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お客様の顔が見えない・・

こんにちは。

マーケティング視点で読解力を高めるノートでは、小さくてもファンを増やす仕組みと仕掛けがわかると題し、デジタルネイティブ時代の情報発信を主たるテーマとし、中小企業や個人事業主がオンラインチャネルを活用する際の前提となる、情報接触態様の変化を読み解き、IDやSNS、そして口コミを科学して理解するノートをお届けしてまいります。

第1章 デジタルネイティブ時代の情報接触
第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク
(2)お客様の顔が見えない・・

第3章 生活者理解のために必要ないくつかのこと
第4書 口コミが生まれる、広がる、その理由を科学
第5章 ファンを作るために必要なことはひとつだけ
第6章 オリジナリティとどこにもないストーリー
第7章 ファンを増やす、共感を得る仕組みと仕掛け


1.置いてけぼりになるリスク


デジタルネイティブ時代の情報発信note、第2章の(2)では、知らぬ間に置いてけぼりになるリスクの背景にある、お客様の顔が見えない問題について読み解いてまいりたいと思います。

私が普段お仕事でお付き合いのあるメーカーのブランド担当やマーケティング企画担当の方とお話しすると、最近、とみに話題に上るのが、「実はお客様が誰なのか分かっていない」というお悩みのご相談です。

メーカーで商品をご担当される方なので、自社商品をご愛顧頂いている方やブランドに対して好感を持ってくださっている方のことを思い浮かべ、どのようような機能を付加して競合の製品と差別化を図るか、商品のパッケージにどのようなメッセージを盛り込んで訴求するべきか、そして、確実にターゲットに情報を届けるため、TVCMやデジタルの媒体を選択し、プロモーション予算を最適に配分するか、全てはお客様起点でマーケティングシナリオを設計しているのではないかと考えていたのですが、実態は異なるようです。

私は、全てのマーケティング活動の起点は「顧客理解」にある、と考えているため、大事なお客様、ロイヤリティユーザーについて、最低でも、以下の図表に書かせて頂いた項目は知っておきたいですし、理解に努めようと致します。

知らない顔

但し、私が相談を受けるメーカーのご担当に伺うと、上記の図表に書いてあるようなお客様のライフスタイルはおろか、どのチャネル(量販店、ECサイト、スーパーやドラッグストア、コンビニ、100均ショップ、小規模小売店)で、自社商品が何個販売されたか、という数量的な情報も、お手持ちでない企業や部門が存在してしており、実際に、以下のようなコメントを頂くことがございます。

・多分、100均ショップで買われることが増えていると思うけど、実際の数量やチャネル間の比率は手元に持ち合わせていないです。
・(当該商品の)小規模な卸を通じて学校に納入しているため、卸に納品した数量は分かりますが、正確な販売数は把握できていないです。
・アンケートやリサーチは行いますが、サンプルの数量も少ない他、普段使われている方の実態を表しているか、心許ないです。

前節では、メーカーや流通小売のご担当と、消費者の間で発生しているGAPの存在をご紹介し、その背景として、デジタルネイティブ世代の情報接触態様が大きく変化しており、その変化を理解した上で、主に情報伝達の観点で、プロモーション活動をアジャストさせていく必要性について、ご説明いたしました。

ただ、情報接触態様が時代とともに移り変わっている様を正しく理解しようとすれば、その大前提として、自社のブランドに好感を持ってくださっている方を特定し、自社の商品をなぜお買い上げ頂けているのか、ブランドや商品との接点(チャネル)はどこにあるのかを把握した上で、消費購買プロセスにそった適切なマーケティングシナリオを検討する必要が出てきます。

その際、誰が自社のブランドや商品の大事なお客様なのかを、知っているようで、分かっていない、あるいは、顔が見えていない、という場合、ますますGAPが発生し、そのGAPは大きなる一方、というリスクを抱えることになります。

次項では、メーカーや卸売業、小売店を通じ、消費者に商品が届けられるまでの経路であるバリューチェーンの構造から、お客様の顔はなぜ見えないのか、ロイヤリティユーザーを特定することが叶わないのか、その理由を考えてみたいと思います。

2.顔が見えない理由の考察(流通のバリューチェーンから)


本項では、メーカーで製造された商品が、お客様の手元に届くまでの一般的なバリューチェーンを取り上げ、自社ブランドのご愛顧者、商品をお買い上げ頂いた方の顔が見えづらい理由をご説明いたします。

