僕は将来、木になります

一日一鼓【11-4】
『僕は将来、木になります』

「僕の夢は、木になることです。
なぜかと言うと、
木は誰よりも長生きするし、
とても背が高いからです。

そして、僕が木になることができたなら
そこにいるだけでみんなを応援できるからです。

綺麗な花を咲かせられるし
元気な緑の葉っぱをたくさんつけて僕も生きてるよって伝えることもできます。
葉っぱが散り始めたら今まで僕が隠してしまっていた他の景色を見せてあげます。
葉っぱが一枚もなくなったら、僕も寒さに耐えてるよ、1人じゃないよって伝えます。

僕は木になって、いつも病室にいるあの子を見守ってあげるんです。

あの子は、お花が好きでいつも窓の外を眺めていて
一生懸命病気と闘っています。

僕は、あの子が外を眺めた時に
ズシンと大きく立っていたいです。

誰もいなくなった真っ暗な夜でも、
僕が窓の外にいてあげます。

いつか、元気になったあの子を僕の枝に乗せてあげます。

だから僕は、木になります。
あの子が元気になるころに
僕は大きな木になります。


将来の夢。2年2組。白河涼太」

ビデオカメラの小さな画面の中で少年は恥ずかしそうに笑う。
カメラを操作する女性の手。
もう一度最初から再生する。

「僕の夢は、木になることです。
なぜかと言うと、
木は誰よりも長生きするし
とても背が高いからです」

少年の声に乗って、涙を啜る音が部屋に響く。
カメラを見つめて涙を流す女性は
嬉しさと悲しさが混ざり合った表情で
じっと、画面の中の少年を見つめる。

彼は、木になれただろうか
あの子とは、誰だったのだろうか

分かりきった問いを、心の中で誰かにぶつける。

今日は、私の誕生日。今日は、彼の命日。

今日もあの交差点には
花壇から切り離され、日毎に枯れていく花たちが
たくさん手向けられている。

彼女のいた2階の病室からは
成長が始まった木の芽が少しだけ姿を見せていた。

「だから僕は、木になります。
あの子が元気になるころに
僕は大きな木になります」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?