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摂食障害の治療 MANTRA

こんにちは、papaたぬきです。
前回の記事「摂食障害を知る」で説明できなかった、より詳しい情報をお伝えしようと思います。
今回は摂食障害の治療でNICEガイドラインでも推奨されている心理療法「MANTRA」について紹介する記事です。

MANTRAとは

モーズレイモデルの神経性やせ症治療
Maudsley Anorexia Nervosa Treatment
for Adults :
MANTRA

成人ANに対するモーズレイ式のマニュアルに基づく心理療法です。
主に外来患者向けですが、入院治療でも効果が認められているようです。

ウルリケ・シュミット、ジャネット・トレジャーらモーズレイ病院摂食障害ユニットを中心に開発されました。
ワークブック形式で、患者と治療者の間で臨機応変に使用するのが可能です。
個人心理療法、家族面談、栄養学的な心理教育、食行動や思考、感情に関するワークが含まれています。
摂食障害の治療は医師、看護師、心理士、栄養士、家族を含めた多職種チームで実践することが望ましいとされていますが、そのような多職種チームでも取りかかりやすい構成になっています。

MANTRAのターゲット

MANTRAでは以下のモデルをターゲットにします。

神経性やせ症の症状維持モデル4点
・前AN的な信念(例;やせていることに価値がある)
・家族や親しい人との関係性
・柔軟な思考が苦手で大局を見ることよりも細部に注目することを得意とする思考スタイル
・感情とソーシャルマインドの問題(感情表出や人の感情の認知が不得手)

これらひとつひとつが現在の摂食障害の症状、クライエントの生き方を支えているポイントだと見据え、それらの様式が変化するように働きかけます。

MANTRAの内容と流れ

治療の流れは、

1.導入
2.アセスメント
3.栄養学的な知識の共有
4.ケースフォーミュレーション
5.治療プランの話し合い
6.変化のための共同作業

といった構成で進行します。

基本は週1回、20週間とフォローアップ4回。
BMIが15を下回る場合には30回以上を原則とします。

第一段階;始めよう
・食行動の問題から派生する身体や感情、認知、社会生活機能に対する影響と変化の方向性を探り、動機付けを高める。
・「拒食症のこころ」「健康なこころ」の両価的側面に焦点づけし、外在化する。
・治療の目標は健康なこころの領域を育んでいくことの理解を促す。
・ANからの回復をサポートする家族からどのようなサポートを期待できるか、ANのある未来と無い未来を想像し描いてみる。
・ANを患う以前の健康であった時期の生活に戻ってそのときの気持ちを取り戻す。
・外在化を用いて、自分の人生に食行動の問題や体型への囚われが生じてきた経緯を振り返り、周囲からANを抱える自分はどのように見えるのか想像してみる。
・ANは自分にとって身近な存在である一方で、健康な生活の妨げになってきたことに気づくようなワーク、「ANに対する手紙」を書くという課題もある。

第二段階;サポートを得ながら取り組む
・どのようなサポートを家族や支援者から得られるのか、実際に家族がサポートする際にどのようなやり方で関わっていくのか、ワークブック形式で進める。
・家族の関わりについては、動物の例え(感情的になりすぎてしまう「クラゲ」タイプ、理屈で説得しようと頑張ってしまう「サイ」タイプなど他数種)をもちいたリーフレットなどを利用する。
・治療の期間を通じて、家族が支援のエキスパートとして対応のスキルを身につけていくことを根気よく促し、よりよい支援について学習していく。
・家族のストレスを軽減する方法についても、心理教育で具体的なスキルを提案する。

第三段階;身体の栄養を改善する
・日々の必要なエネルギー量と栄養学的な知識を共有し、摂食障害を患うに至った背景ときっかけ、症状維持の要因について、ケースフォーミュレーションの作業を進める。
・医学的リスクの評価も行う。
・体重維持、増加のためには日々のエネルギーが必要なこと、飢餓状態が心身に与える影響に関する心理教育、食事や栄養摂取の変更プランについても話し合い、少しずつ実行する。

第四段階;ケースフォーミュレーション
・生活の領域について心配、困難なものと、将来どのような変化を望んでいるかを明らかにする。
・変化に対する目標としては、測定・実現可能であり、治療の期間中に到達可能である具体的な内容を設定するのが望ましい。
・行動、認知については行動実験を通して確信度に変化がみられるか観察する。

第五段階;治療の目標設定
・第四段階で作成した行動変化のプランに基づき、行動実験を実行し、考え方の特性について検討することを目標とする。

第六段階;感情とソーシャルマインド
・対人関係の中で感情をうまく表現できなかったり、上手にやり過ごせない状況について、バランスよく、長期的・大局的な視点で対処する方法を学び、自己を大切にするスキルについても学習し実践を促す。
・いくつかのワークを用いて、自分の身体を思いやり、身体と気持ちの関係を理解することを練習していく。

第七段階;思考スタイルを探索する
・考え方の特性として、認知柔軟性の困難さ、セントラルコヒアレンスの障害(大きな枠組みから考えることが苦手で細かなことに集中し過ぎてしまう、考え方や行動を柔軟に切り替えることが苦手)に関する気づきを促し、失敗することに対する不安について話し合う。
・思考の特性を強みとして捉え、最大限活かしていくにはどうすればいいかを話し合う。

第八段階;神経性やせ症を乗り越えて自分らしさを再構築する
・良い状態を維持するためのスキルを確認する。
・将来、困難で再発しやすい状況に回復過程で直面した際の対処や、AN特有の考え方、感情および行動に対処する方法について話し合う。
・対人関係で陥りやすい状況、自分が傷つきやすいと感じた状況などを振り返る。
・治療を通して学んだ実行できること、サポート資源について振り返る。
・治療を通じて重要な生活信条についても話し合う。
・やせていることに大きな価値を見出す生き方から、自分が本来好きだったこと、自分らしさに関する価値を再構築し、未来に向けて、より健康的な、自分らしい生活を想像する。

NICEガイドラインで推奨されている心理療法は以下の3つです。

・強化された認知行動療法(Enhanced form of cognitive behavioral therapy : CBT-E
・専門家による支持的臨床管理(Specialist Supportive Clinical Management : SSCM
・モーズレイモデルの神経性やせ症治療(Maudsley Anorexia Nervosa Treatment for Adults : MANTRA

研究結果ではいずれの介入でも体重の回復、BMIの上昇、体重の維持、再入院がないことが伺われました。
またMANTRAのみでみた場合、治療者と患者ともにアドヒアランスが高く、入院期間が短縮し、体重の早期の回復、その後の維持、患者と家族の満足度の高さが伺われました。

認知行動療法の要素を多く含んだ印象が強い、エビデンスのある心理療法となっています。
変化のためには「協働作業」の姿勢が重要なため、患者と家族が納得いき、能動的に関われるような心の準備が必要になると思います。
治療を始めたとしても途中でやる気がなくなってしまったり、投げ出したくなったり、シンプルに右肩あがりの進み方には決してならないと思われますが、治療者として患者と家族の動機づけを引き出し、気持ちに寄り添いながらも適切に励まし、健康を取り戻すための行動変容に向かえるようガイドする必要があると思います。

今回は以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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