見出し画像

20230312

 下北沢SHELTER(シェルター)。昨年放送されたアニメ『ぼっち・ざ・ろっく』で日本における〝ロックの聖地〟として再認識されたのではないか。九〇年代、くるり、スーパーカー、ナンバーガールなどスニーカー系と呼ばれた日本のオルタナティブ・ロックバンドのカルト的人気とともに大人計画など後にテレビ界を席巻する演劇の街としてもサブカルチャーブームの花開いた場所としてわたしたちの世代には認知されていると思う。それも三〇年前の話。ゼロ年代にはオタクブームとAKB48などアイドルカルチャーの融合で秋葉原が、一〇年代には再開発の機運で浅草や錦糸町など下町がそれぞれの若い世代に人気を集めた。この二〇年代はコロナ禍でまさにVR、バーチャル空間に若い人は集まっている。三〇目前になって東京に移り住んだ身としては、そのどのブームからも取り残された感が否めないが、やはり渋谷や下北沢への憧れみたいなものはあった。この日は、わたしが大好きな米国のケンタッキー州ルイスヴィル出身の四人組バンドJUNE OF 44の来日ツアー最終公演がシェルターで行われた。ジェフ・ミューラー(Vo,Gt)、ショーン・メドウス(Gt,Vo)、フレッド・アスキン(B,Tr)ドグ・シャーリン(Dr)で結成されて九〇年代に活動し、長らく解散状態だったが二〇一八年に再結成し二〇年には『Revisionist:Adaptations & Future Histories in the Time of Love and Survival』というやけに長いタイトルのアルバムをリリースしている。東京初日から名古屋、京都と巡り再び東京・下北に戻ってきた彼らを迎える都内の天候は雲の広がる一日だったが、幸いにも雨は降らなかった。前売りチケットはソールドアウト。恐らく二〇〇人にも満たないほどのキャパしか持たない会場に、まさにすし詰め状態で観客が溢れていた。開演前に会場の隅に設置された物販に人混みを押し分けつつ向かった。お目当てにしていたツアーTシャツはサイズが残っておらず断念し、群青色のバンドTと名盤『Four Great Of Points』のレコードを購入した。前座を務めた日本の二バンド、DON KARNAGEはソリッドなギターサウンドとシャウトが印象的な演奏で続くはastheniaは、まさにJUNE OF 44っぽい抒情性と激情を兼ね備えた美メロとノイズ&スクリームの緩急が絶妙な演奏を披露した。そして、JUNE OF 44。ツアーで毎回冒頭を飾っていた「Does Your Heat Beat Slower」から名曲「Of Imfomation & Belief」へと流れ込み、この時点ですでに観客の心を鷲掴みにしていた。ジェフのささやくようなボーカルにショーンのリフが絡まりつつ、フレッドのベースがそのサウンドの屋台骨となりドグのドラミングが激しくなるにつれて風船のように膨れ上がる音の塊はジェフのシャウトにより沸点を迎え、音の洪水が会場を飲み込んでしまう。観客の中には彼らをペンでスケッチしている人もいた。アーティストだろうか? 「Sharks & Sailers」では最高潮の盛り上がりで会場は熱気をまとっていた。アンコール三曲を含む充実の内容でツアーを締めくくった。中は熱気で汗ばむほどだったが、外は肌寒くて慌ててアウターを着込んだ。帰りは余韻に浸りながら三軒茶屋から自宅まで少し歩いて帰った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?