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『THE FIRST SLAM DUNK』感想② KnockToon社長の独り言


© I.T.PLANNING,INC. © 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

※Twitterスペースの書き起こしを元にしています。
※このnoteには『THE FIRST SLAM DUNK』や『ピアス』のネタバレが含まれています。

『THE FIRST SLAM DUNK』はバスケの試合のシーンも本当に格好良い。これはモーションキャプチャーをコートにいる10人分使っているとのことです。もちろんモーションキャプチャーのデータを使っただけではダメで、リアルになりすぎると映画としてそっけなくなってしまう、かといって演出的に派手にしてしまうとわざとらしくなるので、その中間を取るような形の動きを模索してかなりやり直したと副読本の『THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE(以下リソース)』に書いてありました。物凄い労力をかけて作られている様です。

KnockToon社長・手塚によるファンアート

3回目の鑑賞は試合シーンに注目して観たんですが、リアルなバスケの試合ではありえないカメラワークを使ってる。ドローンカメラを使ったらこんな映像が撮れるかもしれないですが、コートの真ん中を左右に動きながら選手を追いかける等、当然普通のスポーツ中継ではできない構図です。漫画をベースにしているからこそできる映像だと思いますし、ハイスピードで試合展開する為にそれを観てる人たちは新しい感覚でバスケの試合に没入出来ると思います。

先程の副読本『リソース』に掲載されている『ピアス』という読み切りがあります。掲載データは1998年に週刊少年ジャンプに初掲載で、2000年にヤングジャンプに再掲載との事で読んだんですが、これが映画版の幼少期のリョータの話の元になっている様です。リョータの兄さんやお母さんとの話が中心で、タイトル通りにピアスを開けるまでというのが大まかな流れですが基本は会話劇です。ジャンプ誌の読み切り作品だと舞台を変えず(映画にも出てきた秘密基地)、起承転結もないという作品は極稀です。(特に当時の週刊少年ジャンプ誌では) 井上先生が『ピアス』で描こうとしてるは明らかに人間ドラマです。このアプローチは挑戦的で今の井上先生の作品に繋がるような読み切りだと思います。

制作過程についての話を読んでると、2014年ぐらいから3年くらいかけてネームを描き出したとありました。ベースは『ピアス』と『SLAM DUNK』の山王戦があるんですが、その間を埋めるようなお話や設定を作られた様です。そもそも『SLAM DUNK』を改めて自身で新しく映画化する際に、桜木花道ではなく宮城リョータを主人公にするというところに行きつく迄の深掘りが相当に大変だったと推察します。

今回の映画に関しては、CGのレベルが10年前ぐらいには許諾が出せるクオリティでは無かった為にNGを出していたという話だったらしいですが、東映プロデューサーの方が4回ぐらい何年もかけて持ってこられてクォリティが上がってきたので、これだったらいけるとOKを出したという事でした。

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当初は監修の予定だったのが、制作過程でどんどん井上先生自身も作品に関わるようになり、最終的には監督になった。そこで最初の話に戻ると、何故こんなに井上先生の絵が動いているのかと思っていたのですが、単純に井上先生がご自身で上がってきたスタッフの絵を調整したり、線を描き足したりしているという事です。前編のnoteでの「線」についての話の中で、何故CG作品なのに線の強弱があるのか?とかという疑問がありましたが、先生自身が描き足してるという資料を見てとても驚きました。他にも絵コンテも描かれているわけですが、それが色付きだったりとかグレーで陰を付けたりとかしっかりと書き込まれています。

その他原画の元になるマスターショットやイメージボードも井上先生が描かれてます。線画も描いてて陰の付け方も指定してます。これは漫画の現場でもあり、通常青い線で陰を指定するのですが同じような形で描かれています。つまり絵に関する殆どの作業に監督自身が携わられています。『リソース』のインタビューでも言及されてたんですが、井上先生は自分は漫画家でアニメ映画の演出や監督をしたことがないので「たくさん描く」という事を意識して大量の絵でスタッフに映像のイメージを伝えるという選択をしたそうです。言うのは簡単ですが、絵で語り伝えるというのはとても難しい作業です。

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この『リソース』にはラフの絵が沢山掲載されています。井上先生は漫画や一枚絵では絵具を塗り重ねて厚塗りしますが、このラフを見るとその厚塗りの着彩がどうやって描いてるかのヒントが掴める気がします。どの箇所を初めに塗って、塗り重ねていくと井上先生の絵に近くなる、といった工程が見れます。これは通常の完成された画集では見れない、絵の制作過程を見れるというのは、まるで創作という手品の種明かしをしてる様な内容になっていると感じました。

インタビューには、今回のアニメーション制作によって自分の絵を言語化することによって客観的に絵を分析出来るようになり最終的に以前よりも絵が上手くなったとありました。今回の様に頑張らざるを得ない状況へ自分を追い込んだことによって、井上先生は更に成長されたんだと思います。”苦労は買ってでもしろ”と言いますが、実践するのはとても困難だと思います。今後の井上先生の新作がとても楽しみです。




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