20231104

 カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』(小野寺健訳、ハヤカワepi文庫)の読書会だった。読了してから少し間隔が開いていたが、話すうちに内容がよみがえってきた。信頼できない語り手を登場させることで知られる彼だが、どうやらデビュー長篇となる今作からその傾向にあったらしい。わたしはその最後の一文を普通に読み飛ばしてしまっていたが、今回の課題図書の紹介者にその気づきを聞かされ、一同驚いたことがハイライトだろう。こういうことが読書会の醍醐味であることは言うまでもない。あとは、悦子と佐知子の絶妙な会話劇による心理描写に、男性である筆者がここまで肉薄できるという証明にも感嘆したという感想も。わたしは、悦子という視点から夫である二郎と舅の富岡さん二人の父子関係が客観的に描かることによって、読者の共感を呼び込むことに成功していると思った。いずれにせよ、はじめから頭角を現していたことがよくわかる作品だった。

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