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セルフコントロールをうまくする2つの方法


セルフコントロールできないとアルコール摂取量が増える


自分の感情をセルフコントロール(自己制御)することの難しさは、誰しも感じたことがあるのではないでしょうか。そして、自分の感情をセルフコントロールする力は、体力のように、使っていると消耗していくという考え方があります。では、この力を消耗してしまったときに、アルコールを摂取すると、どうなるのでしょうか。

米ニューヨーク州立大学オールバニ校心理学部のマーク・ムラヴェン博士らは、実験の参加者に思考を抑制させることで、セルフコントロール(自己制御)を消耗させました。どうやったかというと、心理学では有名な介入方法ですが、「白熊のことを考えないでください」と指示した上で、5分間、頭に浮かんだことをメモ書きするように伝えました。その際、指示に反して、白熊のことが頭に浮かんでしまったら、その回数もメモするように伝えたのです。

その後、参加者全員がビールの試飲を行いました。ただし、「試飲の後に、車の安全運転のシミュレーションテストを行うので、あまり飲みすぎないように!」と指示されました。

分析の結果、セルフコントロール(自己制御)を消耗したグループ(「白熊のことを考えないでください」と指示されたグループ)は、消耗しなかったグループ(簡単な算数の計算問題を5分間解くように指示された)よりも、ビールの摂取量が有意に多く、血中のアルコール濃度も高いことがわかりました。さらに、もともとアルコールの誘惑に弱い人は、この傾向が強いこともわかりました。セルフコントロールできないことによる弊害を示した1つの研究といえそうですね。


セルフコントロール能力は2週間で高められる!?


セルフコントロール能力は、日々のちょっとした訓練で向上する可能性があります。

米ニューヨーク州立大学オールバニ校心理学部のマーク・ムラヴェン博士は、92人の成人を対象に、2週間の自己制御トレーニングによって、セルフコントロール能力が向上するかを調べました。参加者は、(1)甘い物を控えるグループ、(2)ハンドグリップを1日2回、できるだけ長く握るグループ、(3)簡単な算数の問題を数問解くグループ、(4)自己制御できたことを日記に書くグループ、のいずれかにに分類されました。(1)と(2)が、自己制御トレーニング群で、(3)と(4)は統制群です。

セルフコントロール能力は、ストップシグナル課題(ある条件ではボタンを押すが、特定の条件ではボタンを押すことを控える課題で、自己制御ができていると、正しくボタンを押すことを控えることができる)によって、測定されました。

2週間実施後の結果は、(1)と(2)の自己制御トレーニング群のみ、セルフコントロール能力が有意に向上していました。(3)や(4)のグループも自分のやっていることは、セルフコントロール能力の向上に役立つと言われて実施していたのですが、実際には、効果が見られませんでした。つまり、ちょっとした自己制御を日々の生活の中でリアルに実践している群のみ、効果があったのです。 

なお、甘い物を控えるグループとハンドグリップを1日2回握るグループで効果に差はありませんでした。つまり、どんな内容でも、自己制御につながるちょっとした訓練を日々行っていれば、自己制御資源が増加し、セルフコントロール能力を高めることができる可能性があるのです。(ただし、個人差があることも別の研究でわかっているので、その点は留意が必要です)


上位目標を持つとセルフコントロール能力が高まる


トヨタの社員は、トラブルに直面したとき、その原因を考えるにあたって、「なぜ」を5回繰り返して自問することを新入社員のときから徹底して叩きこまれると言われています。これはトヨタ生産方式の生みの親である元副社長の大野耐一氏が提唱したそうです。

「なぜ」を5回繰り返すことによって、思考がより抽象化し、目線が上がり、安易な結論に走ることなく、トラブルの真の原因を探ることができるようになるのです。そして、この「なぜ」という問いは、トラブルの解決のみならず、上位目標を持つことにつながり、それによってセルフコントロール能力が高まることが研究で明らかになっているので、その研究を紹介します。

米オハイオ州立大学の藤田健太郎博士らは、女子大生を対象に、興味深い実験を行いました。実験では、上位目標に目を向けさせるグループなぜ、良好な人間関係を築くのか?)と、下位目標に目を向けさせるグループどうやって、良好な人間関係を築くのか?)に分け、その後、「りんご」(健康に良い)と、「キャンディ棒」(健康に良くない)を提示して、セルフコントロールがどれくらいできるかを調べました。

上位目標への誘導は、次のような感じです。

Q:「なぜ、良好な人間関係を築くのか?」

A:「他人とつながっている事を感じるため」

Q:「なぜ、他人とつながっている事を感じたいのか?」

このように、なぜ(why)を繰り返していく事で、上位目標により注意が向くようになります。下位目標に対しては、どうやって(how)を繰り返していきます。

次に全参加者のセルフコントロール能力を測定しました。その測定には、IAT(潜在連合テスト)という潜在的態度を測定するテストを使用しました。簡潔にいうと、「りんご」、「キャンディ棒」とネガティブ、ポジティブな言葉を組み合わせて提示し、分類スピードの速さで、その人が潜在的に「りんご」を欲しているのか、「キャンディ棒」を欲しているのかを測定したのです。

結果は、上位目標(why)に目を向けたグループの方が、下位目標(how)に目を向けたグループよりも、「キャンディ棒」に対するセルフコントロールができていることがわかりました。つまり、健康に良くない「キャンディ棒」と(ポジティブではなく)ネガティブな言葉の組み合わせに、より早く反応したということですね。これは「キャンディ棒=ネガティブ(良くないもの)」という連想が頭の中で出来ていること示唆しますので、「キャンディ棒」に対するセルフコントロールが働いているとみなせるわけです。

ちなみに、上位目標(良好な人間関係を築く)とセルフコントロールの対象(キャンディ棒)には、何ら関係がないことは大事なポイントです。つまり、何でもいいので、上位目標を持って思考を抽象化させることで、誘惑に対して、「いけない!」という葛藤を自覚しやすくなり、セルフコントロール能力が高まる可能性があると考えられます。

参考文献:
・Muraven, M., Collins, R. L., & Neinhaus, K. (2002). Self-control and alcohol restraint: an initial application of the self-control strength model. Psychology of addictive behaviors, 16(2), 113.
・Muraven, M. (2010). Building self-control strength: Practicing self-control leads to improved self-control performance. Journal of experimental social psychology, 46(2), 465-468.
・トヨタ式「5回のなぜ」でトラブル原因を因数分解(PRESIDENT 2013年9月16日号)https://president.jp/articles/-/15912
・Fujita, K., & Han, H. A. (2009). Moving beyond deliberative control of impulses: The effect of construal levels on evaluative associations in self-control conflicts. Psychological Science, 20(7), 799-804.

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