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残存 2026年、4月1日。2人の住み家では、シュンの携帯がなおも鳴り響いている。 アヤは事件後から眠り続けていた。 病室からは、大きく気高い桜の木が見える。その花びらたちは、自分の役目を終えたように、次々に舞い散っていた。 病室のテレビでは、総理大臣が感染症の終息を発表している。 地球は、世界は、国内は歓喜に満ち溢れた。人類の悲願が、やっとの思いで達成されたのである。 世間とは対照的に、彼女が眠る病室には重い雰囲気が漂っている。そこでは、大人
はやとちり 2025年、12月。 「そんな、、、、。」 シュンは現実を受け止め切れない。 対照的に、世の中は宴だ。テレビはこの時期特有のBGMと共に、ファストフードを宣伝する。各家庭では外出自粛の中でも、飾り付けの準備に追われていた。キリスト教徒でもないくせに。 通り魔の被害者は、案の定アヤだった。彼女はなんとか一命をとりとめるが、脳死と判断される。キセキが起きない限り、回復は見込めないというのが医者の見解であった。 それから4ヶ月後。2026
手遅れ。 「もう出てけよ。」 2025年、11月。外では雪が降っている。もうシュンは我慢の限界であった。 彼の声により、部屋の温度は一気に低下する。もう床暖房も効かないくらいだ。 「えっ、、、、、」 予想外の出来事にアヤは後退る。彼の声がやけに冷たかったため、尚更彼女は混乱した。 ここ1ヵ月、2人の間で喧嘩が絶えなかった。喧嘩というより、アヤが一方的に怒り狂い、シュンは謝罪を繰り返す。そんな日々が続いていた。 気晴らしに外出でもできれば
蟻の関係 「なぜなのよ!!」 それは2025年10月。シュンとアヤが婚約を決め、2か月が経過した頃である。 アヤは大きく口をあけ、眉間にシワを寄せる。この日はいつもと違い、2人の巣には彼女の声が響き渡った。 同棲を始めて3年が経つ。一般的に言えば、今まで喧嘩がない方が不思議であった。これは乗り越えるべき壁なのかもしれない。 「ごめん。ごめん。気をつけるから。」 シュンはアヤを恐れつつも、その細くなった目を見て謝罪した。 「2回もいらない
前兆。砂嵐と張り紙 2025年、8月の夜。 「話があるんだけど。」 シュンは自分の手を後ろに回し、アヤの背後から声をかけた。 この時2人が同棲して3年が経過していた。 「なにー?」 家事を終えたアヤはソファーに座り、ニュース番組を見ながら口だけで返答する。 1日の終わりはニュースで締める。かつてバリバリのキャリアウーマンであった彼女には、このように捨てきれない習慣がいくつかあった。 その番組では、家の近所で起きた通り魔事件の特番をやっていた。まだ感
あたりまえ神話 2023年、某月。 「おはよ!シュンの好きなカレー作ってみた!!」 重い目を開けると、キッチンにはアヤが立っていた。驚きのあまり、シュンの目は一気に覚めあがった。その日は2人が同棲して、1年が経過していた。 感染症の影響により、2022年にアヤの会社は倒産。自宅待機中、何度も正気を取り戻しては病んでいくアヤの心は、倒産と同時に一気に落ち込んだ。 一方シュンの会社は、事業をITに変換しなんとか生き延びることができていた。そこでシュンはア