まずは、ごくごく一般的なメーカーが備えているお仕事(タスク)、卸売業者の機能、小売店の業務内容を、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

バリューチェーン

こちらの図表では、商品が小売店の店頭に並べられ、最終的にお客様の手元に届くまでに、大きく3つの企業が関わっている様を紹介しています。

またメーカーの業務機能を「商品やブランドに関わるお仕事」、「商品やブランドの情報を発信する仕事」、「卸売業者や小売業へ商品を届ける仕事」の3つに分解いたしました。

卸売業者は、「メーカーから商品を仕入れる仕事」と「小売業に対して商品を届ける仕事」の2つに分解し、小売業者は「店舗の運営」、「商品を品揃えるバイヤー」、「販促やチラシ等営業を企画する」3つのお仕事に分けています。

この図表で最初に申し上げたいことは、流通小売のバリューチェーンでは、3つの企業が関わっており、バリューチェーンを流れる情報は分断されている(ことがほとんど)という事実です。

例えば、小売店のPOS情報(何が幾つ売れたのか)、ID-POS情報(誰が買ってくださったのか)といった、お客様を理解するために使われる情報ですが、前項でご紹介したメーカーのご担当者の声からわかるように、卸売業に共有されていない(加工食品や飲料、化粧品といった一部商品は連携されています)ため、当然のことながら、その上流に位置するメーカーは知る由もない、というのが実態です。

お客様の顔が見えない問題が生まれる1つ目の理由は、小売の店頭で起きていることを表す情報がバリューチェーン上に流れておらず、情報連鎖が分断されていることが挙げられます。自社の商品がどのチャネルで幾つ売れているのか、その商品をお買い上げいただいた方は、どのような属性、クラスタの方なのか、ロイヤリティユーザーは誰なのか、を把握しようとしても、卸売業よりも、さらに上流に位置するメーカーは、なかなか入手できず、店頭の顧客接点でおきている事象を手に取ることが叶わない、という状況にあります。

2つ目の理由は、1つ目の課題をクリアした先で発生するものですが、仮に小売店が持つID-POS情報を取り扱うことができたり、メーカー自身がリサーチをかけて取得した顧客理解のための情報が手元にあったとしても、そのお客様像はバリューチェーンを跨いで共有されることがない、という実態が挙げられます。※同じメーカーの中でも、業務が違えば、異なるセグメントでお客様の分類や理解をしていることが多い。

例えば、上記の図表を参考に、メーカーの業務を考えると、一つの商品を取り上げても、3つのセクションで、異なるお客様像の理解をしています。ブランド担当は、ライフスタイルや志向性をもとに自社のブランドや商品のご利用者を「価値観」で分類、していると致します。

次に、広告宣伝やデジタルプロモーションを実行している部門はどうかと言えば、F1層、M2層など、メディア接触のクラスタを性年代別に分け、広告宣伝を展開し、効果検証を行っていたりします。

そして、チャネルの企画や小売店の担当をしている営業部門は、商品の機能、特徴に加え、小売店頭へ送客することが期待される広告宣伝のボリューム(例えば、新商品のCM投下量)を説明しながら、販売数量がどのくらい見込めるのか(何個仕入れてもらえるかが勝負)、という視点で商談をするため、商品のお客様像というよりは、営業している小売店に来店されるお客様像を主語にして会話をすることになります

このように、あるブランドのご愛顧者、商品をお買い上げ頂いている生活者を表す「お客様像」は、バリューチェーンを跨いで共有されることなく、もっと言えば、同じ企業内でも業務に応じて、それぞれが異なる見方をしているという実態が見えてきました。

「顔が見えない」問題は、商品を消費者に届けるまでの過程で、「メーカー、卸売業、小売業の間で情報連鎖が分断されている」、「共有されていても、関係者がそれぞれ異なるお客様像を持っている」という事象が構造的な問題として横たわっているために起きやすい、という点をご理解いただけるのではないでしょうか?

