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タイムプレッシャーがクリエイティビティを殺す

日本は慌ただしさで世界第4位


世界各国を見渡すと、のんびり生活している国もあれば、せかせかと暮らしている国もあります。アメリカのカリフォルニア州立大学のロバート・V・レウィン博士らは、世界31か国の大都市の生活ペースを比較する実験を行いました。

この実験で、生活ペースの指標としたのは、

① 繁華街での人々の歩行スピード

② 郵便局で切手1枚を頼んでから、出てくるまでの時間(働く人の作業スピード)

③ 繁華街の銀行(計15の銀行をランダムに選択)の壁掛け時計の時刻の正確さ

の3点です。

結果は、日本は、①歩行スピードは7位(1位はアイルランド)、②郵便スピードは4位(1位はドイツ)、③銀行の時計の正確さは6位(1位はスイス)で、総合順位は第4位でした。つまり、この研究によると、日本は慌ただしさで世界第4位ということになります。

総合第1位はスイスで、TOP10に入った国は、日本以外は全て西ヨーロッパの国々でした。ちなみに、最下位(第31位)はメキシコでした。この実験では、他にも様々な指標を計測しており、例えば、寒い気候や、個人主義的な文化の方が、生活ペースが早いことがわかりました。

一般に、欧米は個人主義的、日本は集団主義的と考えられていますが、日本だけが集団主義的であるにもかかわらず、生活ペースが早い国のTOP10にランクインしているというのは、私たち日本人の国民性がやはり珍しいと言えるのかもしれません。

次に、この慌ただしさはクリエイティビティにとっては敵であることを示す研究をご紹介したいと思います。


タイムプレッシャーとクリエイティビティ


時間のプレッシャーがクリエイティビティに与える影響について、アメリカのハーバード大学ビジネススクールのテレサ・アマビール博士らは、アメリカの7つの企業の従業員177人を対象に、日々記録してもらった業務日誌(計9,000日分)や質問紙の回答をもとに、分析を行いました。

その結果、時間のプレッシャーが厳しいと、より多くの仕事をこなし、より多くのことを成し遂げようとする原動力にはなるものの、多くの場合において、クリエイティビティを低下させることがわかりました。具体的には、時間のプレッシャーが厳しいと感じる日は、そうでない日に比べて、クリエイティビティが45%も低下することが明らかになったのです。

アマビール博士は、このことを

クリエイティビティは、銃口にさらされると死んでしまう
(”When creativity is under the gun, it usually ends up getting killed.”)

と表現しています。

しかも、ある日の時間のプレッシャーが大きいと、その日だけでなく、翌日、そして、翌々日のクリエイティビティまでもが低下していたのです。アマビール博士はこれを、「プレッシャーの二日酔い」と呼んでいます。

この研究から、クリエイティブ思考になるためには、十分な時間をとって、あれこれと探索的に思考するプロセスがとても重要だということがわかりました。ただし、時間のプレッシャーを厳しく受けている場合でも、取り組んでいる仕事が、とても重要で、やりがいや使命感を感じることができる場合は、時間のプレッシャーが良い方に働き、クリエイティビティが高まります。

一方、重要性や意義がわからない状態で、時間のプレッシャーを感じながら、次から次へと、まるで「トレッドミル」の上を走っているかのように仕事をこなしているような時は、高いクリエイティビティは期待できません。

したがって、結論としては、総じて、時間にゆとりのある時の方が、クリエイティビティは高まるようです。


無意識の時間を作る


書籍『WHITE SPACE ホワイトスペース – 仕事も人生もうまくいく空白時間術』の著者ジュリエット・ファント氏は、スポティファイやペプシ、ナイキなどの有名企業のビジネス研修やコンサルティングを行ってきた人ですが、その著書の中で、1日の中に考えるための自由な空白時間「ホワイトスペース」を設けることの重要性を訴えています。

この言葉はカレンダーの白い未記入のスペースから思いついたといいますが、この「ホワイトスペース」を設けることで、集中力と心の平穏、そして驚くべくクリエイティビティがもたらされると述べています。

これに関連する興味深い研究をご紹介します。

フランスの経営大学院INSEAD(シンガポール校)のヤン・ハイヤン博士らは、「無意識の時間」を作ることで、クリエイティビティが高まるか、実験を行いました。

実験では、155人の大学生を対象に、クリエイティビティを試す次の課題を課しました。

「ペーパークリップでできることは何ですか? 思いつくものをすべて挙げてください。」

ただし、参加者は2つのグループに分けられ、1つのグループは、上記の課題について事前に意識的に考える時間(1分、3分、5分のいずれか)を与えられましたが、もう1つのグループは、上記の課題に取り組む前に、無関係の認知タスクを行う時間(1分、3分、5分のいずれか)を与えられ、この課題のことを意識しない時間(つまり、無意識の時間)を設けられました。その後、全員、2分間、上記の課題に取り組み、思いつく限りのアイデアを出しました。

そして、両グループのアイデアの新規性を評価した結果、無意識の時間を3分与えられたグループが最もクリエイティブなアイデアを出すことが明らかになりました。同じ研究の別の実験では、クリエイティビティを試す課題の種類を変え、「5つのブロックを組み合わせ、子供用のおもちゃを思いつく限り考えなさい」という課題を課したところ、やはり、3分の無意識の時間を与えられたグループのアイデアが最もクリエイティブでした。

この研究から、無意識の時間は短すぎず、長すぎず、適度な長さの時に、最もクリエイティビティが高まることがわかりました。もちろん、課題の内容によって、この適度な長さは変わる可能性があるので一概には言えませんが、課題を認識してから、一旦離れ、無意識の時間を適度に作ることが大事だということですね。これは先述の「ホワイトスペース」の考え方にも通じると思います。

どんなに時間に追われて慌ただしくても、無意識の時間を作ることで、クリエイティビティを殺さずにいきましょう。

参考文献:
・Levine, R. V., & Norenzayan, A. (1999). The pace of life in 31 countries. Journal of cross-cultural psychology, 30(2), 178-205.
・Amabile, T. M., Hadley, C. N., & Kramer, S. J. (2002). Creativity under the gun. Harvard business review, 80, 52-63.
・Juliet Funt.(2022). WHITE SPACE ホワイトスペース – 仕事も人生もうまくいく空白時間術.東洋経済新報社
・Yang, H., Chattopadhyay, A., Zhang, K., & Dahl, D. W. (2012). Unconscious creativity: When can unconscious thought outperform conscious thought?. Journal of Consumer Psychology, 22(4), 573-581.

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