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連載小説「生まれつき耳が異様に長いだけの日本人なので色々と勘違いされる件」2話

今日は、取引先との会食があった。俺はあまり出世コースを望んでなかったのもあり、実質ヒラ社員みたいなものなのだが、なぜか呼ばれた。まあ一応まじめにやってるしそれなりに成果は出してるのでそれを評価されたのかもしれない。

あの感染症もおさまってきてるし、そろそろリアルの交流も増えてきた。それがいいのか悪いのかは俺にはわからん。

とりあず上司とともに店に来た。
「岡星」という店で、少し高級だが味はかなりいいのでこういう時にはよく使う。数年前になぜか立て直して前より大きな店舗になったそうだ。
店の親父は気持ちの良い爺さんで俺の耳のことも最初からSNSで知っていて、あえてなにも言わないでくれている。いい人だ。

とりあえず席に着いて上司と座って先方をまっているのだがなんとなく上司が困ったような顔をしてるので聞いてみた。
「いや、まあ松丸に悪いなあ、と思って、な…」
なんのことだろう?普段よくしてくれるひとなのに…

ドアの開閉音と店主の爺さんのキップのいいラッシャッイ!が響く。先方がきたようだ。とりあえず酒を頼んで乾杯した。
男2人に女1人。女は新人だろうか?どこか場慣れしてない雰囲気を感じる。

「まあ、とりあえず今回は親睦会ということで堅苦しいことは抜きで行きましょう」という双方のノリがあり、酒がすすんできた。

ビールを2杯飲んだあたりから、なんとなく打ち解けていて女…というか俺からすると「若者」という感じの新人らしき人がやたら俺の顔をマジマジと見てくる。

内心「これはモテてるのか?いやでも若すぎるだろ!」などと思いつつ、正直うかれてきた。

しかし次の言葉で崖から突き落とされた。

「あー、本当に 普通 なんですね」

あー!!!!!!!
まただよ!!なんだよもう!!またかよ!!!
俺の中で「進撃の巨人」のセリフがリバーブする。
案の定俺の上司も「ごめんな!」って顔してる。

いつものパターンだ。なまじSNSでバズったからこのエルフ耳のことは世間に知られている。小学生のガキ相手なら無視するがビジネスの場で見世物小屋としてつかわれるなんて心外だ。しかしここでこの女性

この女に説教するのもいろいろまずいし、なによりダサいので
「あー、よくいわれますぅ」と苦笑いしてごまかした。

くそ!
エルフ耳でも普通に老けるし、白人顔でもないし、そもそも美形でもないし、逆にブッサイクでもないし!
このパターンが1番いやで素人の女とは付き合ったことがないのだ。

保育園のネネちゃんだって小学校あがったころには
「松丸くんの耳は妖精さんなのに顔は普通だよねー」ときかれて
「うん」
って答えてた!
答えてた!
俺はそれを見ていたんだよ!

……
気がつくと俺は自分の部屋で寝ていた。時間は朝の5時2分だ。かなり飲みすぎたらしく頭が痛い。とりあえず水をがぶ飲みして椅子に座った。
テーブルの上にシジミのインスタント味噌汁と茶封筒があった。中には五万がピン札で入っており上司の一筆箋が入っており「松丸の容姿をビジネスで利用してすまなかった」と書かれていた。

外はまだ暗いが少しずつ明るくなりそうな気配だ。空気の入れ替えがしたくなった。

「せめてものすごいイケメンだったらなあ…」
そう呟いて馬鹿馬鹿しくて笑った。

味噌汁をのんで天気予報だけ確認して5分ぐらい泣いた。

味噌汁はうまかった。

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