乗せて行ってもらうことになった。

「ごめんな、本当はこの先のコンビニとかまで乗せて行ってあげたいんじゃけど」

優しいおじさんは応援の言葉を残し、バス乗り場で降ろしてくれた。
しかしそこは車が停まり辛く、そこでのヒッチハイクを早々に切り上げて別のポイントを探し始めた。

歩きながら考えた。
現在15時。
今朝尾道を出発してずっと国道を走ってきたが、まだ15kmぐらいしか進んでいない。
まだ広島市内まで100km近くある。
上にはバイパスが通っていて、さらにその上には高速道路が走っている。
だから広島市内に行く人は中々下道を使わないのではないか。
本当はPAに徒歩で入って高速道路に乗れるのが一番いいが、とても歩ける距離ではなかったので諦めていた。
再度最寄りのパーキングエリアまで調べてみた。
やはり、9kmある。
歩くと2時間と少し。

疲れてきたのでコンビニで休むことにした。
アイスカフェラテを購入し、朝に出会ったお兄さんからもらったパンと一緒に頂く。
コンビニの駐車場で休憩していると、自転車乗りのおじさんと仲良くなった。
おじさんは青いジャージを着ていて、見るからに自転車乗りの格好をしていた。
今度しまなみ海道の自転車大会に出るらしく、その距離が100kmもあるため、練習がてら走っていると言う。
66歳らしいが、とてもそうは見えなかった。

「車だったら乗せてあげたんだけどなぁ」

とても人の良さそうなおじさんは、会ったばかりだと言うのに『じゆうちょう』に夢を書いてくれた。

「広島県三原市本郷南 佛通寺線セブンイレブンにて。年寄りの冷や水じゃないけど、冬はスキーに春先からは自転車に、と下手の横好き?!
万年初心者で頑張っています。
楽しく!からだだいじに!こころだいじに!
充実した旅、そしてlifeを!」

とても多趣味な方らしい。
もっとゆっくり話してみたい。

「パーキングエリアまで歩くのは大変だよ。途中から坂だから僕も自転車では行かない」
とは言うものの、時刻は既に15時。
朝9時からスタートして、まだ尾道の隣の市までしか来ていない。
結局このまま国道をヒッチハイクして行っても広島市内までたどり着く気がしなかったので、PAまで歩くことにした。
おじさんからのエールを受け、2時間の道のりを歩き出した。

✳︎


初めは余裕だった。
田舎道で天気も良く、ハイキング気分で気持ちよく歩けた。
しかし50分ほど経過した頃、急に坂がキツくなった。
そこでそのおじさんの言葉を思い出した。
まだあと1時間以上もこの坂道を歩かなくてはならないのか。
心が折れそうだった。
道端に停まっている車に1度だけお願いしたが、ヒッチハイク成功ならず。
覚悟を決めて歩き出したその時、僕を追い越して目線の少し先に1台の車が停まった。
あの人にもお願いしてみよう。
そう思って歩き出すと、運転席から青いジャージのおじさんが降りてきた。
一瞬頭がフリーズしたが、そのおじさんはこちらを向いて手を振っている。
さっき出会った自転車乗りのおじさんだった。

「あはは。さっき君と別れた後に自転車がパンクしちゃってさ、女房に車で迎えに来てもらったんだよ」

そう言うおじさんは僕を車内に迎えてくれた。
おじさんが救いの神様に見えた。

「本当、モノ好きなひとでねぇ」

そう言う奥さんも柔和な方で、色々とお話しをしてくれた。
2人は海岸沿いに住んでいるらしく、山を登るPAまでの道は真反対なはずだが、僕のことが気にかかり追いかけてきてくれたと言う。
本当に、感謝しかなかった。
2人にパーキングエリアまで送ってもらい、最大級の感謝を伝えてお別れした。

✳︎

そこからは破竹の勢いだった。
もう高速道路から降りないと決意した僕は、PAからPAを乗り継ぐ作戦に出た。
それが功を奏し、2台の車に乗せてもらい、気付いたら五日市近くのPAまで到達していた。
時刻は19時。
少しだけヒッチハイクしたが、どうやらトラックの運転手は今から仮眠を取る時間らしい。
九州に向かう人が3時過ぎに出発すると教えてくれたので、もしまた見かけたらお願いしますとお伝えしてお別れした。
PAの吉野家で夕飯を食べ、僕も一旦仮眠を取ることにした。
無論、この辺りに宿などない。
調べると、PAを出て15分ぐらい丘を登ったところに公園があった。
今夜は野宿だ。
夜の山道は非常に暗い。
車や人の気配がないので、正直かなり心細かった。
昔の人はこんなに暗い山道を歩いていたのか。
いや、都会に住んでいる僕が知らないだけで、今も地方に暮らす人々にとって、この「暗闇」は日常なのかもしれない。
坂を登りきった所に公園はあった。
公園内はかなり広かった。
屋根付きのベンチがあったので、その上に銀マットを敷いて枕をセッティング、寝袋にくるまって横になった。
ベンチの近くに物置小屋があり、お化けが出てきてもおかしくない雰囲気を醸し出していたため、なるべくそちらは気にしないことにする。
明日はついに九州に入るだろう。
九州。
ここまで遠かった。
鹿児島まで行けたら、僕は奄美大島に行くつもりだった。
沖縄も良かったが、修学旅行で一度行ったことがあったので、行ったことのない奄美大島に行くことにしたのだ。
それにしても、野宿はあらゆる常識から僕を解き放ってくれる。
どこでも金を掛けずに寝られる。
これって、実はかなりの武器だ。
ヒッチハイクに野宿、この2つを経験するだけで、なんでも出来るような気がした。

9日目に使った金額、1,076円。
やはり野宿だと安上がり。
明日は3時頃にはヒッチハイクを開始したい。
蚊の羽音が聴こえないように耳まで寝袋を被り、僕は目を閉じた。

続く。

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