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はじめて外に行かずに過ごした一日

スタバから朝焼けを見たときのことが忘れられない。

あれはまだ12月。ずいぶん寒い日だった。娘は超がつくほど早起きで、5時半に目覚め、7時に父親が会社へ出かけていくと「さぁ私たちもでかけよう」とばかりに、私をクローゼットにひっぱり着替えを要求した。

「まだ、日も出ていないんですけど……」

つぶやくも、一歳の娘には通じない。早く早くとせかされて、いつの間にか私も娘もコートを着て玄関前に立っていた。

「仕方ない、行きますか」

出発したはいいものの、外はまだうす暗い。風が強く吹く中を、サラリーマンが首をすくめて足早に通りすぎていく。とてもじゃないけど、公園で遊ぶ気分にはなれなかった。娘も(抱っこだっこ)と手をのばす。

「ほぉらね、寒いでしょ、だから言ったじゃん」

とはいいつつ、もう外には出てしまった。娘をベビーカーにもう一度座らせ、歩きながら考える。まだ暗いし、スーパーも空いていない。さて、どこへ行こう。

流れ着いたのはオフィスビルの中間階にあるスタバだった。7時半くらいから開いている。スタッフさん早くからありがとう。暖かくて心底ほっとした。ソファ席に座ると、娘は嬉しそうに持参した幼児用クッキーをほおばった。大きなテーブルでは、どこかの会社の人たちが朝のミーティングをしている。

「これからの時代は映えを意識しないとね」

映え、とか言っちゃってる時点で古いし、社会から隔離された専業主婦の私でも分かるようなことをミーティングで話してどうすんだよ、とちょっと意地悪な気持ちになる。けっ。スタバでミーティングなんておしゃれなことしちゃってさ。

娘は足をぶらんぶらんさせながら、マグでちゅうちゅう水を飲み、その朝ミーティングを眺めていた。あ、まぶしい。娘の顔に当たる光を見つけて、目を上にあげると、窓から朝日が差し込んでいた。オフィス街にのぼってくる赤い朝日。ミーティングの人たちはいつもの景色なのか気にもとめない。私はずっと朝焼けを見ていた。夜は明けるんだなぁなんて当たり前のことを思いながら。

と、そんな感じで娘は寒かろうが暑かろうが、雨だろうが雪だろうが外に行きたがる人。それが変わってきたのは最近だ。朝と夕方二回は外出していたのが、私が部屋着を脱ぐと泣いて嫌がるようになった。特に夕方は「もう外はいい、家にいたい」という意味なのか、泣きながら部屋着をもう一度着ろと差し出してくる。

「え、家がいいの? 私は別にいいですけど。後で行くって言わないよね?」

半信半疑で、夕方は家にいる、という日をつくるようになった。

娘の家好きは保育園に行きだしてどんどん加速する。外出イコール保育園と思ってしまっているのかも。それでも買い出しが必要だったり、生活リズムを整えたかったりで、

「大丈夫! 今日はお母さんと一緒!! ぶーらんしに行こうよ!!」

となんとか誘って外出していた。

が、ある日それももう限界。娘からもらった風邪で私はダウンし暖房をつけたのに、寒くて毛布にくるまりガタガタ震えていた。なにもこんな日に外行かなくてもいいのじゃないか? 外行かないとぐずる、と怖がっているのは私だけではないか? 娘も家に居たがっているし。と、もう丸一日家にいることにした。これが結構よくて、娘も布団で作った山を登ったりすべったりと運動したり、どこからかハンカチを何枚も出してきてかぶってみたりと楽しそうに遊んでいた。なんなら、公園で他の子に気をとられながら遊ぶよりも、集中して一人遊びができていた気がする。

心配だった昼寝や夜寝もいつも通りしてくれた。

あぁ、よかったぁ。はじめてずっと家にいたなぁ。としみじみしていると、全然はじめてではなかった。

産後一か月は、どこにも行けず家の中だけで過ごす毎日だった。韓国ドラマを見ることが唯一の気分転換だったあのころ。それがいつの間にか、毎日外に出るようになって、その大変さばかりで、家にずっといる辛さは忘れていたのだ。人って都合がよいな。

でも、ずっと家にこもってドラマを見ていたり、冬の朝焼けをおがむことになったり。そういう極端でふりまわされる日々は終わりつつあって、人間らしい毎日に変わってきたのかなぁと思う。

外に出たい日は出て、家にいたい日はいる。そういうバランスのとれた暮らし、が少しずつ私の手に戻ってきたように思える。うん、そうであってほしい……。

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