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ひとりぼっちの三千院

「京都〜大原三千院〜」
 昔母がよく歌っていた。

 そしてその後、母がまだ独身の頃に一人旅で三千院へ行き、修学旅行生に混じってお団子を食べたことを話してくれる。
 小さな頃から何回も聞いた話だが、その一人旅には何やら切ない思い出もあるのではないかと気がついたのは大人になってからである。

 そんなわけで三千院には行ってみたかったのけれど、何しろ京都中心部からは結構遠い。
 4年間一度も行かずに過ごしてしまった。

 京都で過ごす最後の冬が終わるころ、卒論も出し、後は卒業式を残すのみとなった学生たちは次々家を引き払い実家へ帰っていく。
 一緒にご飯を食べていた友人も、サークル仲間も、そして遠距離になってしまう彼氏も、京都から地元へ帰ってしまった。

 私もあと1週間で家を引き払い、京都を出て行く。
 そんなとき、遊ぶ人もおらず暇になった私は、今こそ三千院に行こうと思い立った。


 バスを乗り継ぎ、やっと大原に降り立つ。

同じバスに乗っていたおじいさんが、地元の人らしく三千院までの地図を渡してくれた。

 おじいさんの地図を頼りに山道を行く。

 季節柄か人通りが少なくて不安になる。濃い緑の中をひたすら歩く。

 途中でお茶屋さんもあり、ここで母はお団子を食べたのかぁと、若い彼女に思いをはせながら歩き続ける。

 

 たどり着くと大きな門が迎えてくれた。

 写真からは、わびさびある苔庭のイメージしかなかったが、結構境内は広く立派だった。ちらほら観光客もいたが、進む内また一人になる。

参拝していき、よく見る苔庭についた。

 シンとしている。

 お堂からお坊さんが出てきて

「一人ですか」

と声をかけられた。お庭の説明をしてくれたような気がする。

 このあたりから、何だか記憶があいまいで、どう帰ったか覚えていない。

 大原三千院の、ひとりぼっちの記憶。


 6月には、あじさいが綺麗だという三千院。

市内とは違い、静かでひっそりした、これもまた京都。


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