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日常を悼む

通夜の代わりに歌謡を流し
読経の代わりに昔を語り
装束の代わりにポロシャツを着せて
喪服の代わりに普段着を着て

合掌の代わりに手を振りながら
父はすっかり灰になった

先祖の代わりに愛猫と並び
遺影の代わりに旅姿を掛け
位牌の代わりに想い出を灯し
線香の代わりに珈琲を淹れ

りんの代わりにカップを傾けながら
父はほどよくそこに収まった

  *

父の逝き先は
日常のほんの少し先を行った辺り
残った者は日常のなかで
日常を通して父を悼む

あとに残された父の業を
一つひとつこの眼で確かめ
父の辿った長く凸凹の道のりを
一つひとつ供養していく

かつて父が固く結んだ結び目を
一つずつほどいていくように
残った者をしずかに浸す澱のような結び目も
一つずつほどいていくように

日々の雑事に紛れて
時の流れも見えなくなる午後
父はすっかり日常へ収まっていく

珈琲の長閑やかな香りが口もとから
家の隅々へと流れでて
そっと暮らしを馴染ませるのにも似て



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