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《馬鹿話 680》 消えたフライパン ④

孫主任は、事務所を出ると警備室にいる筈の亀田の処に向かった。

「やっぱり二代目は、気楽なもんだ」と孫主任は思った。

警備室のドアを開けると、亀田が例の監視カメラの映像を食い入るように眺めていた。

「亀田さん、何か見つかりました?」と孫主任は尋ねた。

亀田は孫主任の声に少し驚いた様子をみせたが、直ぐに「丁度いい所に来た。これを見てくれ」とビデオの画面を見て言った。

「ほら、この男」と、亀田が指差したのは、調理器具コーナーの通路を通り過ぎようとしている男の映像だった。

「これは?」と孫主任は尋ねてから、昨晩徹夜で確認したビデオの映像には、フライパンのコーナーで怪しい動きをした人物は発見できなかったことを亀田に伝えた。

亀田は頷くと「この映像にも怪しい動きの人物は映っていなかったのだが、ただ可笑しなことに、この男はフライパンが盗まれた日に限って、調理器具コーナーでフライパンを買っている」と言った。

そして、亀田はビデオ画面を指差して「ほら、ちゃんと買い物カートにフライパンを入れているだろう」と画面の中の男を見て言った。

孫主任と亀田が首を捻っていると、二人の背後で「わかったぞ!」と声がした。

振り向くと、いつの間にか家野が立っていた。

「その男が、先にフライパンを店の何処かに隠しておいて、後から別の人物が隠してあるフライパンを回収しているのじゃないのか?」と家野は言った。

すると亀田が「そんな手の込んだことをして、フライパンを万引きする必要なんてありますか?」と呟いた。

家野は直ぐに「何が目的なのかは判らないが、まずは犯人を捕まえてみてからだ」と答えた。

孫主任は心の中で「犯人も暇人か?」と思った。

「では、その人物がレジでフライパンを精算しているかを見てみようじゃないか」と家野が言った。

空かさず亀田が「だと思ってレジにある防犯カメラの映像を見てみましたが、男にフライパンを買った形跡はありませんでした」と答えた。

家野は「となると、フライパンコーナーから移動させたフライパンを何処に隠したかだな」と呟いてから「わっと孫君はどう思う?」と孫主任に尋ねた。

「トイレとかでしょうか?」と孫主任が答えると、「そんな目立つ場所に買い物カートを押しながら入れるかい。それにそんな行動を取れば、直ぐに亀田さんに発見されてしまうよ。ねえ亀田さん」と家野は亀田を見て言った。

暫く三人の沈黙が続いた後、突然「ははーん、わかったぞ。フライパンはあそこにある」と家野が言い出した。

そして二人に「じゃあ、一緒にそこに行ってみよう」と言って家野は歩き出した。

家野が二人を連れて来たのは、電気製品のコーナーだった。

「ほら、見て。この展示の電磁調理器の上に乗せてあるフライパン、違和感ないだろう」と家野は電磁調理器の上に展示品として設置されているフライパンを見て言った。

「それに、このコンロもそうだ」

「もしも、店内を歩いている誰かが、フライパンを電磁調理器やコンロの上に乗せたとしても、それで犯罪になる訳でもないし、知らない人が見れば展示品だと思うだろうね」と家野は言った。

すると亀田も「ええ、お客様が店内で買い物中は、商品を買い物かごに入れてあれば、我々は何も出来ませんし、お客様が商品を店内からレジを通さないで持ち出さない限り、我々はお客様に声を掛けることもできませんからね」と言った。

「となると、今度はこのフライパンを別の人間がどうやって持ち出したかだな」と孫主任が言った。
 
 
ー つづく ー


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