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身体改変SF 津原泰水『テルミン嬢』感想 苦痛を打ち消すとは?

 神経症患者への対症療法として用いられる音楽療法がSF短編『テルミン嬢』の技術的なテーマです。音楽療法がテクノロジーとして異常に発達している世界で、治療の原理はさほど解明されていませんが、脳に直接振動体を埋め込むと言う方法で、能動的音楽療法の自動化が実用化されています。

 正直解釈が非常に難しかったです。そもそも、私は音楽療法と聞いてもそれすらピンと来ず、よく分からない事が多かったので読了後に調べてみました。

音楽療法?

日本音楽療法学会のページに以下のように記載がありました。

音楽療法士とは
音楽には、人の生理的、心理的、社会的、認知的な状態に作用する力があります。音楽療法では、活動における音楽の持つ力と人とのかかわりを用いて、クライエントを多面的に支援していきます。言語を用いた治療法が難しいクライエントに対しても有効に活用できる方法です。

……?


 ひとまず個人的な理解ですが物語の理解の助けになりそうなものを記載します。

・投薬無しに神経症患者の治療ができるので乳児や高齢者も対象に出来るメリットがある

・治療法は大きく2つあり、歌ったり作曲したりする方法と音楽を聴く方法がある。前者は能動的、後者は受動的な方法という。

 まあ、余り難しくとらえずに、カラオケで歌ってストレス発散が能動的、音楽やASMRを聴いてリラックスするのが受動的な刺激で、それらの刺激を心身の治療に応用したものと言えるでしょう。実際に(民間ですが)音楽療法士の資格もあります。勉強になりました。

感想

頭のなかには極小の音楽が流れ続けている。

 眞理子は神経症の能動的音楽治療として脳に機械を埋め込んでいます。治療の目的は明らかにされませんが、症状が表に出る事はなく、確かに抑えられています。その後、眞理子はある条件下で本人の意思で止めることのできないアリアを歌いだします。まるで頭の中の音楽に共鳴しているかのような現象に本人も、周りの人も巻き込まれていきます。これの解釈が難しくうんうん唸っています。

 音というものは空気の振動で、周波数(音の高さ)と振幅(音量)からなる刺激です。人は最終的に音を周波数と振幅として知覚するはずです。これは渦巻き管の構造がそうなっているからです。渦巻き管の中に振動を感じる毛が生えています。周波数によって共振する管の長さが変わるので、音の高さを震える毛の位置で感じ取れます、音量は毛の震える強さとして感じるでしょう。年を取ると高音が聞こえなくなるのは高音部分の毛の感度がなくなるためです。閑話休題。

 音楽を聴いて感情が動くことは、自身の体験として体感しています。音は逆位相の波を重ねることで相殺し無音にすることができます。このSFで技術的に面白いところはその、感情を動かす刺激を打ち消すことができるとしたらどうなる?という点なのかもしれません。まるで高音を感じ取れなくなるように、ある感情に対してだけ感度をなくす刺激を与える。逆位相ではなく、正位相で波を重ねると強め合いが起きます。すると、コントロールできないほどの刺激となり感情のコントロールができないほどになりうる、ということでしょうか。

うーん、難しい。

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