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たられば<6話>

前兆。砂嵐と張り紙

 2025年、8月の夜。

 「話があるんだけど。」

 シュンは自分の手を後ろに回し、アヤの背後から声をかけた。

 この時2人が同棲して3年が経過していた。

 「なにー?」

 家事を終えたアヤはソファーに座り、ニュース番組を見ながら口だけで返答する。

 1日の終わりはニュースで締める。かつてバリバリのキャリアウーマンであった彼女には、このように捨てきれない習慣がいくつかあった。

 その番組では、家の近所で起きた通り魔事件の特番をやっていた。まだ感染症が蔓延るご時世に、安易に外出する住民を狙った犯行にちがいない。しかし目撃証言が少ないため、犯人を捕まえることができず警察の捜査は難航しているようであった。

 「怖いね、このニュース。」

 シュンは独り言のように呟く。

 「そうだね~。それで話って?」

 アヤは尻込みしている彼に気づいていた。

 シュンはいつも優しい。その優しさが実ったため、こうしてアヤと暮らすことができている。

 その優しさの反面、自分の本心を言えないことが多々あった。例えば2人が付き合うことになった告白。この時、アヤからシュンに告白している。

 加えて同棲の件。これはシュン自ら同棲の言葉を発したものの、当時仮にアヤが健康であった場合は、、、、、、シュンは同棲のドの字も伝えなかったはずだ。

 「いっ、いや、、、、その、、、、」

 ここでもシュンの押しの弱さは健在であった。

 2人の空間を、ニュース番組のエンディングテーマが支配する。

 司会の2人が頭を下げカメラが引きに入った時点で、アヤはやっと背後に目をやる。

 案の定シュンが呆然と立ち尽くしていた。

 彼の姿を見て、アヤも立ち上がる。

 

 そしてシュンを見つめて言った。

 「結婚しよっか。」


 自分のセリフを取られ動揺するシュンは、後ろに隠していた腕をアヤに伸ばす。

 なんとその手のひらには、指輪のケースがちょこんと乗っていた。

 「ごめん、、、。いざ渡そうとすると、、、、、言えなかった、、、、、、。ごめん。」

 彼の反省している姿に頼りなさを覚えるアヤ。その反面、愛しさを感じ指輪を無視してシュンの胸に飛び込んだ。

 

 テレビでは、1日の終わりを告げる砂嵐が発生する。

 

 シュン「ゆ、、、ゆび、、、ゆびわ、、、、」

 アヤ「そんなこといいの!それよりハグが嫌なんて言わせないから!!」

 

 こうして2人は婚約した。

 そして翌年の2026年には感染症が収まると予想し、2人は家族挙式を計画していた。

ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ

 2026年、4月。

 シュンはエレベーターに到着した。

 しかしそこには工事中の張り紙がある。使用禁止のようだ。

 神からの「やめろ」というお告げのようである。しかしこの前兆を無視し、シュンは非常階段の方へ進んでいく。

続く

※ この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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