20230304

 よく晴れて気温も上がった。この日は読書会があった。課題図書はハン・ガン、斎藤真理子訳による『すべての、白いものたちの』(河出文庫)。ハン・ガンは韓国の女性作家で、一九七〇年生まれ。「菜食主義者」で英国のブッカー賞の海外文学部門をアジアの作家として初めて受賞していて、世界的評価も高い。今作は生まれて二時間で死んだ姉の話を聞いた語り手が、ワルシャワでナチスの空爆で焼け野原になったその破壊と再生の歴史に触れ、死んだ姉として自分の身体を使って生き直す試みから、再び韓国に戻り、姉の魂を供養するというエッセイ、散文詩、そして写真を織り交ぜた小説。ほぼ読書会のメンバーにとっては初めてのハン・ガン作品だったようだ。自分にとっても同じで、この作品は肌に合わなかったというのが正直な感想で、大体皆同じような感想だった。というのも、ハン・ガンは今作を執筆する前に自身の故郷での政府による民間弾圧、光州事件を扱った『少年が来る』という長篇小説を上梓していて、休暇のために訪れたポーランドのワルシャワでナチスの破壊の歴史を体感したことからリハビリのように創作に向かったという、極めてパーソナルな作品であるということが大きいのかもしれない。それは、エッセイのように始まる冒頭――白いものについてを書こうと決めた。――からも窺える。作家の言葉(あとがき)でもその心境は書かれている。とはいえ、最後の場面は詩的なイメージも喚起する美しい終わり方だった。『少年が来る』を読んでみたいと思った。

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