20231119

 『フェルマーの料理』最新話を観た。数学の天才がミシュランの星持ちレストランのオーナーシェフに見いだされ、数学的才能でフレンチの常識を覆していく。わたしは数学が本当に苦手な典型的文系学生だった。フェルマーの定理は知っているが、全く理解できていない。数字に抵抗感はなかったが、因数分解、数列が出てきた時点でもう駄目だった。中学校の数学の先生が使っていた大きな木製のコンパスで宿題を忘れた生徒の頭をコツンとやる――今だと体罰もので問題になるかもしれない―のが痛かった思い出しかない。これは高校になっても同じで、高校の数学の先生も大きな分度器でコツンとやっていた記憶がある。
 わたしが数学について考えを改めたのは、小川洋子の『博士の愛した数式』を読んだ時だった。数学が数字の問題、つまり数式について考えているのではなく、ひとつの課題を数式を用いて証明可能にする学問であるという根本的なことに気づかされた。それから、哲学に興味を持つと、近代以降では自然科学の知識を用いて形而上学を検証することも分かった。結局すべての学問は繋がっているということを知ってから、苦手意識が消えたわけではないが、苦手分野でも興味を持てるテーマを内在していると思えるようになった。あと二十年早く気づいていれば、全く違う人生立ったろうと思うが、こういうことに気づけたのも、今までの過程を経たからだと考えるしかない。
 ずいぶんと話題が逸れてしまったが、『フェルマーの料理』では、当然のことながら毎回創作フレンチの一皿が登場する。今回は「フレンチトースト」だった。フレンチトーストはアメリカでの呼称で、発祥は明らかになっていないが、古くはローマ時代に遡るという。フランスにおいては、「pain perdu」=「失われたパン」と呼ばれ、硬くなって捨てるしかなかったパンをなんとか余すことなく使おうと、溶いた卵につけて〝再利用〟する発想から生まれたらしい。すっかりデザートとして定着しているが、当時は家庭料理として普及していた、この歴史に鑑み、主人公は「数学的帰納法」の発想で「時代が変われば価値観は変わる」と考え、フレンチトーストをメインの子羊料理の付け合わせとして差し出す。料理と数学は確かにあまり結び付けられていなかった、この点において『フェルマーの料理』のセンスオブワンダーは間違いなかった。願わくば、原作の漫画やこのドラマを観て数学への苦手意識を解放して誰かの人生が変わるきっかけになればいい。

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