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クリエイティビティに対する自信と健康

日本人のクリエイティビティに対する自信


アメリカのソフトウェア会社アドビシステムズのグローバル調査(State of Create global benchmark study、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、日本の5カ国の計5,000人を対象)によると、人間が本来持っているクリエイティビティを開花させることが経済成長のカギであると考える人は80%にものぼるにもかかわらず、そのクリエイティビティを発揮できていると感じる人は、たった25%しかいないことがわかりました。

また、同じ調査で、「最もクリエイティブだと思う国はどこか?」という質問に対し、日本は第1位を獲得し(第2位はアメリカ)、東京は世界で最もクリエイティブな都市(第2位はニューヨーク)と評価されました。

一方で、「自分自身を表す言葉は?」という質問に対しての回答で、「クリエイティブ」と回答したのは、日本人では19%で、なんとこちらは最下位でした(1位はアメリカで52%)。

つまり、日本は世界各国からクリエイティブな国だと思われているにもかかわらず、日本人は自分たちのことをクリエイティブだと思っていないということが明らかになりました。要するに、日本人はクリエイティビティに対して自信がないと言えます。

アップルの初代マウスをはじめ、数々のヒット商品を産み出した、世界的なイノベーションとデザインのコンサルティング会社、「IDEO」の創設者である、デヴィッド・ケリー氏とトム・ケリー氏はその著書『クリエイティブ・マインドセット』の中で、この調査結果を紹介し、

「日本人がもっと自信を持てば、創造力がさらに開花する」

若い人々に創造力を発揮させる企業文化を築き、アイデアを実現できる環境さえ整えてやれば、日本はもっともっと前進できる

と述べています。

では、企業はどのようにすれば、社員がクリエイティビティに自信を持つことができ、もっと仕事でクリエイティビティを発揮できるようになるのでしょうか。それに関連する興味深い研究を次にご紹介します。

社員のクリエイティビティを引き出す組織


クリエイティビティに自信のない社員に対して、どうしたら自信を持たせることができ、そして、仕事で存分にクリエイティビティを発揮させられることができるのでしょうか。

アメリカのポートランド州立大学ビジネススクールのパメラ・ティアニー博士らは、NPO法人の従業員278人を対象に、社員の仕事におけるクリエイティビティの向上に影響を与える要因について調査を行いました。調査の対象期間は6ヶ月で、その間の仕事におけるクリエイティビティの変化を測定し、その変化に影響を与えた要因を分析しました。

その結果、社員の仕事におけるクリエイティビティの向上に良い影響を与えたのは、以下の3つの心理指標のポジティブな変化でした。


① 自分の仕事はクリエイティブな役割を担っているという社員の自覚

上司の社員に対する仕事のクリエイティビティへの期待(を社員が認識していること)

③ 社員のクリエイティビティに対する自信(自己効力感)

やはり上司の存在は大きいようです。上司が部下の社員に対して、クリエイティブな役割を担っているという自覚を促し、その役割に対する期待を明示することが何より大事だということですね。それによって、社員は徐々にクリエイティビティに対する自信を持てるようになります。

例えば、上司が部下の社員に新たな仕事を依頼する際、部下がひと工夫凝らす余地を残しておくこと、つまり、部下のやり方に委ねる部分を入れておくこと、そしてその部分に期待していることを明確に伝えることが大事なのではないでしょうか。

ただし、クリエイティビティに対する要求が高くなり過ぎると、逆効果になる可能性も研究で示唆されていますので、その点は、部下の社員の性格や仕事のスキル等を勘案して、見極める必要があります。


仕事のクリエイティビティが健康を左右する


ここまで社員がクリエイティビティに対する自信を持ち、仕事で存分にクリエイティビティを発揮できるようになるために、上司の役割が重要であると述べてきましたが、仕事でクリエイティビティを発揮することが健康にも良い影響を与えるという研究をご紹介します。

アメリカのテキサス大学オースティン校の研究者らは、仕事での自律性(自分の裁量で意思決定できること)とクリエイティビティ(ルーティンワークではなく、創意工夫でき、自己を表現できること)が健康に与える影響について、1995年と1998年の全米の世帯データを使って調査しました。ここでいう健康とは、急性や慢性の疾患の罹患歴や、疲労感、幸福感、身体の様々な痛み(頭、背中、腰、膝など)などに関する質問を総合的に評価した指標です。

その結果、会社勤めの人は、高等教育を受けた年数が長いほど、仕事における自律性とクリエイティビティが高いことがわかりましたが、健康により影響するのはクリエイティビティの方でした。

自分の裁量で意思決定できる自律性の高い人は、クリエイティビティを発揮し、自己表現ができていることが多いのですが、自律性は健康への影響が限定的である一方、クリエイティビティが高いと健康に良い影響があることが示唆されたのです。

研究者らは、仕事におけるクリエイティビティが20%高いことによる健康への影響は、加齢による健康への影響(一般に、健康状態は年齢と共に低下するという前提)に換算すると、6.7年分に相当すると考察しています。つまり、仕事でのクリエイティビティを20%高めることができると、実際の年齢よりも6~7年若い時の健康状態でいられる可能性があるということですね。

クリエイティブな組織風土を作ることは、仕事の生産性や社員の成長を促す上で、とても重要ですが、それだけでなく、社員の健康管理という観点からも重要だといえそうです。

参考文献:
・https://news.adobe.com/news/news-details/2012/Study-Reveals-Global-Creativity-Gap/default.aspx
・トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー.(2014).クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法.日経BP社
・Tierney, P., & Farmer, S. M. (2011). Creative self-efficacy development and creative performance over time. Journal of applied psychology, 96(2), 277.
・Mirowsky, J., & Ross, C. E. (2007). Creative work and health. Journal of Health and Social Behavior, 48(4), 385-403.

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