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知らないのがいいよ

「知らないのがいいよ」

そう言って悲しそうに笑う君にまた何も言えなくなる僕は
無力という言葉がよく似合う人間だ


数年前
街はイルミネーションでやけに明るくて
人が作り出す雑音にまみれる僕はいつもより興奮していた
横を歩く彼女もいつもより明るく見えて
鼻を赤くして吐く息も無意味に輝いて
なんだかなんでもできる錯覚を覚えた

赤と緑
何かを連想させるそれを見かけ始め季節というものを実感し
僕も俗に言う幸せを手に入れようと彼女に手を伸ばした

手を伸ばしたお陰で少したった今も手の届く場所にいる彼女
なのに時々遠くにいるように感じる彼女
きっと分かり合えている部分が少なすぎるのだ
そう思っても何かできるようになるわけじゃない
でもこのままでは嫌なんだよなぁとか
そうやって回り続ける思考で熱くなる頭には
外の空気は虚しくも優しかった

彼女の手を取って幸せだよと言って笑いかけたら
私もと彼女は笑い返してくれた
そういう関係はいい関係なはずなのだ
いつぞやに流行ったドラマの中でも見た気がする
素直に憧れた
それなのになんだか寂しいのは僕の欲張りか

星が全く見えない夜空を見上げながら唸っている僕を見て彼女は笑った


「考えすぎだよ」


僕の大好きなその笑顔を見たら
なんだかどうでも良くなった
そんな自分を咎めながら
彼女に甘えた

僕のほしい言葉をくれる彼女に甘えていた

それから映画や買い物、美術館、水族館、動物園
テーマパークにも行った
それなりに世間から見れば恋人同士に見えていたと思う

それでも彼女と話していると時々違和感を覚えた
鈍感な僕だから少しだったのかもしれない
違和感な彼女の行動はこうだ
ファンタジー映画を見終わったら現実の辛さを語り始め
水族館、動物園に行けば、動物の気持ちになって語り始める

これくらいなら仲のいい兄弟とかも話しそうな気もする

だけど幸せについて作られた作品を一緒に見たときは本当に驚いた


「幸せになりたいという感情は持たない方がいいよ」


じゃあ幸せになるために僕といるのではないのか

考えすぎだよと言ってくれた彼女はどこに行ったのか
それとも初めからそうだったのか
それならどうして、、、

考えてもわからなかった

それから作品というものは見ないほうがいいと思った、それと動物ものも

それで自然を見るだけなら彼女も何も難しいことを考えなくて良くなるんじゃないかと思った

だから山に行った
だけどダメだった


あの眩しい太陽が怖いと言った


他の場所にも行った
いろんな景色を探した
でもどこも似たようなことになった


同じ景色を前にしているはずなのに
同じ景色を見れたことなんて一度もなかった


もうダメだった

別れを告げた
ちょうど僕が彼女を手に入れた日と同じだった
寒かった 体も心も 何もかも
あっけなかった
そして誰も悪くなかった

彼女の気持ちを汲み取れなかった自分も
伝えられなかった彼女も
聞き返せなかった自分も
諦めた彼女も

誰も悪くなかったよ


少し悩んだけれど
意外とすぐに彼女のことは忘れられた
それでも新しい温もりに手を伸ばす意欲は完全に失せていて
趣味に没頭して
考えないようにした


そこから何年か経って寒空の下に彼女の姿を見つけた
少し大人っぽくなっていたけれど
変わらない白い肌に白い息と少し赤くなった鼻
凛々しく歩く姿に一瞬で昔の記憶が蘇った
思わず声をかけた

彼女もすぐに気づいてくれた
何気ない話をしてから
昔聞けなかったことを
どうしても聞きたかったことを
今なら聞けそうだったから聞いた

「あの時どうして太陽が怖いと言ったの?」

彼女は少し黙って 遠くを眺めてから言った


「あの時は説明不足だったね、困らせてるのはわかってたんだけど、つなげる言葉が見当たらなくて、、、ごめんなさい
でも太陽自体はすごい綺麗で嬉しかったんだよ
お礼を言っていなかったね、ありがとう

それで、なぜかと言うと、、



あんな綺麗な太陽を見てしまったらもっと綺麗なものを見たくなるでしょ
もっと欲しくなるでしょ
欲が出るから、歯止めが効かなくなるから
それが怖かったんだ
幸せを感じるのは気持ちの良いことだと思う
だけどそこから湧き出る欲は
一生終わりがないと思ったから
終わりがないのは怖いから
だから、、、」


また 彼女は難しかった
でも昔より分かった気がする
そして彼女が言葉足らずだったことに今更気づいた
ちゃんと聞けばよかったのかともう遅い反省をした
僕が考えすぎていたのだ
彼女のその少ない言葉から
自分の好きなように受け取れる時は
妄想を膨らませながら受け取って
よく分からない時は
悪い想像を繰り広げてしまっていた
だからそんな時は怖くて
何もしらないフリをして笑って誤魔化して
彼女の言葉を待つ前に話題を変えた
僕は決して鈍感ではなかったのだ

過程をすっ飛ばして出てくる彼女の言葉の意味をちゃんと分かろうとしなかったのだ
それが積み重なっていって
自分の首を自分で絞めたらしい

そんなことを思いながら
一人でなんとなく納得して
そうだったんだねと言おうとしたら

一年で一番人工的な光で輝く夜の中でもう一つ君は言葉を加えた



「知らないのがいいよ」







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↓ 裏です。良ければ読んでいただけるととても嬉しいです。。。
頑張って書きました。少しでも何か皆様に感じていただけることを祈ります。


↓ 続です


いつも頑張ってるよね