クリエイティビティは鍛えられる
クリエイティビティを高めるための4つの行動特性
クリエイティビティは、一部の天才だけのものであるという仮説が根強く信奉されていましたが、クリエイティビティは生まれ持った性質ではなく、鍛えることによって向上させることができるという考え方があります。アメリカの心理学者ロバート・エプスタイン博士は、以下の4つの創造性コンピテンシー(行動特性)を鍛えることで、誰でもクリエイティビティを発揮できるようになることを実証しています。
【4つの行動特性とは?】
① 保存:新しいアイデアをすぐに保存(メモ)できるようにする
② 挑戦:難易度の少し高い仕事に取り組み、ストレスや恐怖をコントロールしながら、高い目標に挑戦する
③ 拡張:専門分野に限定せず、様々な知識や経験を積む
④ 環境:環境を定期的に変えることによって、刺激を求める
どうでしょうか?「なんだ、割と当たり前のことじゃん」と思われたかもしれません。同時に、「普段の生活で実行するのは大変そう」とも思われたかもしれません。でも、そんなに大げさに捉える必要はなく、ちょっとした心がけひとつで、この4つの行動特性を、自然に実践することができますので、次に、クリエイティブな著名人の実践法を見てみましょう。
日常生活で「挑戦」の機会を作り出す
先に述べた4つの行動特性の中でも、特に、「挑戦」はクリエイティビティの向上に対する効果が高いようです。自分のレベルにあった仕事だけでなく、少しチャレンジングな仕事にあえて取り組むことで、これまで発揮できなかったクリエイティビティを発揮できる可能性が高まるのです。といっても、そのような仕事が自分の望むタイミングで来るとも限りませんよね。でも、大丈夫です。
放送作家、作詞家、音楽プロデューサーの秋元康さんは、誰もが知る日本屈指のクリエイティブ・パーソンですが、その著書(『企画脳』)の中で、次のように述べています。
「仲間と一緒に喫茶店に入る。
メニューを聞きもせずに、コーヒーを注文する人がほとんどだろう。
だが、ちょっと待ってほしい。
喫茶店のメニューも、さまざまである。
なかには、見たことも味わったこともないものが並んでいたりする。たとえば「黒ザクロジュース」とか、「カシス紅茶」とか「ルアック・コーヒー」とか、変わった名前の飲み物が載っていたりする。
そういうものに興味を持って、一度頼んでみようかという人間は、伸びるタイプだと思う。面白い発想をし、ひねりのある企画を考えだすタイプに違いないと思う。」
これこそ、まさに創造性コンピテンシー(行動特性)の「挑戦」そのものですね。何も、仕事での挑戦だけが全てではないのです。日常生活で、ちょっと工夫すれば、いくらでも「挑戦」の機会を作ることができ、それがクリエイティビティを高める訓練になるのです。
クリエイティビティを高める第1歩は「保存」
クリエイティビティを高める第1歩は、何気ない時に思いついたアイデアや考えをメモすることです。秋元康さんは、前述の著書の中で、「発想や企画のヒントは、日常の中に転がっていて、それを「記憶」するところからはじまる」と述べています。心理学者のロバート・エプスタイン博士は、夜寝る時に、枕元に記録できるもの(メモ帳など)を置いておくことを薦めております。これは、夢の中に出てきたアイデアさえも逃さずに、すぐに保存できるようにするという趣旨ですね。
ただし、秋元康さんは、「発想や企画は、自分が面白いと思ったことを思い出す、あるいは、「記憶」に引っ掛かっていたことを拾い上げるという行為」と述べる一方で、「だからといって忘れまいとしてメモにはとらないほうがいい。なぜなら「忘却」、つまり「忘れる」というフィルターがかかることによって、不必要なもの、重要性のないものがどんどんこぼれ落ちていく」とも述べています。つまり、メモに取らないと忘れてしまうようなことは、所詮、そこまで重要なアイデアではなかった、ということですね。これについては、人それぞれかもしれません。
社会心理学者のグラハム・ワラスは、「創造性が生まれる4段階」として、①準備期、②あたため期、③ひらめき期、④検証期の4段階を1926年に提唱しています。準備期にたくさん考え、いろいろなアイデアを保存しておいた後、煮詰まった頭を一度リフレッシュさせ、問題から意図的に距離を置くあたため期を経て、ひらめき期を迎えるという流れですので、アイデアを一度保存しておくことはやはり重要かもしれません。