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クリエイティブになるための映画活用術


日本人の約4割は映画を見ない


株式会社プラネットが実施した映画に関するインターネット意識調査(4,000人の全年代の男女対象、2023年)によると、「あなたは映画を1年間でどれくらい見ますか?」(視聴形態は問わない)という質問に対して、「映画はまったく見ない」と回答した人が20.7%で、「年間に1本も見ないことがある」と回答した人が19.4%でした。つまり、日本人の約4割は映画を全く見ない生活をしていることがわかりました。

また、映画を観る人の中でも、「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視するために映画を早送りで観る人(特に、Z世代)がとても増えているようです。(詳しくは、「「ファスト映画」がウェルビーイングを下げる理由」をご参照ください)しかし、これはとてももったいないことです。というのも、映画には、私たちのクリエイティビティを向上させてくれる効果が期待できるからです。では、どんなジャンルの映画がクリエイティビティの向上に役立つのでしょうか。それに関する2つの研究を紹介します。


ホラー映画の活用術


ホラー映画
のような、恐怖や不安などのネガティブな感情を想起させるエンターテインメントをなぜ私たちは消費するのでしょうか。ホラー映画の鑑賞のように、あえてネガティブな感情を積極的に味わおうとすることを「良性のマゾヒズム」(benign masochism)と研究者らは呼んでいます。

デンマークのオーフス大学のマティアス・クラーセン博士らは、ホラー映画を鑑賞することによるメンタルヘルスへの影響や、どのような人がホラー好きなのかについて、様々な先行研究を分析するとともに、1,070人の成人を対象に調査を行いました。

その結果、ホラー映画を見て恐怖や不安などのネガティブな感情を経験することで、安全な環境にいながら感情の扱いを練習することができるので、ネガティブな感情に対するコントロールが上手になる可能性が示唆されました。また、ホラー映画を観て恐怖や不安などのネガティブな感情を経験した後に、心地よいポジティブな気分を経験できることもわかりました。感情コントロールやポジティブ感情は、クリエイティビティを発揮するための重要な要因になりますので、ホラー映画はクリエイティビティの向上にとても役立つ可能性があります。

ちなみに、知的で創造的な性格(有名な性格診断テストBig Fiveの「経験に対する開放性が高い」に該当)の人ほど、ホラー映画で怖がりやすいものの、それを楽しむことができ、より怖いものを求める傾向があることもわかりました。クリエイティブな人は、ホラー映画を見て、ネガティブ感情からポジティブ感情へと、感情が揺さぶられるような経験を好むということかもしれません。


懐かしい映画の活用術


もう1つの映画活用術を紹介します。懐かしい映画というと、どんな映画が思い浮かびますか?年配の人であれば、20代の若い頃に観た映画かもしれませんし、若い人であれば、幼少期に家族と観た思い出の映画かもしれません。いずれにしても、懐かしい映画をもう1回観てみることは、クリエイティビティの向上にとても効果的ですので、それに関する研究を紹介します。

英サウサンプトン大学心理学部のコンスタンティン・セディキデス博士は、「懐かしさ」がクリエイティビティを高めるかについて、複数の実験で検証しています。

その中の1つの実験では、299人の大学生を2つのグループに分け、それぞれ以下の行動を行ってもらいました。

・1つ目のグループ:過去の懐かしい経験を思い出し、その時に感じたことを5分間書く

・2つ目のグループ:過去の日常的な経験を思い出し、その時に感じたことを5分間書く

その後、参加者は全員、クリエイティビティを測定するテストを受けました。そのテストの内容とは、指定した3つの単語(この実験では、「王子様」「猫」「レースカー」という何の関連性もなさそうな3つの単語でした)を全て使って、30分間、自由に物語を書くというものでした。そして、書いた物語は、実験の意図を知らない独立した複数の評価者によって評価され、書かれた物語のクリエイティビティがスコア化されました。

分析の結果、懐かしい経験を思い出したグループの方が、クリエイティビティのスコアが約15%高いことがわかりました。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。

同じ研究の別の実験では、「懐かしさ」が「(経験に対する)開放性」を高め、それがクリエイティビティの向上につながるという関連性が示されました。つまり、ノスタルジックな回想は、広い視点で物事を見ることにつながり、それが開放性を高め、思考を柔軟にし、その結果、クリエイティビティの向上につながるというのが研究者らの考察です。

さらに最後の実験では、「懐かしさ」と「幸運を感じる」という2つのポジティブ感情を比較し、どちらがよりクリエイティビティを高めるかを検証したところ、「懐かしさ」の方が「幸運を感じる」よりも、約15%クリエイティビティが高まることがわかりました。

以上のように、映画、特に、ホラー映画や懐かしい映画を観ることは、クリエイティビティの向上に役立ちそうであることが、研究によって示唆されました。他にも、普段馴染みのないような海外の映画を観ることも、クリエイティビティの向上には効果的であることがわかっています。

サブスク(月額)の動画配信サービスが広く普及している現在は、いつでも手軽に映画を観ることができますし、ジャンルも細かく選ぶことができるので、ゆっくり映画を観る時間をつくり、クリエイティビティを高めてみましょう。


参考文献:
・映画に関するインターネット意識調査(株式会社プラネット, 2023)https://dime.jp/genre/1638893/
・Clasen, M., Kjeldgaard-Christiansen, J., & Johnson, J. A. (2020). Horror, personality, and threat simulation: A survey on the psychology of scary media. Evolutionary Behavioral Sciences, 14(3), 213.
・Van Tilburg, W. A., Sedikides, C., & Wildschut, T. (2015). The mnemonic muse: Nostalgia fosters creativity through openness to experience. Journal of Experimental Social Psychology, 59, 1-7.

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