岡村公開

職業:CMプランナー、映像プロデューサー/好きな作家:レイ・ブラッドベリ、スティーヴン…

岡村公開

職業:CMプランナー、映像プロデューサー/好きな作家:レイ・ブラッドベリ、スティーヴン・キング、筒井康隆/好きな画家:エゴン・シーレ、ルネ・マグリット、フランシス・ベーコン/好きな音楽家:マッコイ・タイナー、エリック・サティ、マイケル・ナイマン

最近の記事

《馬鹿話 735》 染みの誘惑 ③

私は慌てて今入って来た部屋のドアに駆け寄り、ドアのノブを回して思い切り押してみた。スチール製のドアはビクとも動かない。 いくら空き室だったからといえ、無断で見ず知らずの他人の部屋に入ったことを私は後悔した。 「冷静になろう」と私は自分に言い聞かせた。 誰かが部屋の外から鍵を掛けたのか、それとも自動的にロックされたのか。このまま訳の分からない部屋の中に閉じ込められることに、えも言われぬ恐ろしさが込み上げて来た。 「どうする、どうする」と私は呟きながら、この部屋から抜け出

    • 《馬鹿話 734》 染みの誘惑 ②

      私が入居しているマンションは、13階建てなのだが、部屋の番号は1404号室で、実際は13階の4号室と言うことになる。 マンションが建てられたのは、定礎を見ると10年前で、私が部屋を借りたのが3年前だった。 「と言うことは、壁に開けられた穴は、少なくとも自分が入居する4年前には開いていたことになる」と私は思った。 「それも変だなぁ」と私は呟いた。 何故なら向かいのビルは、2年前に外壁の大規模な工事をして、ビルの看板も新しく付け替えられたはずだったからだ。 「すると、あ

      • 《馬鹿話 733》 染みの誘惑 ①

        そもそもの始まりは、壁に見つけた小さな染み跡だった。 いつも見慣れたはずの部屋の壁を何気に眺めていると、白壁に小さな消えかけた薄い染みがあることに私は気が付いた。 壁に近づいて、その薄いレモンティー色をした染みを良く見ると、人差し指を真直ぐに伸ばし、親指を立てた形の指矢印のように見えた。 「なんだろう」と思い、その指が示す方向に目を這わせて行くと、天井の一角にも小さな染み跡があることを発見した。 そのことが気になった私は、天井の染みを近くで見るため、翌日の午後、雑貨屋

        • 《馬鹿話 732》 世間知らず

          「バレンタインや節分なんて、みんなが振り回されているだけだから、賢いみなさんはそんなものは止めておきましょうね」と担任の先生が優しく言った。 「先生、それは困ります」といつもは余り発言しない美穂さんが手を上げた。 「どうして?」と先生は美穂さんに尋ねた。 「私の家は、チョコレートを作っています。バレンタインが無くなるとお父さんが困ります」と美穂さんは言った。 「でもね、美穂さん。バレンタインなんて誰かが言い出した偽物よ」と先生は言った。 美穂さんが困った顔をして俯く

        《馬鹿話 735》 染みの誘惑 ③

          《馬鹿話 731》 危険な女

          「おい、あの女だけには手を出すな。あの女は危険だ」とボスが言った。 他の連中は「わかりました」と直ぐに諦めたが俺は違う。 見るところ、ボスの女でもなさそうだし「いったいあの女のどこが危険なんです?」と俺はボスに逆らって言ってみた。 ボスは俺の顔をまじまじと見つめ「いいから、俺が駄目だと云ったら駄目だ」と云い捨てた。 そう云われると余計に気になるのが俺の性格だ。 俺は女に「おい、お前のことをボスが危険な女だと云っていたが、本当にお前は危険な女なのか?」と声を掛けてみた

