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《馬鹿話 679》 消えたフライパン ③

「警備の亀田さんを呼んで、一緒にこの写真を見て貰おう」と家野は孫主任に警備係の亀田を呼ぶように言った。

「亀田さんはどう思う?」と家野は亀田に尋ねた。

亀田は家野の机の上に並べられた、店内の監視カメラの映像から抜き出された写真画像を見ながら「怪しいですね」と答えた。

「ところが、この人物達はフライパン売場に立ち寄った形跡がないんだよ」と家野が溜息混じりの声で言った。

「では、この怪しい人物達が来店した日の一日分のビデオ録画を、もう一度私が見直してみます」と亀田が言った。

「じゃあ、よろしく頼む」と家野は亀田の肩をポンと叩いた。

その日の夕方、孫主任がまた大きな声を上げながら家野の元に駆け込んで来た。

「大変です、大変です」と孫主任は家野を見ると叫んだ。

「わっと孫君、どうした?」と家野は孫主任に声を掛けた。

「それが、フライパン売場の商品整理をしていたらこんな物が出てきました」と言って、孫主任は売場から持って来たと思われる紙切れを家野に手渡した。

「これは?」と家野が孫主任に尋ねた、

孫主任は持っていたもう一枚の紙切れを家野に見せながら「このカードは、商品の在庫が無くなると最後に出て来る商品の在庫切れをお客様に伝えるカードですが、そのカードの後ろに、もう一枚その紙切れが吊るしてありました」と言った。

家野は孫主任から手渡された紙に書いてある文字を読み上げた。

『フライパンが呼んでいる。怪盗風来犯』

「何だこれ、しかも漢字にふーらいぱんってルビまで振ってある」と家野は首を傾げた。

「多分、フライパンを万引きした犯人が我々に挑戦しているんじゃないでしょうか?」と孫主任が言った。

家野は暫くの間、腕組みをして何かを考えている様子だったが、突然我に返ったように孫主任を見つめると「わっと孫君、この勝負受けて立とうじゃないか」と強い口調で言った。

孫主任は家野の言葉に「え!」と小さく呟いた。

「店長、ここは警察に任せた方が良いのではないですか?」と孫主任は言った。

すると家野は微笑みながら「わっと孫君、私を誰だと思っているのかね」と急にこれまでの口調と違う落ち着いた声で言った。

「それは、ホームセンター家野の二代目オーナーであり、この店の店長でもあるのでは」と孫主任は答えた。

「ふふふ、それは私の仮の姿。実は私は名探偵ホームセンターなのだ」と家野は毅然とした声で言った。

孫主任は驚いた顔で家野を見ると「いつからですか?」と不安そうに尋ねた。

家野は「今日から」ときっぱり言った。

 

ー つづく ー

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