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Pope Is Dead マルコム・マクラーレンが中世に生まれてたら… エラスムスの「痴愚神礼賛」


中世最大の人文学者と言われるエラスムス(1466~1536)。彼の書いた「痴愚神礼賛」は中世の堕落したカトリック教会を風刺・批判して大きな反響を呼んだ。カトリック教会は度々禁書の指定をしたが、当時勃興してきたプロテスタントを中心に広く回覧された。

【内容】
愚かさの女神が、愚かさの効用を述べつつ、当時の教皇とカトリックを批判する。後半は、パウロが新約聖書で教える「神に触れ伏す愚かさ」に帰れと主張。

【感想】
現代から見ると、その風刺精神はすごく瑞々しい。16世紀に書かれているが、「これ、21世紀に入って書かれたんだよ」と言われても通じるレベル。(翻訳が上手い?)

エラスムスは、ギリシャ語の新約聖書を単独で翻訳しており、当時カトリックが用いていたウルガタ訳より原典に近いと考えていた。最先端の研究者としての立場からも、当時のカトリックがキリスト教の原点を忘れていると批判していた。

宗教改革者のルターは、エラスムスのこの本を読んでいたく共感し、ファンレターを送ったとか。「やっぱりカトリックを離れ、プロテスタントを旗揚げせねば」と決心を強めたようだ。

でも、私にはエラスムスの後に来たルターの方が、頑迷固陋で古臭い感じがする。

反キリストの本なので、ジョン・ライドンみたいなパンク精神に溢れている。「自分は愚かさの女神だ」なんて、Punk=クズを自称したセックス・ピストルズやマルコム・マクラーレンみたい。表紙絵のマイクスタンドに向かって皆が歌っている絵は、中世のパンクに違いない。きっと。
God Save The Queen ならぬ God Save Popeという皮肉な歌を歌っているはず。

エラスムスは宗教改革の火をつけながら、非常に理性的で教会の分裂は望まなかった。それがどっちつかずとして、最後はカトリックからもプロテスタントからも非難された。悪く言えばマッチポンプ。

こういう所もパンクっぽい?「俺ら不満だらけのワーキングクラスだぜ!」と言いつつ、「いや別に共産主義者信じてるわけでもなくて」。てかむしろ結構穏健な愛国者だったり。労働党支持のボビー・ギレスピーとか、そういう感じ。

エラスムスは司祭の隠し子として育っている。多分、当時司祭は独身を建前としていたはず。隠れて女を作って子供出来ちゃった、って所なんでしょう。別にそれが特段非難を浴びたりもしなかったのでは。それが、(当時の)キリスト教が腐敗している証拠の一つとも言われた。

彼の聖職者の内情暴露という志向性は、そういう生育歴も影響しているのでは?それゆえ聖書の中の使徒像が過度に理想化されて、現実の教皇庁の在り方に我慢ならなかったのかも。まぁ実際に腐敗していたんだとも思うけど。

でも、ルターみたいに、物分かりが悪い方が結局成果を残すことになった。悪貨は良貨を駆逐するというか、思う念力岩をも通すというべきか。

聖書をドイツ語に訳し「ドイツ」を生きたルターと違って、エラスムスはラテン語を得意とし欧州各所を転々として「ヨーロッパ」を生きた。

優柔不断な私にはなんとなく、エラスムスの生き様に共感するところが多い。

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