          《馬鹿話 731》 危険な女

          《馬鹿話 730》 終わらない話

          「ちょっと思い付いたんだけど」と肉屋が声を掛けた。 八百屋は「何をだい?」と返事をした。 「鶏肉は肉屋、豚肉は肉屋、牛肉は肉屋、鯨肉は魚屋」 「どう、ちょっと言いにくいでしょう」と肉屋が言った。 「じゃあ俺も言うぞ」 「マンゴはマンゴ、子マンゴはマンゴ、孫マンゴもマンゴ」と八百屋が言った。 「なんだいそれ、その孫マンゴって言うのは何だよ」と肉屋が言った。 「孫マンゴってのは、子マンゴの子マンゴに決まってるだろ」と八百屋が答えた。 二人の馬鹿話を傍で聞いていた魚

          《馬鹿話 730》 終わらない話

          《馬鹿話 729》 趣味

          正月の二日と云えば、もうやる事はあれしかない。子供達が寝静まった後、金造は女房の桂子の耳元で囁いた。 「さあ、始めようか?」 金造と桂子はお互い再婚同士で、今年の正月が初めて二人で迎える正月だった。桂子は二人の子供を連れていたが、金造は快く子供達を向かい入れた。そんな二人が出会ったのは、二人の趣味が同じだったからだ。 「始めようって、こんな夜中に何を?」と桂子は金造に尋ねた。 金造は桂子の言葉に首を傾げると「男と女が夜中に始めるのは、あれしかないだろう」と言った。

          《馬鹿話 729》 趣味

          《馬鹿話 728》 鬼の居ぬ間に

          赤鬼の酒呑童子は今日も不満を並べていた。 「俺たちが生きやすい社会にする為には、どうすればいいのだ」と酒呑童子は仲間の鬼たちに詰め寄った。 鬼たちは酒呑童子の話を聴いてはいたが、誰からも反応がなかった。 酒呑童子は仲間の無反応な態度に苛ついて、赤い顔をさらに赤く染め「お前たちは体制に立ち向かう勇気はないのか」と怒りを爆発させた。 それでも、仲間の鬼たちは知らぬ顔を決めて、酒呑童子を無視するように日常の話題を続けた。 「今日は節分だ」と酒呑童子は大きな声を出した。

          《馬鹿話 728》 鬼の居ぬ間に

          《馬鹿話 727》 クリーニング

          クリーニング店には、高級な毛皮のコートやプレタポルテ、取り扱いの難しいオートクチュールの洋服まで様々な衣料が持ち込まれる。 特に衣料に付いた染みは、クリーニング店の職人を悩ませる。 あまりに高級な衣装は、一般のクリーニング店では初めから引き受けないことも多い。 ニコニコクリーニングでも、染み抜きに要する時間と失敗した時のリスクを職人が判断し、通常以外の染み抜きは断っていた。 「徳さん、ウエディングドレスだけど、この染みを抜けるかい」と社長は職人の徳次郎に聞いた。 純

          《馬鹿話 727》 クリーニング

          《馬鹿話 726》 流星

          「世界中の女の子の中から、僕が選んだのが君だ」と男の子が言った時、星が流れた。 「あ~あ、言っちゃった」と星の王子様が呟いた。 「星が流れている時に聴いたのだから、その願いを叶えてあげよう」と星の王子様が言うと、バラの花が「私は女の子の溜息が聞こえたわ」と言った。 どちらの願い事を叶えたら良いものかと、星の王子様が悩んでいると、キツネが言った。 「大切なものは、目に見えない」 そこで、星の王子様は女の子の姿を不細工に、男の子を金持ちにしてみた。 次に星が流れた時、

          《馬鹿話 726》 流星

          《馬鹿話 725》 クールな男とホットな女

          「私、クールな男が好き」と温子は真央に話した。 「クールな男って」と真央が言った。 「そうね、見た目はクールな男を気取っているけど、大抵の男はそうでもないわ」と温子は言った。 「例えば?」と真央は尋ねた。 「う~ん」と、温子は考えてから、「例えば、ペンギンみたいな男」と言った。 「どうして」と真央は言った。 「だって、いつも氷の上にいればクールでしょう」と温子は笑った。 真央は、温子の話しが面白くて、恋人の寒男に温子のことを話した。 寒男は温子の話を聴くと、「

