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単一データでは生活者のリアルを見通せない(データの種類課題)

 こんにちは。マーケティングの視点で読解力を高めるためのノートです。

 本連載では、「デジタル思考とデータドリブン・マーケティング」というテーマに焦点を当て、アナログとデジタルの判断の違いやデータの特性や活用上の課題、DXを推進するために必要な考え方やステップなど、ますます求められるファクトベースの変革について考えてみたいと思います。

 現代における意思決定では、変化量や判断に影響を与える多くの要素が複雑に絡み合っているため、画一的でアナログな判断では対応が難しい状況にあります。ここで求められるのは、勘や個人の感覚に頼るのではなく、定量的なデータに基づく「デジタル」なスタイルだと言えます。

 デジタルな意思決定やデジタル思考のために、データは非常に重要な役割を果たします。データは、アクションを選びとる際の指針として機能する羅針盤であり、判断を行う際の物差しとなります。

 例えば、市場の変化を把握し、自社の商品に対する期待と現行商品の提供価値の間の差異(GAP)を特定するためのマーケット分析業務を考えると、そこには複数の「データの種類課題」が存在していることがわかります。

 今回は、デジタル思考でアクションを選び取るための重要な存在であるデータの種類に着目し、DX推進時の課題を明らかにします。


1.単一業態のデータでは足りない

 近年、日本では業種や業態の垣根が低まり、取扱商品の差が少なくなってきました。例えば、ドラッグストアが加工食品や生鮮品を積極的に取り扱ったり、食品スーパーが中食(惣菜)をテイクアウト用として提供するなど、異なる業態が似通った商品を扱う傾向が見られます。ドラッグストアの中には、1日で一番売れる商品が「もやし」というお店があるほどです。

 食品スーパーやドラッグストア、コンビニエンスストアといった業態区分は、主に事業者側の都合によるものです。お客さまは、自身が必要とする商品の取扱いがある拠点のなかで、もっとも買い求めやすい価格で、利便性が高い場所という視点で店舗を選んでいるため、SMや、Drs、CVSといった業態毎のデータだけを見ても、生活者の購買行動や動向を正確に把握することが難しい状況にあります。

2.自社のデータだけではわからない

 一般的に、食品スーパーの利用頻度は週2回から週3回と言われていますが、最寄りの食品スーパーですべての買い物を完結させるお客様は少ないと考えられます。

 競合の食品スーパーだけでなく、業態間の垣根が低くなった結果、ドラッグストアでも食品の取扱い点数が増えていることに加え、今では様々な買い方やサービスが提供されています。

 例えば、楽天市場などのECサイト、UBERなどの即配サービス、食品のネットスーパーや事前にオンラインで注文し、最寄りの店舗で引き取る(BOPIS:Buy Online Pick-up In Store)などがあります。

 こうした買い回りの選択肢が増えた環境を考慮すると、自社の購買データだけを分析しても、お客様の期待値の変化やライフスタイルの理解は難しいということがわかります。

3.POSデータは過去(終わったこと)

 小売業では、自社のID-POSデータやお客様の属性データ、来店時の購買商品に関するデータを保有しています。これらのデータを用いて、商品の売れ行きを分析したり、会員ごとに優良顧客を分類したりして、新規商品の取り扱いや品揃えの改廃に関する意思決定を行っています。

 ただし、POSデータは購入時点の情報に限定されるため、過去のデータにすぎません。お客さまの購買行動は、既に終わった出来事であり、今後の変化を捉えたり予測したりする際や、生活者の心理の深層を把握するのには不十分なデータと言えます。

4.IDがないと顔が見えない

 小売店頭で起きていることを理解するためのマーケットデータとして、マーケティングリサーチ会社が提供するPOSデータ(パネルデータ)がありますが、基本的には商品カテゴリ別に「何が」売れたか、その数量を時系列で追跡したデータになっています。

 この種のデータにはお客様の「ID」が存在せず、どの地域で何が売れたか、マーケットのボリュームはわかるものの、最も重要な「誰が」購入したのかが不明です。そのため、お客様の期待値の変化など、現在起きているリアルな事象が見えないデータとなっています。

5.データ種類課題の解決の方向性

 データごとの特徴や特性、過不足を考慮した場合のデータ種類に関する課題は「単一で単独のデータだけでは、生活者のリアルを十分に把握できない」という点です。

 このようなデータ種類の課題を解決するには、「複数のデータ」を収集し、それらを「掛け合わせる」ことが必要になってきます。これにより、お客様の心象や価値観、ライフスタイルの変化、市場全体のトレンドなどを立体的に把握し、構造を理解することが可能になります。

 次回は、データを使える状態にするための前準備や工程に関するデータ整備課題について考えてみたいと思います。

 ここまで、ご一読いただきありがとうございます。マーケティング視点で読解力を高めるノートでまとめた電子書籍のコンテンツも、ご覧いただけたら、幸いです。

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