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《馬鹿話 688》 純愛

「空気になってしまったって本当かい?」と僕は思った。

「ほら、よくテレビなんかで何処かの知らない人達が、互いの相手について言うとき空気みたいなものだって言うだろう」と僕は口に出して言った。

「なに言ってるの、気持ち悪い」と君の回答。

「だよな、空気になった相手となんか一緒に暮らせないよな」と僕が言う。

君はまた、ご機嫌を損ねて黙ってしまう。

「小さな、本当に小さな世界で僕たちは生きている。明日の朝、起きても小さな世界の中で、僕は生きている。もちろん、君も生きていて同じ世界の中で暮らしている」と僕は思う。

「なにしてるの?」と、聞かないでいいことを僕は口走った。

君は黙り込んだまま。

「見ているものや、聞いているものが違っていても僕たちはいつも一緒だ」と僕は心の中で呟く。

「僕たち、知り合って何年たった。まだ、僕は君のことを愛しているよ。本当さ」と僕は自分に確認する。

君は、さっきからずっと何かに夢中。

「君は本当の愛ってやつを知っているかい。ああ、つまらない何処にでもある男と女の愛だ。僕はいつもでも真剣に愛を探しているんだ」と僕は心で囁く。

君は立ち上がって、何処かに消える。

「僕が怒っているとき、君は泣いている。君が怒っているとき僕は黙っている。それでも暫くすると僕たちの気持ちは落ち着いて、いつもの君といつもの僕に戻るんだ」と僕は思う。

「なぁ、だから僕たちはずっと一緒に暮らしている?」と、僕は君のいなくなった部屋の中で、一人で笑ってみる。

「もし僕たちのことを知らない人達が、僕たちの間についてとやかく言っても、君は賢いから知らんふりで、僕を探すだろ。僕も同じだ。僕たちの関係は誰にも邪魔をされたくないんだ」と僕はまた心の中で呟く。

君はいつものように自分の世界の中で暮らしている。

「綱渡りのロープの上を、僕と君はバランスを取りながら歩いている。君がバランスを崩せば僕も落ちてしまうし、僕がバランスを崩しても君は落ちるだろう。それでも、君は何時でも僕と一緒に落ちるって言うのは分かっている」と僕は思う。

君は立ち上がって、また何処かに消えた。

「もう何年もこんな関係で、後何年もこんな関係が続いて行くんだろう」と僕は思う。


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