          《馬鹿話 725》 クールな男とホットな女

          《馬鹿話 724》 決まり手

          コーチの三井は、りそなの体を食い入るように見ると、「最近ちょっと痩せたんじゃない」と心配そうな声で尋ねた。 りそなは、これまで強くなりたい一心で、容姿のことなど考えることもなく、懸命に相撲の稽古に取り組んできたが、最近になってその気持ちが少し揺らいでいた。 「りそなちゃん、ひょっとしたら彼氏?」と、一緒に稽古をしていた古参の住友も言った。 「りそなちゃんの得意技は首投げだったな」と三井は笑いを含んだ口調で言った。 「コーチ。女子なんだから、その言い方はちょっと」と住友

          《馬鹿話 724》 決まり手

          《馬鹿話 723》 女相撲騒動記

          「すずちゃん、お願いだからもう少し食べてよ」と女相撲協会の理事長を務める六角が女横綱を張る白鳥すずにちゃんこ鍋を勧めた。 「稽古の後は、いつもそんなに食べられないんです」とすずは大きな身体つきに似合わない小さな声で答えた。 六角はすずの身体を食い入るように見ると、「最近ちょっと痩せたんじゃない」と心配そうな声を出した。 「まさか、恋でもしたんじゃない」と女相撲協会の顧問を務める泥ノ坊が言った。 すずは、少し顔を赤らめて「いいえ、そんなんじゃありません」と答えたが、本当

          《馬鹿話 723》 女相撲騒動記

          《馬鹿話 722》 大黒さんと黒ねずみ

          ある日、海岸に大きなバッグを肩に掛けた大黒さんが通り掛かると、浜辺で、しくしくと泣いている大きな黒いねずみがいました。 大黒さんはねずみに尋ねました。 「どうしたの?」と、大黒さんがねずみに聞くと、ねずみは沖を指して、「あいつらに騙されました」と言いました。 「あいつらとは?」と、もう一度大黒さんはねずみに聞き返しました。 「海の向こうからやって来た悪党共に身ぐるみ剥がされてしまいました」とねずみは答えました。 大黒さんは、ねずみが可哀想になり、肩のバッグから、綿で

          《馬鹿話 722》 大黒さんと黒ねずみ

          《馬鹿話 721》 赤口(しゃっく)に障る

          「いよいよ、今年も終わりだね」と町内一物知りのご隠居さんが、茶店の店先で渋茶をすすりながら呟いた。 「いいね、ご隠居は」と店の奥から大工の熊さんが、口を挟んできた。 急に現れた熊さんに、ご隠居は少し驚いたが、「どうしてよ、こう見えても私だって今年は何かと忙しかったんだよ」と熊さんに応えた。 熊さんはご隠居の隣に席を移すと、「と言いましても、大した事じゃないでしょう?」と、ご隠居をからかうように言った。 「お前さんねえ、年寄りにそんな言い方をするんじゃありませんよ」とご

          《馬鹿話 721》 赤口(しゃっく)に障る

          《馬鹿話 720》 仕方ないじゃないの

          「人類は何処に向かっているのかしら」と美紀はベッドの中で呟いた。 「ねえ、何処に向かっていると思う?」と美紀は優作に尋ねた。 「あっちかな」と優作は退屈そうに言うと、「あっちって、どっち」と美紀がしつこく訊いて来た。 「俺が住めない世界」と優作は答え、煙草に火を点けた。 煙草が世の中から消えて、もう二年が経とうとしていた。 「この煙草は密輸ものだが、昔は堂々と吸えたものだ」と優作は言った。 「次は、アルコールらしいわね。アメリカも前に失敗したから、今度は本気でやる

          《馬鹿話 720》 仕方ないじゃないの