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「生きがい」を持つと寿命が伸びる!?


「生きがい」とは?


このnoteのテーマである「クリエイティブ・メンタルマネジメント」という考え方は、メンタルリソース(特にポジティブ感情活性度)を充実させ、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を実践することで、ウェルビーイングを実現するというものですが、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮するためにとても重要なことの1つが、「生きがい」を持つということです。

「生きがい」は、学術的な定義が完全に定まっている概念ではありませんが、日本人の文化や価値観にもとづく独自の概念として、海外の研究でも、しばしば「ikigai」として言及されています。ちなみに、広辞苑(第7版、岩波新書)では、「生きがい」は「生きるはりあい。生きていてよかったと思えるようなこと」と定義されています。

「生きがい」を測定する簡便な尺度の1つとして、「生きがい意識尺度(Ikigai–9)」という9つの質問からなる尺度(今井,長田,西村,2012)がありますが、質問項目は以下のとおりです。

(1)自分は幸せだと感じることが多い

(2)何か新しいことを学んだり、始めたいと思う

(3)自分は何か他人や社会のために役立っていると思う

(4)こころにゆとりがある

(5)色々なものに興味がある

(6)自分の存在は、何かや、誰かのために必要だと思う

(7)生活がゆたかに充実している


(8)自分の可能性を伸ばしたい

(9)自分は誰かに影響を与えていると思う


この得点が高いほど、「生きがい」を感じている度合いが高いわけですが、上記の(2),(4),(5),(8)などは特に、日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を発揮する上でもとても重要なポイントになります。

次に、「生きがい」を感じている人ほど、寿命が長い可能性があるということを示唆する研究を紹介します。


「生きがい」と死亡リスクの関係


岩手医科大学の丹野高三博士らは、「生きがい」を持っている人は持っていない人に対して、全(死因)死亡率や、心血管疾患や癌による死亡リスクが低いかどうかを、40歳から79歳の73,272人の健康な日本人を対象に、約13年間にわたって追跡調査しました。

年齢、BMI、喫煙、飲酒、運動習慣、教育、睡眠、メンタルコンディションなどの要因を全て考慮して解析した結果、「生きがい」を持っている人は、持っていない人よりも、全(死因)死亡率が、男性で15%、女性で7%低いことがわかりました。

また、心血管疾患による死亡リスクも、男性では14%低いことがわかりました。(これについては、女性は有意差がありませんでした)癌については、男女ともに、この研究では有意な差が見られませんでした。さらに、40~64歳と65~79歳の2群に分けて分析したところ、65~79歳の方が(つまり、高齢になるほど)、「生きがい」を持っている人の死亡リスクが、男女ともに低い可能性があることがわかりました。

さらには、「生きがい」を持っている人ほど、喫煙率が低く、アルコール摂取量が少なく、運動の機会が多い、つまり、健康行動をとる可能性が高いことも明らかになりました。

では、「生きがい」を高齢になってから見つけたのでは遅いのでしょうか?

大阪大学医学部の中西範幸博士らの研究では、それまで「生きがい」を持っていなかったのに、65歳を過ぎてから「生きがい」を見つけた人の死亡リスクは、ずっと「生きがい」を持っている人よりも、約28%低いことも明らかになりました。つまり、「生きがい」を見つけるのに、遅すぎることはないということですね!


定年後の「小さな仕事」が「生きがい」につながる


では、何を「生きがい」にすればいいのでしょうか?もちろん、それは人それぞれですが、ここでは、定年後の「小さな仕事」日々の小さなクリエイティビティ(リトルC)を実践し、「生きがい」をもたらしてくれる可能性があることについて、少し書きたいと思います。

私自身が経験したわけではないので、とても興味深い著書、『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(坂本貴志著,講談社,2022)を参照させていただきます。

この本によると、2020年時点の70歳男性の就業率は45.7%、つまり、約半数の人が70歳を超えても何らかの仕事をしている時代になっています(総務省「国勢調査」(性・年齢階層別の就業率の推移))これは何もフルタイムの仕事ではなく、月に10万円程度を稼げるぐらいの比較的時間にゆとりのある「小さな仕事」が大半で、人間関係などのストレスをあまり感じることなく、幸せに仕事ができているケースが多いようです。その証拠に、70歳の人の約6割が仕事に満足しており、4人に3人が「仕事に熱心に取り組んでいる」(ワークエンゲイジメントが高い)という調査結果もあります(リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」, 2019)

では、なぜ、「小さな仕事」が満足度を高め、「生きがい」につながるのでしょうか?

上述の著書によると、仕事に対する価値観は、「他者への貢献」、「生活との調和」、「仕事からの体験」、「能力の発揮」、「体を動かすこと」、「高い収入や栄誉」の6つあるといいます。

20~30代の頃は、「能力の発揮」や「高い収入や栄誉」を重視しますが、定年後の「小さな仕事」では、「他者への貢献」や「体を動かすこと」に大きな価値を見出すようになり、これが満足感や「生きがい」につながっている可能性が考えられるようです。

つまり、体を動かすような現場仕事で人と対面で接して、直接感謝される機会の多い仕事が、満足感や「生きがい」をもたらしてくれるということですね。

日本では、現場仕事に従事している人の待遇はあまり良くなく、事務職や管理職などのデスクワーカーの方が待遇が良い傾向にありますが、こうしたデスクワークは、世の中に直接的な価値を提供しているわけではありません(もちろん、間接的な価値は提供しています)。無数の現場仕事が直接的な価値を生み出し、日本の経済を支えているのです。

もしかすると、定年後の「小さな仕事」は、本来の仕事のあるべき姿を示してくれるのかもしれません。そうであるなら、働くことが喜びになり、それが「生きがい」につながることも十分納得ができます。定年後に趣味がない人は、無理やり趣味を見つけなくても、「小さな仕事」をして、日々、小さなクリエイティビティ(リトルC)を実践するだけで十分かもしれませんね。

参考文献:
・(1) 長嶋紀一(日本大学文理学部教授)「高齢者の生きがいとQOLに関する心理学的研究」(『生きがい研究(第8号)』、財団法人長寿社会開発センター、2002年)
・今井忠則, 長田久雄, & 西村芳貢. (2012). 生きがい意識尺度 (Ikigai–9) の信頼性と妥当性の検討. 日本公衆衛生雑誌, 59(7), 433-439.
・Tanno, K., Sakata, K., Ohsawa, M., Onoda, T., Itai, K., Yaegashi, Y., ... & JACC Study Group. (2009). Associations of ikigai as a positive psychological factor with all-cause mortality and cause-specific mortality among middle-aged and elderly Japanese people: findings from the Japan Collaborative Cohort Study. Journal of psychosomatic research, 67(1), 67-75.
・Nakanishi, N., Fukuda, H., & Tataral, K. (2003). Changes in psychosocial conditions and eventual mortality in community-residing elderly people. Journal of epidemiology, 13(2), 72-79.
・坂本貴志(著) .(2022). ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う. 講談社


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