反芻思考はクリエイティビティには役立つ!?
反芻(はんすう)思考とは?
「反芻(はんすう)」という言葉を聞いたことがありますか?広辞苑*によると、「反芻(はんすう)」には、以下の2つの意味があります。
① 一度のみこんだ食物を再び口中に戻し、噛み直して再びのみこむこと。
② 二度三度くりかえし思い、考えること。
1つ目の意味に関しては、典型的には、牛などの哺乳類がう行為です。今回取り上げるのは、2つ目の意味の方です。「二度三度くりかえし思い、考えること」は、その内容がポジティブなものである限りは、プラスに働くことでしょう。以前に、「味わうこと(セイバリング)」という概念について書きましたが(詳しくは、「今この瞬間を、味わう」をご覧ください)、「味わうこと(セイバリング)」は、ポジティブな出来事に対する自分の感情をしっかり意識し、それをしっかり噛みしめることですが、そうすることで、ウェルビーイング(幸福感)が高まるという研究結果が多数あります。
しかし、繰り返し考える対象が、ネガティブなものになってしまったら、どうでしょうか。スタートアップビジネスでは、ジェットコースターのように目まぐるしく状況が変わることがあり、当然、ネガティブなことも多々起きます。私の場合は、一晩眠ると大体気持ちを切り替えることができるのですが、稀に、一晩眠っても、気分を変えられない(そもそも良く眠れない)ことがあります。これは精神的に一番キツい状態ですが、この時、まさに反芻思考が起きています。同じネガティブなことを考え続けてしまうわけですね。これが続くと、「メンタルが危ないんだろうな」と思いながらも、その思考からなかなか脱却できなくなるのです。
反芻はなぜ起きる?
心理学の研究では、「反芻」(rumination)とは、物事を何度も繰り返し考え続けることと定義されますが、特に、抑うつ的反芻は,自分の抑うつ気分や,その状態に陥った原因などについて,ネガティブに考え続けることであり,抑うつ気分を持続させる要因であることが様々な研究で明らかになっています。
この反芻の原因を、対人関係によるストレスの観点から調査した研究によると、反芻が最も起きやすいのは、「対人劣等」という状態の時です。これは、対人場面において、「自分の言いたいことを相手にうまく伝えられなかった」など、自分がうまく振る舞えなかったことにより、自分の内面に注意が向いて(例:自分の能力が不足しているせいだと考える)、ストレスを感じてしまうことに起因します。
では、どうしたら反芻思考を回避できるのでしょうか。1つの方法は、マインドフルネスです。マインドフルネスによって、今この瞬間に意識を向け、自分の反芻思考に気付き、考えすぎる癖や心配事から距離を置くトレーニングを行うことです。それによって、徐々に反芻思考の頻度を減らすことができるといわれています。
反芻とクリエイティビティの関係
これまで反芻のデメリットをみてきましたが、実は、反芻はクリエイティビティにはプラスに働くことがあるようです。反芻思考の人は、自分自身を内省し、些細なことにも思考を巡らせることができる人なので、創造的(クリエイティブ)な活動に向いているという可能性があるのです。このことを確かめた研究をご紹介します。
米スタンフォード大学心理学部のユッタ・ヨルマン博士らは、99人の大学生を対象に、反芻思考の度合と、創造性(クリエイティビティ)の関係を調査しました。反芻思考の質問紙では、例えば、次のような質問に回答してもらいました。
「考えていることを書き出して分析することがあるか?」
「一人でどこかに行って、なぜそう感じるのかを考えることがあるか?」
また、創造性のテストでは、アイデアの数や、出したアイデアのオリジナリティ、そして、思考の緻密性が測定されました。
その結果、反芻思考の度合が高い人は、創造性(クリエイティビティ)が高い傾向にあることがわかりました。その中でも特に、アイデア数(流暢性といいます)との相関が高かったのです。つまり、反芻思考になりがちな人は、自分の内面を見つめ、様々なことに思考を巡らせる癖がついているため、たくさんのアイデアを発想しやすいということですね。アイデアをたくさん出せると、その中には、オリジナリティの高いユニークなアイデアが含まれる可能性も高まります。
反芻思考は、頭の中で、あれこれ考えすぎてしまい、脳のエネルギーをたくさん消費してしまうため、疲労感につながったり、メンタル不調のリスクを高めたりするものの、反芻思考になりがちな人は、自分の感覚を大切にし、観察力に優れているともいえますので、そのような人が仕事でうまくクリエイティビティを発揮できるような職場環境作りができれば、企業にとって大きな戦力になるかもしれません。
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