3.別の人だと認識している実態(ひとり1人は同じ人)


お客様の顔が見えない、問題については、前項でご紹介した商品が消費者のお手元に届くまでのバリューチェーン上で、お客様像を理解するための情報連鎖が分断されている、という構造が、発生理由の一つであると、ご説明差し上げましたが、本項では、もう一つ別の角度から解説したいと思います。

前節、消費購買プロセスって変わった?では、インターネットが一般化した時代の購買意思決定プロセスと、デジタルネイティブ世代がSNSを利用して情報検索をすることで、新たに生まれた情報伝播の構造をご紹介いたしました。

令和時代に入り、デジタルネイティブ世代が、商品やサービスの購入を意思決定するまでの経路は複雑になっており、情報を取得する手段は多様化、最終的に購入するチャネルも店頭以外に、ECサイトや、オンラインモール、最近ではメルカリ、ラクマ、PayPayフリマ、といった2C2のチャネルの活用が進む等、多岐にわたっています。

例えば、何らかの広告を目にした生活者が、商品購買に至るまでにどのようなタッチポイントがありえるのかを、簡単にまとめましたので、以下の図表をご覧ください。

別管理

前節で、インターネット時代の購買意思決定プロセスとしてご紹介した通り、現代の消費者は、検索エンジンを使い、気になった商品を検索し、商品の詳細が紹介されているメーカーのオウンドサイト(WEB)を訪れるでしょう。

デジタルネイティブ世代は、SNSのタイムラインに流れてきて目に留まった商品について、嘘偽りのない信頼できる他者(個人)の意見を参考にするため、「#」ハッシュタグを使って情報を手繰り寄せ、SNS上で商品の評価を確認する、というアクションを行っています。

もちろん、商品をお買い上げいただいた方の中には、テレビCM、雑誌広告、屋外広告といったタッチポイントでも、なんらかの情報インプットがあり、最終的に店頭や、ECサイト、またはC2Cのチャネルで商品をお買い上げになるまでに、様々なタッチポイントで能動的、または受動的に情報に触れていることが、分かります。

ここで、上記の図表でご紹介している様々なタッチポイントで接触のあった消費者を、企業側(メーカーや小売)は、特定できているのでしょうか?つまり、検索エンジン経由で自社のオウンドサイトを訪れた人と、小売の店頭で、商品をお買い上げいただいた人が、同一人物であることを特定できているか、という問題です。

実は、多くの企業で、同一人物として特定できておらず、それぞれが別のIDを持つ、別の方として、ぞれぞれのチャネルで管理、または効果測定を行っていることが分かっています。

自社のオウンドメディアは、オウンドメディアのアクセス履歴や、メーカーが発行するオウンドメディアの会員ID番号で利用者を理解しようとしてますが、当然のことながら、小売店はポイントカード等を発行しながら、小売店のお客様として会員を管理し、前項でご紹介した通り、バリューチェーン上は、情報連鎖の分断が起きており、ID同士を紐づけることは叶いません。

(ネットで事業完結しているオンラインショップだと、同一IDによる効果測定を行うことができているため、ここでは、店頭小売でお買い上げいただいた場合に発生する分断をご紹介しています)

従って、消費者は、多様なタッチポイントで情報に触れ、あるいは手繰り寄せており、購買に至る意思決定のプロセスは複雑化している一方で、お買い上げいただいた方は誰か?という視点で申し上げると、各チャネル、各タッチポイントを訪れたお客様については、極端に言えば「全てが別の人」だと認識されている、というのが令和元年の、顧客理解の実態になります。

全てが一人のお客様なのに、別のIDを持つ、別の人だという理解にたって、お客さまの購買行動を理解しようとすると、やはり、購買に至るまでのプロセスの全てを特定することができず、部分的な理解に留まるため、お客様の課題を解決するための商品を企画する、商品の魅力をターゲットのお客様に届けたい、といったマーケティングプロセスを設計する際に、お客様の顔や像は、ぼんやりとしていて、まるで、靄がかかったような状態だと言えるでしょう。

様々なタッチポイントに訪れるお客様が別々に管理されている、したがって、一人ひとりのお客様の顔が見えてこない、という構造は、知らぬままに置いてけぼりになるリスクを、ますます高めることに繋がってしまいそうです。

第2章(2)お客様の顔が見えない・・、では、商品やブランドのファンやユーザーがわからない、顔が見えない理由をバリューチェーンの構造や情報に触れるタッチポイントが多様化している中で、同一人物の特定が難しい、という事由から読み解いてまいりました。

次回は、第2章 知らぬままに置いてけぼりになるリスク、のまとめをお送りします。第2章(3)変わらなきゃ、令和時代のマーケティング、では、デジタルネイティブの価値観や行動特性にあわせた次世代のマーケティングの在り方を提示していきたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

 マーケティングの視点で見聞きし、読み解き、整理、体系化したこと事を発信しています。発信テーマ別に目次を用意していますので、気になる記事がありましたら、ぜひご覧ください。


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