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ヒッチハイク紀行文⑤港北PA(下り)〜焼津


港北PA(上り)から、徒歩で一度外に出た。
しばらく歩き、歩道橋で反対車線へと渡る。
移動は10分もかからなかった。
下りPA内の様子は、上りとそんなに変わりはなかった。
トイレの前にゴミ箱もあり、こちらもそれなりに人が集まりそうだ
僕は休憩がてら、休憩スペースで今朝買ったおにぎりを食べた。
隣ではサラリーマン風の男性がパソコンで作業をしていた。
もう恥ずかしいと言う気は薄れてきたので、スケッチブックへの行き先をその場で書いた。
「静岡方面」
これでいけるはずだ。
トイレを済ませて、いざ出陣。

✳︎

「静岡方面行かないですか?」

通り過ぎる人全員に声をかける。
反応は上りも下りも変わらない。
関係ない、ただ声をかけ続ける。

30分くらい経っただろうか。
引き続き通り過ぎる人に声をかけていたら、ふと遠くからこちらに歩いてくる、30歳くらいの男性が見えた。
ダボダボの黒い服を着ている。
まだ15メートル以上離れているというのに、その人と目が合った。
(あ、これはいけるかも)
そう思った矢先、その男性が声をかけてくれた。

「静岡方面行くけど、乗る?」

僕の頭の中でサンシャイン池崎が叫んだ。

「イエェェーーーーイ!!!」

もちろん、頭の中でだ。

「良いんですか!?」

「うん、いいよ。ヒマだしさ」

✳︎

その人はトラックの運転手だった。

「乗り心地悪いけど」

そう言って助手席に案内された。
乗り心地の前に、車高が高すぎて上るのに一苦労だった。
トラックにはタイヤが10個くらい付いている。
これを毎日運転しているのだからすごい。

「なに、よくヒッチハイクするの?」

「いや、初めてです」

「あ、そうなの?俺が初めてってこと?」

「そうなんですよ。いや、もう本当ありがとうございます」

「あはは。そっかそっか。じゃあ記念すべき一人目だね」

「そうですね。成功しなさすぎてもう心折れそうでしたよ」

「あ、そうなんだ。え、パーキングエリアにはどうやって入ったん?」

「歩いてです。歩いて入れるパーキングエリアを探したら、港北PAがヒットしたんです」

「あ、歩いて入れるんだ。知らなかった」

「いや、僕も調べるまで知らなかったです」

「へぇー。お兄ちゃん何歳?」

「今25歳です」

「あ、そうなん?なんかそんなクリクリの頭してるから学生なんかと思ったわ」

「あはは。気合い入れるために坊主にしました」

「ああ、ヒッチハイクするから?」

「そうです」

「なるほどな」

2人きりの車内、会話がはずむ。
話によると、その人は現在29歳。
趣味に使うお金を稼ぐために、多い時は1日に15時間ほどトラックを運転していると言う。
土日は休みだが、平日はほぼ家に帰らず、トラックで生活をしている。
トラックの運転手はそんな生活を送っている人が多いらしい。
確かにPAでも、大量のゴミを抱えて、眠そうにゴミ箱までくる運転手が多かった。
きっとPAやSAはトラックの運転手にとっては無くてはならない場所なのだろう。

「こんな生活だからさ、彼女も作れんのよ。中々家に帰れんじゃん」

「確かに。結婚とかはしてるんですか?」

「してないよ。したらすっごい金かかりそうじゃん。結婚してる友達とかみてっと大変そ〜とか思うし。俺は趣味に全力注いでるから、今は彼女とかいらんかな」

彼は多趣味だった。
休日は左ハンドルのアメ車を乗り回したり、オフロードでジムニーを乗り倒したり、バイクで友達と旅行に行ったりしているらしい。
確かに、お金のかかりそうな趣味だ。
過去にバイクで日本を半周したこともあると言う。
西日本を制覇したと言う彼から、日本各地のグルメ情報を色々と聞いた。

「東尋坊って知ってる?」

「え、なんですかそれ」

「福井県にある、マジで断崖絶壁みたいなところなんだけど、あそこも友達と行ったんよ」

「へぇ。どうでした?」

「いや、マジすごい。ってか、あの辺の海めっちゃキレイ」

「あ、そうですか。」

「うん、俺素潜りとかもするからさ、色んな海行くんだけど、あそこはすごかったわ」

「へぇ!海いいですね。機会があったら行きますわ」

とは言え、福井県はヒッチハイクで行くにはすごい微妙なところにある。
帰りに寄れたら寄ることにしよう。

「僕、この度で『じゆうちょう』って言うのを集めてるんですよ」

「へぇ、なにそれ?」

「出会った人に、その人の夢とか、座右の銘とか、生き方とかを色々聞いて、それを書いてもらいたいなと思って」

「あはは。そうなんだ。いいじゃん」

「はい。で、お兄さんにも書いて欲しくて」

「え、俺も?俺夢とかないよ?」

「いや、もうなんでもいいんです。一言でもなんでも」

「え〜。夢かぁ。なんだろうな」

「到着した時にお願いできますか?」

「まぁ別にいいけど。なんでそんなもん集めてるの?」

「いや、僕本当は旅中にドキュメンタリー動画とか撮りたかったんですけど、一人じゃ無理だなぁってなって。でもせっかくなら何かやりたいなぁって思ったんですよね」

「なるほど」

「はい。僕昨年キャリアコンサルタントって言う資格取ったんですよ」

「ほう。なにそれ?」

「一人一人のキャリアの支援をする仕事なんですけど。まぁ、要するに『一人一人が自分らしく生きるサポートをする人』って感じですかね」

「へぇ。いいじゃん」

「はい。まぁそう言う想いがあって、何かできないかなぁって。キャリアコンサルタント自体はまだ全然仕事になってないんですけどね」

「まぁ、そしたら書くよ」

「ありがとうございます!」

✳︎

その人とは車内にいる間の約2時間、ひたすら喋り続けた。
会ったばかりで、全然住んでいる世界が違う人と、こんなに長く喋るのは新鮮だった。
これがヒッチハイクの醍醐味かもしれない。

「御前崎は田舎だから、焼津の方がまだ栄えてると思う。海鮮丼とかおすすめ」

彼は静岡の「御前崎」と言う場所に荷物を納品しに行くところだったらしい。
その手前の「焼津」で降ろしてもらうことになった。
高速道路からは下りられないので、焼津に1番近い「日本坂PA」で降ろしてもらった。

「あ、じゃあ......」

「おう、一言書くわ」

別れ際、彼はじゆうちょうに一言書いてくれた。

「人生あそびまくれ」

記念すべきじゆうちょう第1号。
あそびに生きる男の一言に勇気づけられた。

「頑張れよ」

最後に応援の言葉をもらった。
握手を交わし、別れを告げる。
時刻は15時半。
現在地点、静岡県焼津市。
なんだか盛り沢山で、今朝にはまだ自宅にいたことが信じられない。
よく考えたら、まだ静岡だ。
西に行くと決めてから、僕はこの旅の目的地を鹿児島と決めていた。
まだまだこれから。
とりあえず、PAから下りて、今日の宿を探す。
予報では、夕方から雨だった。
今日のヒッチハイクはもう終わり。
海鮮丼を食べて、寝る。

リュックを背負い直し、僕は日本坂PAを後にした。

続く。

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